現役Jリーガー 大崎玲央選手が語る愛車への想い「ディフェンダー110の中には、僕の喜怒哀楽のすべてが詰まってる」
2023/02/01
海外や、Jリーグの数々のクラブでの輝かしい経歴を持ち、現在はサッカーJ1 ヴィッセル神戸で活躍中の現役Jリーガー、大崎(※)玲央選手。
日々の戦いから少し離れたオフの日は、どんな過ごし方をしているのだろうか。
シーズン中の戦いの中で見る顔とはまた違った柔らかい表情を、愛車・先代ランドローバー ディフェンダー110 SEとともに紹介する。 サッカー選手として大切にしていること、自分との向き合い方について迫った。
※大崎選手の漢字表記は、実際には“たつさき”です。
サッカーも車も「乗り越えた先」が楽しい
一般的には「値の張る車」に乗っている場合が多い、一流のプロスポーツ選手。筆者のごく勝手なイメージからすると、プロ野球選手はメルセデスのSクラスかレクサスのRXあたりに乗っていて、JリーガーはメルセデスAMGのGクラスに乗っていそうな気がする。
――という旨を述べると、ヴィッセル神戸のディフェンダー、大崎玲央選手は答えた。
「確かにGクラスに乗っている選手は多いですね。僕自身も、古いプリウスから今の車に買い替える際には『Gクラスにしようかな……?』とも思いましたし」
だが大崎選手は結局、それを選ばなかった。代わりに選んだのは、設計年次の古い先代ランドローバー ディフェンダーだ。
「メルセデス・ベンツのGクラスやジープ(ラングラー アンリミテッド)なんかも素敵だとは思うのですが、乗ってる人があまりにも多いじゃないですか? そこが個人的にはちょっと嫌で、よりレアな、たぶんJリーグの中ではほとんど乗ってる選手はいないはずの(笑)、先代ディフェンダーにしたんです」
今から6年前の2017年に、古いトヨタ プリウスに続く2台目の愛車として購入した先代ランドローバー ディフェンダー110 SE。ご存じのとおり、各国の軍用車や警察車両にも採用されている屈強なオフローダーだ。大崎選手のそれは2013年式のロングホイールベース版で、2.2Lのディーゼルターボエンジンが搭載されている。
購入時の走行距離はわずか約6000kmだったが、その後の6年間で走行距離は7万kmを超えた。
「基本どこへ行くにもこの車と一緒ですし、オフの日にはいわゆるアウトドアに出かけることが多いので、距離はあっという間に延びましたね」
シーズン中の休みは週に1日のみ。ヴィッセル神戸の練習場までは必ずディフェンダー110で行っているのに加え、ホームかアウェイかにかかわらず試合がある日も、集合場所までは必ずこの車で行く。
「や、ちょっとした買い物とかは電車で行くこともあるので『いつだって僕はこの車と一緒です!』というのは少し大げさかもしれませんが(笑)、でもそれに近いものは確実にあります。愛着が湧いてしまったというか、ディフェンダー110はもはや“自分の一部”であるような気もしていますね」
乗り心地は決して良くないという。そして高速道路での直進安定性も、街中での小回り性能も、ほめられたものではないとのこと。
「あと、走ってる最中は正直かなりうるさいですしね(笑)。でも、だからといって『もう嫌だ、買い替えよう』と思ったことは一度もありません。それは、サッカーをやっているとしんどいことも多いのですが、だからといって『もうサッカーはやめよう』と思ったことは一度もないのと、ある意味同じなのかもしれません」
1歳のとき、両親の都合によりハワイに転居し、4歳でサッカーを始めた。というか、活発で運動神経の良い子供だったからだろうか、両親は大崎選手にサッカーだけではなく水泳や野球、空手など、多くのスポーツや武道を習わせてくれた。
のちにサッカーJ1の選手になれるほどの資質を持っていた「大崎玲央くん」ゆえに、水泳も野球も空手も、おそらくは“かなり上手な子”だったのだろう。
「まぁ……そうだったかもしれませんが、でもその中でもまったく飽きずに、集中してやり続けることができたのがサッカーだったんです。ハワイの小学校に通っていた頃にはすでに『将来はプロのサッカー選手になりたい』と思っていました」
そして大学卒業後に北米サッカーリーグでプロ契約を勝ち取り、以降は横浜FC、徳島ヴォルティスと歩を進め、現在はJ1ヴィッセル神戸のDFとして、アンドレス・イニエスタ選手らとともに日々、ピッチの中で戦っている。
「でもサッカーを始めて27年、プロになって来年で9年目になるのですが、正直しんどいときの方が多いんですよ。ただ、それでもサッカー選手であることを辞めたいと思ったことは一度もない。そして最近は『しんどい』とも思わなくなりましたね。いや試合も練習もめっちゃしんどいのですが(笑)、そのしんどさが逆に心地よい――とまでは言えませんが、『……ここを乗り越えた先に“歓び”があるんだよね!』と、この年になって思えるようになってきたと言いますか」
車は気持ちを消化し、次へ進むための大切な空間
J1の舞台で戦うプロ選手がどんなことを乗り越えねばならないのかは、一介の元草サッカープレーヤーでしかない筆者には想像もつかない。だが、選手であり続ける日々の中には相当なレベルのキツさや悔しさのようなものがあるはずだと、おぼろげにイメージすることはできる。
「……そうですね。キツいことも悔しいことも、正直多いですよ。で、試合で悔しいことがあった後も僕はおおむね必ずディフェンダーを運転中なわけですが、その際に、スポ根ドラマみたいに『ちきしょう!』とか叫んでステアリングホイールを叩いたりはしません(笑)。運転しながら静かに悔しさを反すうする――みたいな感じでしょうか」
プロスポーツ選手のリアルは、ドラマやマンガとはちょっと違うらしい。だが静かに反すうするからこそ、悔しさやツラさはよりいっそう際立つような気もする。
「ですね。でもね、運転が終わってディフェンダーから降りれば、もう大丈夫なんです。気持ちは十分晴れてるというか、消化できているというか。だから、このディフェンダー110の中には僕の喜怒哀楽のすべてが詰まってる――と言えるかもしれません。サッカーという競技がもはや自分という人間の一部になっているのと同じように、この車も、もはや“自分の一部”なんですよ。だから……移動やアウトドアでガンガン使ってどれだけボロくなったとしても、売却するつもりはありません。最後まで、乗り潰します」
ピッチ上で相手方攻撃選手が持つボールを狙う際の目とは少し異なる、優しさと強さが入り混じったような目で、大崎玲央選手はそう言った。
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。