12年後の増築で、再び完成したガレージハウス【EDGE HOUSE】
2022/02/28
白いコンクリート壁が印象的なガレージハウス。実は一度完成した後に、増築して今のカタチになった。そう言われなければわからないほど現在の姿に増築感はないが、最初から計画されていたわけではない。しかも施主が建築家に注文したのは「水盤が欲しい」とだけ。以前はどのような家だったのだろうか。
かつてのガレージには、ゲストを迎える役目があった
このガレージハウスは2度完成している。1度目は2009年に、2度目は2021年だ。最初は建物正面から見て、ガレージのある左側のみだった。
「奥に細長く延びた敷地でした」と施主のMさん。そこは実家の庭だった場所。母親から一人では庭の手入れも行き届かないから、ここに家を建てないかと誘われたそうだ。
ただでさえ親の一人暮らしが心配だったMさんは、それなら安心だと考え、建築家を探した。しかし、彼が暮らす愛媛県内ではピンとくる人がいない。そこでもう少しエリアを広げてみると、主に山口県で活躍している建築家の窪田勝文さんを見つけた。
窪田さんの手掛けた家へ何度か訪れるにつれて、ますます窪田作品に魅了されていった。しかしMさんは、そうやって自分の希望する家のイメージを固めたわけではなかった。「私からは何も注文しませんでした。自分から要望を出すようでは、自分の想像力を超えるものは出てこないと考えていましたから」とMさん。
唯一リクエストしたのは「水盤が欲しい」ということ。なぜか昔から池や水辺が好きだったという。窪田作品には数々の名水盤が備わることが多いが、それを見てさらに欲しくなったのかもしれない。一方の窪田さんも施主に何も聞かない。会うたびに家とは関係のない話をする。それが窪田流。
そんなやりとりから、施主に合う家のイメージを探っていく。果たして出来上がった最初のガレージハウスは、施主の希望どおり「想像をはるかに超える」ものだった。
玄関のドアはガレージ脇にちょこんと付いている。ゲストはおのずと暗がりのガレージを進む。奥から差し込む唯一の明かりに誘われるようにさらに進むと、次第に周囲が明るくなり、ついに頭上に空が広がり、足元には水盤がきらめく空間が現れる。その先の大きなガラス越しに白いLDKが見えて......という具合。
まるで木々の生い茂る暗い森を進んでいくと、空の抜けた水辺があった、そんなイメージだ。最初のガレージハウスは窪田さんと施主にとって、100%の完成形だった。それから月日が経ち、母親が亡くなり、実家部分を相続したMさん。今度は窪田さんに増築を依頼する。
しかし当初、窪田さんは「増築しても、とってつけたようにしかならない」と渋い顔をしたという。それだけ完結していたガレージハウスだったということだ。
それでも施主の熱意から、何か方法はないかとあれこれ探ってみた。するとガレージ脇に玄関通路を備えることをイメージをしたあたりから徐々に、それこそ暗い森の先に明るい水辺が出現したごとく「完成形が次第に見えてきた」という。
こうして2021年、ガレージハウスは再び完成した。「まるで最初から増築を想定していたように、いろいろなことが上手くいった」と窪田さん。もちろん今回もまた施主の「想像をはるかに超えたガレージハウス」となった。
■主要用途:専用住宅
■所在地:愛媛県松山市
■構造:RC造
■敷地面積:533.83m²
■建築面積:272.02m²
■延床面積:278.01m²
■設計・監理:窪田勝文(窪田建築アトリエ)
■TEL:0827-22-0092
※カーセンサーEDGE 2022年4月号(2022年2月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています