Bay Garage▲お話を聞いたのはBay Garage代表取締役である宮崎さん。悠々自適なオシャレ中古車屋さんの現在からはとても想像できない人生経験をし、それを生かしたビジネススタイルでお客さんの心をしっかりとつかんでいる。それにしてもその波瀾万丈ぶりが……すごい

「なぜこれでビジネスが成立するの?」「HP見た感じ怪しい気がするんだけど……」などなど。車業界の中で思わず「なぜ?」と思ってしまう不思議な現象に小沢コージが迫ります。

今回は「海が似合う車」を扱うという、ありそうでないスタンスの中古車販売店Bay Garageさん。真っ白いオシャレな店舗、店裏には桟橋と船着き場、完全予約制……と、謎だらけ。そして、お話を聞いたら……驚きの連続でした。
 

実はあり得ない人生が生んだあり得ない車屋だった?

不躾小沢も今や自動車ライター生活30年、ひさびさ完全想定外! あり得ない店に出会ったぜ。ソイツは追浜『Bay Garage』。

売り物は基本輸入オープンカー。オーナーの宮崎滋男さんいわく「上質で海が似合う車」だそうで具体的には10年前後落ちのボルボ C70、BMW 335iカブリオレなどを売るセレクトショップ的お店で、コンセプトだけでも普通じゃないのに、さらに立地がすごすぎるのよ。

外観はLA辺りにありそうな白塗り工場跡地風で、店内も撮影スタジオ的に超オシャレ。実際車以外のオリジナル服やサングラス、ガジェット類を売ってる他、店裏が仰天でなんとリアルヨットハーバー!

「市営ですけどね(笑)」とオーナーは謙遜するが正真正銘の深浦ボートパークで、「たまに船で車買いに来る人がいますよ」というオマエはトレンディドラマか? って舞台設定。店裏から竹野内豊か反町隆史でも出てきそうなムードなわけですよ。

オマケに宮崎オーナーは、約10年前にサンディエゴから帰国した英語ペラペラのバイリンガル。てっきり映画『私をスキーに連れてって』などを作ったホイチョイプロダクション的な、成蹊や成城などお坊ちゃま大学卒の社長かと思いきや全然違うからまたびっくり。

出身はここ横須賀周辺で高卒、しかも車好きなのでその後日産ディーラーに入り、日産最年少で1級整備士を取ったベタな車好きだそうな。ただし、そこからが超波乱万丈で、お次にマニアックなR34スカイラインを扱う車屋に入り、2005年頃に仕事でアメリカに行ったらそこが気に入っちゃって「英語もろくにできないのに」シアトルに突如移住。

午前中は語学学校に行き、午後は車を直すという生活を約1年敢行。その後、寿司屋やカフェのバリスタとして働きつつ、ウェブデザインのカレッジに入り英語を鍛え「一時は貧乏すぎて拾ったパンまで食ってた」と笑い飛ばすリアルヒッピー系だったのです。
 

Bay Garage▲お店は、横須賀の深浦湾にある「よこすか・ふかうら海の駅」のすぐ隣。外観はパっと見て中古車屋さんには見えず、予約制なのでシャッターが下りていることも多い。店内は白で統一されたなんともオシャレなショールーム。車の横でアパレルの販売も……。謎が深まる要素がてんこ盛りである
Bay Garage▲こちらがお店のすぐ裏手の風景。取材時はあいにくの空模様で雰囲気が伝えられないのが誠に残念ではあるが……。お客さんの中には、すぐ隣の横須賀市立深浦ボートパークに係留できるということで、船でやってきてたツワモノもいるのだという

子供ともっと過ごしたい! が真のきっかけ

その後はサンディエゴに移住して順調に日系車専門の車屋で働き、日本人の彼女もできて楽しくやってたが、2年後にはひょんなことから日本に帰国。英語力と自動車知識を生かしてアストンやマセラティを扱う超都心の高級輸入車販売店に就職して、これまたそれなりに上手くやっていた。

ただ、ここでも満足できなかったというか、また大変身するから面白い。帰国後約3年はアパート暮らしだったが、現店舗となる2階住居で1階がガレージになる魅力的物件をたまたま追浜で見つけてしまって人生が動く。

ここがあまりにキレイで居心地よかったのか、今から約5年前に週末だけの車屋を始め、試験的にBay Garage的コンセプトを試していたのだが、それが100%軌道にものってないのに「子供といる時間をもっと増やしたい」という理由で2年前に完全独立。今のビジネススタイルを完成させちゃうのだ。

もちろん、当初はそう簡単に「海に似合う車」が売れるわけではなかった。だが、この良質輸入オープンカーセレクトは、まず都心住まいの外国人にウケて自慢の英語力もあり徐々に浸透。同時に、お金持ち日本人ユーザーのセカンドカー需要をも捉え始め、今ではコンスタントにボルボ C70、BMW 335iカブリオレ、アウディ TT、ボルボ 850エステートが売れてるというのだ。

ちなみに、オリジナル服やガジェットは宮崎流Bay Garageコンセプトに賛同した友人が置いているもので「ボチボチ売れてきてますね」というからなかなかのモノ。

正直、こんな絵に描いたような中古屋を実現させるのは、よっぽど酔狂なお金持ちかエンスーかと思ったら全然違いました。まさに度胸一発人生! オシャレな車屋の店主は、なんの後ろ盾なくとも突如アメリカに渡れるようなワイルドで相当に無鉄砲なオトコだったのです。

人生、聞いてみないとホントわかりませんわ(笑)。
 

Bay Garage▲お店の裏手にはリラックスできるスペースを用意し、仲間を呼んでここでホームパーティーを開催する……と聞くとなんか異世界の話に聞こえるが、宮崎氏と会話をすると不思議と参加してみたい雰囲気に。気取ったパーティーではなく、仲間と海を見ながら楽しんでるシーンが容易に想像できる
Bay Garage▲お店に対して疑問を抱く理由のひとつがこうしたアパレル関係やアート作品の展示物。入った瞬間「このお店おかしい!」と感じさせる。でも、話を聞いて好印象なのは、そこに「お金儲け」的なにおいがまったくしないからなんだろうなぁ
Bay Garage▲コンセプトは海が似合う車。内外装色が艶やかな4座のオープンカーを中心にラインナップ。ちょっと古いアメ車やボルボ 850あたりを今後は積極的に扱っていく予定だという
 

■取材協力:Bay Garage
■住所:神奈川県横須賀市浦郷町2-91-7
■営業時間:10:00~18:00(予約制)
■定休日:月曜日(早めの予約にて営業時間外の対応可能)
■TEL:0078-6002-397872

文/小沢コージ 写真/Bay Garage、編集部