house TT ▲周囲に田畑の広がるのどかな住宅街の一角に、三方を道路に囲まれた円形のガレージハウスが建っている。「藍住 BASE」と名付けられたその家は、いたるところに遊べるスペースがあり、ガレージハウスを夢見る趣味人たちがうらやむような秘密基地だった

施主の多様な趣味を円形状の家が包み込む

写真の2台以外にもリフトアップしたスズキ ジムニーを所有しており、ガレージには2台のオフロードバイクと1台のオンロードバイク、1台のマウンテンバイクも……。他にも釣りやキャンプの道具が収まる壁の収納を見れば、施主が様々なアウトドアを楽しむ趣味人なのだと想像がつく。

さらにオーディオやラジコンなども大好きだという。「竣工時点ですでに、多彩な趣味を楽しまれている方でした。今後も新しい趣味を楽しんでいかれるようです」と建築家の藤原慎太郎さんは言う。

そんなバラエティ豊かな趣味をすべて楽しめ、さらに自宅でバーベキューができて、愛犬を走らせることもできる家、というリクエストに対し、藤原さんが提案したのが円形のガレージハウスだ。「円形にすることで、屋上をラジコンのサーキット場にできると考えました。

それに円形なら敷地の四隅に余白が生まれます。その余白がバーベキュースペースや愛犬のドッグランになります」余白の使い方は、これだけ多彩な趣味を楽しむ施主のことだ、新たな"遊び"を思いつくかもしれない。敷地の四隅だけでなくガレージ前にはイスを並べて友人と語らう程度の広さもある。
 

house TT ▲屋上はラジコンを周回させたり、コースを作って走らせたりできる他、最近はテントを張って流星群を見たりして楽しんでいるそう
house TT ▲写真中央に見える、壁に備えられたタラップを上ると屋上へと出られる。いかにも基地らしい、遊び心のある秘密の階段だ
house TT ▲ガレージ脇にある大きなガラス扉が玄関のドア。その先はアプローチとバイクなどの駐車場、ボルダリングもできる多機能スペース
house TT ▲オフロードバイクなどが収まるエントランス。壁のボルダリングは、プランニング中に「壁があるなら」と急きょ備えることにしたそう
house TT ▲シューズ類が収まる写真左手の収納棚だけでなく、正面の上に見えるバイクのヘルメットを収めたショーケースも施主が自ら造作したもの

また、ガレージ内も後から自在に棚などを備えられるようにしてあるし、照明の位置も自在に変えられる。そんな具合に、あちらこちらに"余白のある家"なのだ。今後の施主の遊び心の変化にも柔軟に対応できる円形のガレージハウス。その中央には中庭がある。各部屋へ風や光を届けるのはもちろんだが、バーベキューを楽しめるもう一つの場所でもある。

「キッチンで作った料理をサッと持ち出して、好きな場所で食べて、お酒を飲みたい」という施主の願いを叶えるため、 特にキッチン~中庭~玄関が一直線になるようにこだわったという。出来立ての料理を中庭のウッドデッキでも、外の芝生の上でも好きな場所で味わえる。中庭にあるタラップを上れば、屋上で星空を眺めながらお酒も飲める。

夢を100%叶えるプランを練り上げるまで、施主とは1年以上もやりとりを交わしたという。おかげで施主の遊び心を家全体に表現できたと藤原さん。

「こういうケースはなかなかありません」。たいていは妻の要望が優先され、夫の夢は縮小を余儀なくされるからだ。そんな妻の広い心があったからこそ叶えられた"秘密基地"。円形という見た目よりも、もしかしたら「夫の夢を100%叶えられた」ことの方が珍しいかもしれない。
 

house TT ▲玄関の反対側にも、玄関と同様の大きな出入り口がある。これもまた、キッチンからすぐ外へ出られるようにする動線の一つだ
house TT ▲アウトドア志向の施主に合わせて、リビングやダイニングの床はオーク材のフローリングに、キッチンは大判タイルが敷かれている
house TT ▲玄関ドアがガラス扉なので、外からキッチンが丸見え。開放感はあるが、家族の理解がなければ、こんなプランはなかなか実現できない
house TT ▲円形ゆえ、壁に曲線が生まれる。それを生かして、黒い床と白い壁をキャンバスとした光のグラデーションが、暮らしに彩りを添える
house TT ▲ウッド製のダイニングセットの備わるキッチン。キッチンの奥にある、いわゆる勝手口には大きな曇りガラス製の扉が備えられている

■所在地:徳島県板野郡藍住町
■主要用途:専用住宅
■構造:木造軸組構法
■敷地面積:319.69 ㎡
■建築面積:170.01 ㎡
■延床面積:168.41 ㎡
■設計:藤原慎太郎・室喜夫(藤原・室 建築設計事務所)
■TEL:06-6761-5577

※カーセンサーEDGE 2021年6月号(2021年4月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/矢野紀行(矢野紀行写真事務所)