▲3台の車を横に並べられること。そしてガレージに柱がないことにこだわったという。さらに、約10台のオートバイが保管できることと、趣味の作業場を確保することが最大の希望とのこと。加えて、当時はお母さまと同居していたため二世帯住宅であることと、奥さまの希望で十分な収納スペースを確保することも久間さんにお願いしたという。もっと細かい点では、外観はできるだけモノトーンにしたいということと、作り付けの家具にこだわりを持ったそう ▲3台の車を横に並べられること。そしてガレージに柱がないことにこだわったという。さらに、約10台のオートバイが保管できることと、趣味の作業場を確保することが最大の希望とのこと。加えて、当時はお母様と同居していたため二世帯住宅であることと、家内の希望で十分な収納スペースを確保することも久間さんにお願いしたという。もっと細かい点では、外観はできるだけモノトーンにしたいということと、作り付けの家具にこだわりを持ったそう

ヨタハチは37年、シティ・カブリオレは31年愛用

自宅の半分近いスペースを、自分の趣味に使えたら…。とくに仕事をリタイアし、これから趣味の時間をもとうという諸兄にとっては夢のような話だろう。

今回訪れたY邸は、そんな憧れの世界を実現した好例だ。とはいえ、お金にものをいわせてバブリーな邸宅を建てるというのでは珍しくない。このY邸が、限られたスペースの中で、家族や建築家との十分なディスカッションを経てデザインされている点に注目したい。

場所は東京都練馬区。池袋から私鉄で10分ほどの距離、緑豊かな古くからの住宅街だ。周辺は狭い路地が入り組んでおり、大型車には厳しい環境。ナビゲーションの案内どおりに路地を抜けていくと、小さな商店街の裏手にY邸はあった。角を曲がって正面に現れたY邸は、他の住宅とは明らかに違う外観をもっていた。1階のガレージには蛇腹式のガラス窓を使っているため、そこに並ぶ3台はいやでも通行人の目に入る。その3台は名車トヨタ S800、今では希少なホンダ シティ・カブリオレ、そしてトヨタ プリウスという布陣である。

見上げると、ガレージの真上にも部屋があることがわかり、そこに設けられた横長の窓からは「発電機?」と思われる赤い小さなボックスがいくつも並べられている。小さなエンジンらしき物体も見える。さて…?

ガレージ前のガラス扉を開放してもらうと、これだけ横に広い間口でありながら、柱が1本もないことに気づく。これは「コンクリートボックスカルバート」いう工法で、「愛車を3台横に並べられる柱のないガレージに」というYさんの希望を、建築家の久間常生さんが実現したもの。

ハイブリッド構造により実現した趣味のガレージと工房

「コンクリートボックス構造に、木造を組み合わせる混構造をベースとした“ハイブリッド住宅”です」と、久間さん。具体的には、基礎部分と中2階が鉄筋コンクリートのボックスカルバート構造で、2階と屋根が木造となっている。

ガレージ自体は、建ぺい率の関係で道路からややセットバックしているため奥行きはプリウスでギリギリ。また天井の高さも、身長180㎝のリポーターでは少し屈まないとならない。これは、周辺の日照に配慮しつつ、実質3階建てを実現するための手法。このガレージの上には、じつは2つのフロアが存在するというわけだ。

ガレージ内の動線は、人1人がやっと通れる程度。そのままガレージ後方に回ると、上方向に広く開口部を設けたシャッターが備えられている。

「2階の作業場に置いてあるオートバイを出し入れする際に、階段にラダー(はしご)を敷き、このシャッターを開けて一度庭に出すのです」と、施主のYさん。シャッターを開けてもらうと、奇麗に手入れされた庭と、L字型の家の様子が窺える。

グレーチング製の階段はガレージの真上へと続いていて、扉を開けるとそこは小さな工場と呼べるような空間が。先ほど、表から窓越しに見えた赤い小さなボックスは、やはり発電機。これはホンダ製のE300型というタイプで、Yさんがオートバイとともに趣味として集めているもの。工房を見渡すと、そこにはコンパクトなオートバイが所狭しと並べられている。歴代モンキーをはじめ、モペットやスーパーカブ、ダックス、ヤマハ・ポッケなども勢揃い。どれもすぐに走れるコンディションに整えられているというから見事だ。

ここには、ひととおりエンジンの分解整備から塗装までできるツール類が揃っている。注目は「部品が足りなくなって作業を中断するのがいやだから……」と膨大な量のパーツ類やボルト&ナット類が丁寧に整理されていること。Yさんの几帳面な性格と、趣味に対する思いの深さが伝わってくる。

モノを大事にするYさんは、車の所有歴も長い。ヨタハチは自身が初めて買った車で37年間愛用している。駆動系はもちろん、ボディペイントさえもDIYだ。シティ・カブリオレは新車で購入し、すでに31年が経つ。2人のお嬢様が幼い頃は、このカブリオレに家族4人が乗りスキーにも出かけたという思い出深い1台だ。プリウスはまだ新しく、それまで所有していたアルファ147は、「家内が乗りにくい」と言うもので、ストレスのないプリウスに買い替えたそうだ。いたってアナログな雰囲気のガレージや工房とは対照的な存在である。

「1日も早くオートバイをいじって遊びたかった…」という思いから、勤めていた企業を早期退職したYさん。この家ができるまでは、屋根のない自宅ガレージを工房とし、「作業を始める前の準備と、後片付けが大変でした」という環境から考えると、今は夢のような毎日だという。

▲2階リビングルームに続く階段から、ガレージと玄関方面を見る。控えめに設えた引き戸が、趣味の世界への扉となっている。静謐な玄関まわりからは、男っぽい工房の雰囲気はみじんも感じられない ▲2階リビングルームに続く階段から、ガレージと玄関方面を見る。控えめに設えた引き戸が、趣味の世界への扉となっている。静謐な玄関まわりからは、男っぽい工房の雰囲気はみじんも感じられない
▲歴代モンキーをはじめ、レアなスモールバイクがズラリ。すべて自身の手でメンテナンスをし、いつでも出動可能なコンディションに整えられている。窓際に並べられている赤いボックスは“ホンダE300”発電機 ▲歴代モンキーをはじめ、レアなスモールバイクがズラリ。すべて自身の手でメンテナンスをし、いつでも出動可能なコンディションに整えられている。窓際に並べられている赤いボックスは“ホンダE300”発電機
▲37年間愛用しているヨタハチと、新車から31年間日常の足としているシティ・カブリオレ。ガレージは前面・後面ともに自然光が入る作り。裏側のシャッターは庭に通じている ▲37年間愛用しているヨタハチと、新車から31年間日常の足としているシティ・カブリオレ。ガレージは前面・後面ともに自然光が入る作り。裏側のシャッターは庭に通じている
▲中2階工房の全景。天井の高さはガレージ同様、低めに設計されている。ありとあらゆるツール類が揃えられ、スペアパーツなどは細かく整理・保管されている ▲中2階工房の全景。天井の高さはガレージ同様、低めに設計されている。ありとあらゆるツール類が揃えられ、スペアパーツなどは細かく整理・保管されている
▲ヨタハチの後ろには、1963年式スーパーカブやダックスなどが並ぶ。周辺の日照を考慮して道路からセットバックしているため、ガレージの奥行きに余裕はあまりない ▲ヨタハチの後ろには、1963年式スーパーカブやダックスなどが並ぶ。周辺の日照を考慮して道路からセットバックしているため、ガレージの奥行きに余裕はあまりない
▲庭からY邸を見た様子。右手は2階建てで左手が実質3階建てとなる。右手1階は亡くなられたお母さまの部屋で、庭の木々を眺められるようにと設計されたもの ▲庭からY邸を見た様子。右手は2階建てで左手が実質3階建てとなる。右手1階は亡くなられたお母さまの部屋で、庭の木々を眺められるようにと設計されたもの
▲工房へ続く階段の下には、ヨタハチのエンジンやボンネットなどのスペアが収納されている。階段下に駐車する際には、㎝単位の車両感覚が要求される ▲工房へ続く階段の下には、ヨタハチのエンジンやボンネットなどのスペアが収納されている。階段下に駐車する際には、㎝単位の車両感覚が要求される

【自宅内に夢の工房をもつ家】
■こだわった点は「男のガレージライフ空間と家族の空間の両立。そして愛車の並列駐車を実現するためのハイブリッド構造形式」だ。ハイブリッド構造とは、コンクリート打ち放しの「箱状無柱空間」のガレージと中2階の工房を実現するために、コンクリートボックス構造と木造を組み合わせる混構造のこと。機能性だけではなく、異なる2種類の手法がひとつになることで、瀟洒なデザインをもつ外観となっている

■主要用途:専用住宅
■構造:鉄筋コンクリート造+木造
■敷地面積:169.88平米
■建築面積:80.35平米
■延床面積:192.56平米
■設計・監理:久間常生(久間建築設計事務所)
■tel:0422-28-1991

text/菊谷聡
photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 2015年4月号(2015年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています