昭和時代の商店がユニークなガレージに変貌

商店街の一角にあった空き店舗を利用してガレージハウスへと変貌させる。そんな新築よりもローコストで理想の暮らしを手に入れたコンバージョンの好例をリポート

建物内部に広がるシックでクールな空間

訪れたのは、東京都心にほど近い名刹の門前町。小さな商店が軒を連ねる街並みを歩くと鰻屋、寿司屋、煮豆屋、団子屋、呉服屋など、時代を感じさせる佇まいが多い。『シャッター商店街』と呼ぶにはまだまだ活気があるが、すでに営業をやめたと思える店も点在する。

「物件探しが、まるで宝探しのようで楽しいんです。街並みも違って見えるから不思議ですよね」

川田さんはいう。その結果見つけた物件、外観はご覧のとおり。シャッターを閉めれば、通行人は誰ひとり立ち止まることはない。目立たずに街に溶け込みたい…という向きにはもってこいの趣で、隠れ家とかアジトとかいう表現がピッタリだ。

菓子屋だったという1階は、ガレージスペースがほとんどを占める。川田さんの愛車、フィアット・パンダがジャストサイズだ。入って右手の1段高い白いコンクリートフロアがソファスペースに。その並びにはバスタブが併設されている。どちらも愛車を眺めながら…という趣向だが、バスタブはその機能性よりも訪れた人へのサプライズという印象が強い。

ソファに腰かけてみると、屋内は必要最小限の補強と装飾にとどめられていることがわかる。

「この家は、築40年以上らしいんですが、最初は2階に上がると揺れました(笑)。じつは1階の白いコンクリート部分は基礎なんです」

本来地下にあるべき基礎部分を、あえて屋内に露出させる。そこに色付けをして存在感をもたせアクセントとしている。その向かい側は、ガリバリウム鋼板の壁。小さな光量の照明が波状の表面に反射する様子は、まさに『アジト』。タバコの煙をくゆらせたなら、絵になることだろう。

リフォームをしているとはいえ、コストは最小限。床や天井、柱や階段などは40年以上前の姿がそのまま残されている。20~30歳代の人にとっては、ただ古いだけの建物かもしれない。しかし40歳以上の人にとっては、子供の頃に友人宅を訪れたときのような、郷愁にも近い感覚を抱くはずだ。それは、居心地のよさにもつながり、『隠れ家』や『アジト』としては必須の要件といえるかもしれない。

聞けば、イニシャルコストは200万円前後に抑えることも可能とのこと。空き店舗を前提とした家賃を考慮するならば、「3年も住めば元がとれますよ」と川田さんが言うとおり、かなりお得な賃貸物件といえるだろう。川田さんの『新しいライフスタイルの提案』に乗る潜在的なユーザーは、きっと多いはずだ。

私ならば、冒頭述べたガラクタ倉庫にある一式をこちらに移し、日常から非日常へとスイッチを切り替える場所にする。週末だけ過ごすもよし、架空の出張を増やすもよし…。そんな少しドキドキする時間こそが、今の時代最高の贅沢かもしれない。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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コンバージョン前の2階の様子。現在と間取りはそのままだが、純和風な作りで時代を感じさせるものとなっていた

ロールスクリーンを使って、LDK奥のキッチンは隠すことができる。カーテンを巧みに使うことで、シーンに応じた雰囲気を作り出す

下目黒K邸
建築家:川田健太郎

ブリコルール一級建築士事務所
tel.03-5773-8910
http://www.bricoleur.jp

所在地:東京都目黒区 主要用途:住居
家族構成:1人
構造:木造 規模:2階建 
敷地面積:29.0㎡ 延床面積:46.0㎡
設計・監理:ブリコルール一級建築士事務所/川田健太郎