akari庵+筒井紀博(前編)

周囲の環境から隔絶され、美しい空間を内包する白亜の家

住宅地のなかで、異質ともいえる存在感をまとう「akari庵」。白亜の壁に囲まれたその家に一歩足を踏み入れると、周りの環境とはかけ離れた、豊かで趣味性の高い空間が広がる。

「akari庵」と名付けられたその家は、そこだけ異空間のような、独特の雰囲気を醸し出していた。それは、目を奪う白亜の外観によるものなのか、それともオモチャ箱から飛び出してきたような愛らしい2台のクルマが発するものなのか。

設計は、新進気鋭の若手建築家である筒井紀博さん。施主(以下Kさん)からの最初のオーダーが、一風変わっている。

「もともと、知人の紹介なんですが、彼曰く、変わった人だから筒井じゃないとダメ…という内容でした。Kさんにお会いして依頼された内容は、周囲の環境や隣接する家の壁などをすべて排除してほしい。つまり、それらを眼にすることなく美しいモノだけに囲まれて生活したい、かつ邸内をギャラリーのようにしたい、というものでした」

なるほど、そんなKさんの意向が十分に反映された結果、建築そのものが独特のオーラを発していたのかもしれない。Kさんは絵画や彫刻、写真など多趣味な方で、自宅には家具のコレクションをはじめ、自身でデザインした照明類など、邸内のどこを見てもこだわりのあるライフスタイルが確立されていることがわかる。

STYLE COAT

「ギャラリーのような…という言葉が印象に残っていたので、建築が主張しすぎてはいけないと思いました。そこで、この家に飾られるであろうモノや、生活する人が主役となる設計をしました」

加えて、ここにはいくつかの「仕掛け」が施されていて、それこそが筒井さんが手掛けた「作品」らしさでもある。

「建築自体で人を感動させることは、難しいと思っています。そこで、人が生活することで得た経験によって感動してもらうことができるんじゃないかと…。そのための『仕掛け』です」

具体的にはどのようなものだろう?

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「たとえば、光の演出で、ある時間帯だけ室内に独特の影ができるとか。それを、あえてKさんには伝えずにおいて、いつか気付いてくれるだろうと思うわけです。竣工した瞬間だけ美しい空間ができあがっても、それを建築とは捉えていません。建築は、歳月とともに美しくなっていくものだと思うので、1年後、2年後に、へえ、こんな部分があったんだ…筒井はここまで考えていたんだ…というものを仕掛けておくのです」

ちなみに「akari庵」という名は、この光と影の演出に因んでいる。では、ガレージはどんな視点で設計をしたのだろうか。Kさんは、ポルシェ 356AスピードスターとVWビートルという、素敵な2台を所有している。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・郡 大二郎 photos / KORI Daijiro

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庭よりも一段低いガレージに収まる2台の愛車。本宅から庭を通り抜け、ガレージに降りてクルマへと乗り込む

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1階のリビングから2階へは真っ白な螺旋階段を上る