茶畑の家 + 廣部剛司(後編)

世界初の工法を用いたアルファ乗りの棲み家

建築家もオーナーも、根っからのアルファ乗り。クルマ好きがクルマ好きのために設計した家。そこは、まるで秘密の隠れ家のような「人が暮らせるガレージ」だった。

「ガレージの存在を知らない人が玄関から入ったときに、驚くような作りなんです」とは廣部さん。

玄関左手にはテーブルセット、バイク用のヘルメットやグローブを収納する棚などが置かれ、窓越しに茶畑を望むことができる。友人と愛車を眺めながらクルマ談義に花を咲かせるには最適だ。ガレージのあちらこちらには、アルファロメオ絡みの小物がさり気なく置かれ、愛車に対する思い入れと家への愛着が感じられる。

都心の気温が35度以上という日であったにも関わらず、ガレージを吹き渡る風は爽やかで、一気に汗が引いていく。このヒンヤリとした空間は、まるで日本家屋の土間のような雰囲気をもつ。クルマもバイクもイタリアンで、調度品も洋風であるにもかかわらず、「和」を感じさせている。そこには安心感や落ち着きがあり、涼やかな風とともに「いつまでも身を置いていたい」と思わせる。

圧巻は2階リビングルームからの景色。茶畑を見渡せることが設計条件のひとつだったというだけあり、全開放すると6mという広いスパンをもつ窓から見る景色は、じつに雄大。茶畑とは反対の南東側の窓を開け放つと、部屋を流れる風の心地よいこと。そんなリビングルームに身を置いて、気付いたことがある。それは、家の中のどこにも柱がないこと。そして、住宅の外寸と内寸がほぼ一致しているということだ。 「この家には、世界初のWTP工法が用いられています。木材を料理でいう“カツラ剥き”のように薄く削り、それを重ね合わせた100mm厚の板で壁面や床面を構築しているのです」

この工法のおかげで、外観とほぼ同じサイズの室内空間が実現した。さらに、断面を剥き出しにした壁が独特の存在感と質感を放つことで、廣部さんが目指した「装飾しないデザイン」が生み出されたのである。  ほとんど条件を提示せずに設計を依頼、かつ過去に実績のなかった新しい工法に理解を示したGさん。そして、その思いを十分に理解し設計に反映させた廣部さん。まさに、同じアルファロメオを愛する二人の感性が一致した結果の建築である。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hiromichi
取材協力・廣部剛司建築設計室(http://www.hirobe.net/

6mというスパンをもつ窓を開け放つと、緑を渡る風が部屋を抜けていく。薪ストーブは、廣部さんのオリジナルデザイン。普通の薪がギリギリ入るコンパクトサイズにこだわった

茶畑の家
所在地:埼玉県所沢市/主要用途:専用住宅/家族構成:1人/構造・規模:壁式木質厚板構造(WTP)・2階建て/設計:廣部剛司建築設計室/敷地面積・延床面積:198.38平方メートル・114.80平方メートル