▲2012年に発売が開始されたCX-5以降、3代目アテンザ、3代目アクセラ、4代目デミオと立て続けにヒット作を送り出したマツダ。3代目アクセラも、ひと目見ただけでマツダの車であることがわかる ▲2012年に発売が開始されたCX-5以降、3代目アテンザ、3代目アクセラ、4代目デミオと立て続けにヒット作を送り出したマツダ。3代目アクセラも、ひと目見ただけでマツダの車であることがわかる

世界でも躍進を遂げているマツダのブランド戦略

マツダの快進撃が止まらない。2012年に発売が開始されたCX-5以降、3代目アテンザ、3代目アクセラ、4代目デミオと立て続けにヒット作を送り出したマツダ。いよいよ今年発売される4代目ロードスターは、ヒット作の連鎖で盛りあがる期待の中という、フラッグシップカーにとってこの上ない舞台に上がってくる。才気あふれるステージ脚本家の描いたショーストーリーは、いよいよの真打ち登場を控えたこの瞬間まで、完璧な成功を収めている。

多くのオーディエンスを陶酔させているマツダのこのストーリーには、大きな特徴がある。それは物語の主舞台が欧米にあることだ。その証拠に、スカイアクティブテクノロジーを全面に盛り込み刷新された前出の一連のモデルに、ミニバンは存在しない。北米では圧倒的なSUVと根強いセダン、ヨーロッパでは定番のハッチバックとステーションワゴンというのが、人気の相場。欧米であまり人気がないコンパクトなミニバンは、ひとまず置いておいて、という位置づけになっているわけだ。

そしてミニバン抜きでしたためられたこの物語が、欧米での高評価を後ろ盾にしたグローバルなマツダブランドの確立というクライマックスに向かっているだろうことに、勘のいいオーディエンスは気づきはじめている。

ひと目でマツダの車とわかることの大きな意味

そもそもマツダは、乗用車の全生産台数の8割以上を海外で販売する、海外市場への依存率が国内でもっとも高い自動車メーカーだ(2013年実績)。その内訳は、北米が45%、ヨーロッパが24%、残りをオセアニア、アジアなどの各地域で分け合う。このような背景を知りつつCX-5以降のマツダ車を観察すると、マツダの各モデルに共通して込められた特徴、神髄は、日本のユーザーにも感じ取りやすくなる。

それが如何なるものか。例えばマツダの最多生産モデルであるアクセラを試せば一目瞭然だ。

ひと目でマツダであることがわかるデザインを纏っていること。

なんだ、そんなことかと思うかもしれない。けれども、マツダの目指すところが、グローバルブランドの確立であるならば、これは文字どおり見逃すことのできない特徴である。“魂動”と銘打たれた新世代マツダのデザインは、実はフロントマスクの意匠などディテールの共通性を謳ったものでなく、車全体から伝わってくるアイデンティティの表現に筋を通した“志”に他ならない。

結果として特徴的な表情にマツダ車ならではの趣が感じられることは、値頃感を優先した競合モデルとの比較という消去法による選択の枠から抜け出し、マツダのラインナップの中からライフスタイルや予算に応じた1台を選ぶという、いわばマツダのファンを獲得するための重要なポイントだ。その成果は即効性よりも、むしろ5年後10年後にしっかりと効いてくる。

メーカー名、ブランド名が購入動機の筆頭に上がってくるような世界のプレミアムカーは、その佇まいのアイデンティティを全身で表現し、小さなブランドバッチが外されたとしても、ひと目でそれと認識できる。

磨きこまれた走行性能がアイデンティティを支える

もちろん、デザインだけで車は評価できない。アクセラの走行性能、中でもハンドリングの雰囲気は、同クラスの日本車において群を抜いて磨き込まれた感が強い。ハンドルを回し、カーブを曲がってゆく時、それまで前進方向のみに作用していた力が横方向に振り分けられてゆく過程の案配が、実に丹念に磨きあげられている。

無闇に幅広、低扁平にするなどしてタイヤの性能に頼らず、4輪のサスペンションが協調し合って1つ1つのカーブを丁寧に曲がってゆく。試乗する機会があれば、ぜひこぶし半分くらいの微かな舵角を与えたときに、前進方向と横方向の間を行き来する加速度の滑らかさを体験してほしい。段階的なざらつきが気になるデジタルな感覚ではなく、つながり感に開発の心を注がれていることに気づくはずだ。

この感覚の演出は、絶対的なコーナリング速度を高めることよりも、はるかに緻密で高度な開発力が求められる。このタッチにおいて、アクセラは世界的に見ても秀逸である、と断言できる。

そして、ドライバーはお尻の辺りに、あたかもカーブを曲がってゆく車の中心があるような心地を感じることになる。これはCX-5以降のマツダ車に共通した感触で、すなわちこれが「Be a driver.=運転することが楽しい車でありたい」というマツダらしさのこだわりなのだろう。

1.5Lと2Lのガソリン、クリーンディーゼル、そして日本では欧米では発売されていないハイブリッドの4つのパワーユニットが選べるが、これらは自らの使い方を振り返りつつ必要に応じて選択すればいい。アクセラの魅力は、パワーユニットよりも、ハンドリング自慢の自動車メーカーが群立するヨーロッパでも、それが選択の理由になるほどの心地よいハンドリング性能にある。そして、1人、もしくは2人で使用することが多いのであれば、秀でた軽快さがさらに際立つという理由で、1.5Lのガソリンエンジン車がお勧めだ。

商品性の本質を、車という機械のど真ん中に据えてきた感がひしひしと伝わってくるマツダ。日本のみならず、熟成された自動車文化を持つ欧米での評価が気になる存在だ。数年後、マツダは“MAZDA”としてのブランドポジションを世界で本当に確立するかもしれない。そのとき、物語のクライマックスのシーンは、我々日本人の目にもスタンディングオベーションに相応しい光景になるに違いない。

▲コンパクトカーのデミオからSUVのCX-5にいたるまで、新世代マツダのデザインは、ディテールの共通性ではなく、車全体から伝わってくるアイデンティティの表現に筋を通した“志”そのものだ ▲コンパクトカーのデミオからSUVのCX-5にいたるまで、新世代マツダのデザインは、ディテールの共通性ではなく、車全体から伝わってくるアイデンティティの表現に筋を通した“志”そのものだ
▲ハンドリングと、車両価格も含めた経済的な燃費性能に厳しい目を持つヨーロッパ市場で「OK」の評価を得ることが、マツダが考えるグローバルブランディング確立の必須条件だろう。その成果が日本におけるマツダのイメージを一変させるきっかけになる日が、やがて訪れるはずだ ▲ハンドリングと、車両価格も含めた経済的な燃費性能に厳しい目を持つヨーロッパ市場で「OK」の評価を得ることが、マツダが考えるグローバルブランディング確立の必須条件だろう。その成果が日本におけるマツダのイメージを一変させるきっかけになる日が、やがて訪れるはずだ
▲ドライバーを中心に旋回してゆく楽しさを演出するアクセラの感性チューニングは、実に緻密で高度な次元で実現されている。故に、シートの前後位置をわずかに変えるだけで、ハンドリングの印象は大いに変化する。黄線のポジションでは前輪のリードが強く感じられた操舵感は、赤線では後輪の回り込みがよく感じられる4輪協調の旋回感として伝わるようになった ▲ドライバーを中心に旋回してゆく楽しさを演出するアクセラの感性チューニングは、実に緻密で高度な次元で実現されている。故に、シートの前後位置をわずかに変えるだけで、ハンドリングの印象は大いに変化する。黄線のポジションでは前輪のリードが強く感じられた操舵感は、赤線では後輪の回り込みがよく感じられる4輪協調の旋回感として伝わるようになった
▲“なぜマツダを選ぶのか”という理由を自他共に納得させる言葉が不要になった日、ユーザーは巨大ブランドの車を乗り継ぐことをやめる不安感から解放される。マツダの最量販車であるアクセラの評価は、その日が現実になるか否かの大きなカギを握っている ▲“なぜマツダを選ぶのか”という理由を自他共に納得させる言葉が不要になった日、ユーザーは巨大ブランドの車を乗り継ぐことをやめる不安感から解放される。マツダの最量販車であるアクセラの評価は、その日が現実になるか否かの大きなカギを握っている

【SPECIFICATIONS】
■グレード:スポーツ XD ■乗車定員:5名
■エンジン種類:直4DOHCターボ ■総排気量:2188cc
■最高出力:129(175)/4500[kW(ps)/rpm]
■最大トルク:420(42.8)/2000[N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:FF ■トランスミッション:6AT
■全長×全幅×全高:4460×1795×1470(mm) ■ホイールベース:2700mm
■車両重量:1450kg
■JC08モード燃費:19.6km/L
■車両本体価格:306万7200円(税込)

text/山口宗久 photo/尾形和美、ぴえいる