▲ホンダが軽商用車市場に常識を超える軽バンを投入してきた。その名も“N-VAN”。とてもわかりやすいネーミングで好感が持てる ▲ホンダが軽商用車市場に常識を超える軽バンを投入してきた。その名も“N-VAN”。とてもわかりやすいネーミングで好感が持てる

ボディ剛性の高いN-BOXをベースにした“N-VAN”

初代N-BOXは、衝撃的なまでに高いボディ剛性で仕立て上げられており、軽自動車のエポックメーキングとなった。2代目もさらにシャシー性能を向上させており、他の追従を許さないクオリティの高さは、その販売台数が物語っている。

そしてホンダは、軽商用車にN-BOXをベースにした軽バンを投入してきた。その名も『N-VAN』だ。

ホンダにも『アクティ』という軽バンが存在していたが、今年4月に生産を終了。アクティはエンジンを車体中央に置くMRレイアウト。他社も同様、軽バンに後輪駆動レイアウトを採用してきたのには訳がある。

重い荷物を後ろに乗せた場合、リアに荷重がかかると同時にフロントが浮く。欧州では1960年代からFFの商用車が存在しているが、日本はアップダウンの激しい道が多いためFFの商用車では荷物を積んだ場合、上りの坂道で駆動輪にトラクションがかかりにくく苦しい。ゆえに駆動力が加わりやすい後輪駆動を採用している。

軽自動車は狭い道にも通用する日本の風土が作り上げた規格と言っても良い。加えて軽バンにはたくさんの荷物を積んで、狭い坂道も上って行ける性能が求められるのだ。

タブーを超え、FFの難問にあえて挑んだN-VAN

▲ピラーレス化と低床&フラット化できるレイアウトにより、横から大きな荷物を出し入れできるようになった ▲ピラーレス化と低床&フラット化できるレイアウトにより、横から大きな荷物を出し入れできるようになった

FFにする圧倒的なメリットは、荷室スペースの広さ。荷物を積むことを前提とした商用車にとっては最高のレイアウトなのだ。

ところがボディ剛性の低下、前輪のトラクション不足などが懸念され、今まではなかなか実現できていなかった。ところが、強靭なボディ剛性を誇るN-BOXをベースにすることでこの部分を解決している。

前輪のトラクション問題だが、電子制御を駆使したスタビリティプログラムで解決している。タイヤが空転すると直ちに電子制御によりトラクションを制御する。この装置が安価に搭載することができたのでFFの軽バンが実現できたのである。

回転数を上げたときの静粛性も良いターボモデル

▲軽バンとは思えない静粛性とドライバビリティの高さに驚く。運転性の高さは商用車を運転するドライバーにとっては負担の軽減につながる。これは仕事がはかどりそうだ! ▲軽バンとは思えない静粛性とドライバビリティの高さに驚く。運転性の高さは商用車を運転するドライバーにとっては負担の軽減につながる。これは仕事がはかどりそうだ!

初めに荷室を空の状態にしたターボモデルから試乗する。エンジンを始動するがこのクラスにしては至って静粛性は高い。

搭載されたトランスミッションはCVTだ。セレクターをDレンジに入れてゆっくりと発進させる。低速での運転性は良い。凹凸のある石畳を200mほど走る。ターボ車らしいモリモリと湧き出てくる出力を感じる一方、荷物の加重を計算に入れたサスペンション設定はゴツゴツと突き上げてくる。この乗り心地は商用車らしい一面と言えるだろう。

一般道に出て下りのコーナーをいくつか走り抜けるが、安定したハンドリングで安心感がある。商用車ではあるが、ターボらしいパワーに加え、回転を上げたときの静粛性はすこぶる良い。剛性の高い良いエンジンと感じる。

軽バンなのに、6速MTはS660譲りの楽しさを備えている

▲S660のトランスミッションをベースにした専用品。シフトチェンジのフィーリングも「コクッコクッ」という感じに気持ちよくキマル ▲S660のトランスミッションをベースにした専用品。シフトチェンジのフィーリングも「コクッコクッ」という感じに気持ちよくキマル

続いて100kg分の荷物を積んだNAモデルを試乗した。トランスミッションはS660をベースにした専用の6MT。それゆえ、商用車なのにシフトチェンジの操作感とソリッドなハンドリングがドライブしていて楽しい。

試しにタイトで急な上り坂を走らせると、電子制御が細かく介入しスムーズなトラクションを生む。重量のある積載物によってリアが沈み込んでも前輪の接地性が決して低下することはない。商用車用の専用セッティングとしてはよく考えられている。

逆に、荷物を積んでいるせいかゴツゴツ感が解消され、乗り心地はしなやかですこぶる良い。

販売の中心となるだろうNAのCVTモデルはバランスが良い

次は、ラインナップ中の本命とも言えるホンダセンシングを搭載したNAのCVTモデル。MT車同様、100kgの荷重を加えた状態での試乗だ。

ターボモデルでも試した石畳を走るが荷物を積んでいるせいか、空荷のときよりも乗り心地が良い。

実は、静粛性も空荷と荷重を加えた状態では全く違う。荷物の重さによって振動が抑えられ、空荷で試乗したターボモデルよりもずっと静かなのだ。商用車が荷物を乗せた状態で最も快適性が高まるようにセッティングされていることを実感できる。

さらに空荷よりもフロント荷重が希薄な状態にも関わらず、コーナリングは安定していて加速状態でもステアリングがふらつくようなことがない。

また、驚いたのはCVTとNAエンジンのマッチングがとても良いこと。ターボでなくても十分な運転性能が得られている。

先ほど同様、急な上り坂のタイトコーナーで停止状態から発進してみる。普通ならタイヤが空転してしまうような場所だがNAエンジンとCVTのマイルドなトルクの立ち上がり、加えてスタビリティプログラムによって実にスムーズな走りだしができた。

これなら商用車としてでなく、普段使いでも安心して乗れるくらい十分すぎるスペックと言えるだろう。

満を持して登場したホンダの商用車はただならぬ基礎スペックを持っている。運転席まわりやシートアレンジ、内装の工夫などドライバーの使い勝手も相当考え抜かれており、軽バン市場に変革をもたらす1台かもしれない。

▲FFを採用したN-VANには段ボール箱71個が積めてしまう広さがある。ざっとこんな量です! すごいよN-VAN ▲FFを採用したN-VANには段ボール箱71個が積めてしまう広さがある。ざっとこんな量です! すごいよN-VAN
▲シフトレバー奥にあるポケットに装着されているオレンジ色の仕切り板は、スマホなどの充電器コードを巻いておけるような形をしている。不要になったら左下の穴にひもを通せばキーホルダーとしても使える。に、しても何か見覚えのあるカタチしているなぁ…… ▲シフトレバー奥にあるポケットに装着されているオレンジ色の仕切り板は、スマホなどの充電器コードを巻いておけるような形をしている。不要になったら左下の穴にひもを通せばキーホルダーとしても使える。に、しても何か見覚えのあるカタチしているなぁ……
▲狭い道、左右の足元が見にくい道、ちょっとした勾配なども気にせず荷物を運ぶ軽バンは、日本では欠かせないツール。軽バンの性能アップはドライバーにとっては大歓迎に違いない。それにしても軽自動車は日本の道が超似合う ▲狭い道、左右の足元が見にくい道、ちょっとした勾配なども気にせず荷物を運ぶ軽バンは、日本では欠かせないツール。軽バンの性能アップはドライバーにとっては大歓迎に違いない。それにしても軽自動車は日本の道が超似合う
text/松本英雄
photo/篠原晃一

【SPECIFICATIONS】
■グレード:G・L・+STYLE FUN・COOL ■乗車定員:4名
■エンジン種類:直列3気筒DOHC ■総排気量:658cc
■最高出力:39(53)6800 [kW(ps)/rpm]
■最大トルク:64(6.5)/4800[N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:2WD・4WD ■トランスミッション:CVT・6MT
■全長x全幅x全高:3395 x 1475 x 1850~1960(mm) ■ホイールベース:2520mm
■ガソリン種類/容量:レギュラー/25~27(L)
■JC08モード燃費:17.6~23.8(㎞/L)
■車両価格:126.792万円~169.128万円(税込)

■グレード:+STYLE FUN ターボ・COOL ターボ ■乗車定員:4名
■エンジン種類:直列3気筒DOHC+ターボ ■総排気量:658cc
■最高出力:47(64)6000 [kW(ps)/rpm]
■最大トルク:104(10.6)/2600[N・m(kgf・m)/rpm]
■駆動方式:2WD・4WD ■トランスミッション:CVT
■全長x全幅x全高:3395 x 1475 x 1850~1960(mm) ■ホイールベース:2520mm
■ガソリン種類/容量:レギュラー/25~27(L)
■JC08モード燃費:21.2~23.6(㎞/L)
■車両価格:166.86万円~179.928万円(税込)