カーセンサーnet上には40万台以上の物件が掲載されている。物件チェックを日課とする筆者が、その中から偶然見つけた「なんだこの中古車は!!」という物件を紹介しよう!

▲今回紹介するのはこちら! 「輸入車その他」カテゴリーから見つけた、1967年式のNSU スポルト プリンツだ ▲今回紹介するのはこちら! 「輸入車その他」カテゴリーから見つけた、1967年式のNSU スポルト プリンツだ

その他カテゴリーは珍しい車の宝庫

カーセンサーnetの物件検索では自動車メーカーの一覧があるが、その中でも「その他」というカテゴリーが用意されている。

ふと、「輸入車その他」をクリックしてみるとトライクやキャンピングカー、正規輸入されていない車が並んでいる。

たまに間違って“その他”扱いになっている車両もあるが、ココは珍しい車の宝庫。

そんな“その他”の中で出くわしたのがNSUのスポルト プリンツだ。なお、スポルトは「スポーツ」、プリンツは「プリンス」を意味するドイツ語。

NSUは1873年、ニットを織るための動力式織り機メーカーとして産声を上げた。やがて1901年にはバイクを、1905年には自動車を手がけるようになった。

ただ1932年、四輪部門の不採算性から、メインバンクの進言もありフィアットへ身売り。

ドイツにおける「国民車構想」ではフェルディナント・ポルシェ博士が設計したタイプ32のプロトタイプを手がけたが、生産には至らなかった。

第二次世界大戦中は「ケッテンクラート」と呼ばれた、リアに戦車のようなキャタピラーをもつ軍用バイクで名をはせていた。

工場は焼けてしまったが1946年からバイク生産を再開。1955年には世界最大のバイクメーカーにまで成長を遂げた。

プリンツを運転すればキング……にはなれなかった?

▲スポルト プリンツのデザインを手がけたのは、イタリアの老舗カロッツェリア「ベルトーネ」 ▲スポルト プリンツのデザインを手がけたのは、イタリアの老舗カロッツェリア「ベルトーネ」

そして1957年、フランクフルトモーターショーにて、NSUの手による久しぶりの乗用車「プリンツ」がお披露目された。

RRを採用し、後輪駆動で600cc空冷2気筒エンジンをリアに搭載していた。

キャッチコピーは“プリンツを運転すればキング”だったが、実際はずんぐりむっくりした小さな2ドア4シーターサルーンだった。

実はこの頃、NSUではドイツのヴァンケル博士とともにロータリーエンジンのプロトタイプを完成させていた。

後にマツダがライセンス供与を受けたことは有名な話であるがアルファロメオ、シトロエン、AMC、フォード、GM、メルセデス・ベンツ、日産、トヨタ、スズキ、ポルシェ、ロールスロイスもライセンス供与を受けていた。

ただ、量産で成功を収められたのがマツダのみだった。

もとい。

1958年にはコンパクトながら流麗なボディをまとったプリンツのクーペ、「スポルト プリンツ」が投入された。

デザインを手がけたのはイタリアの老舗カロッツェリア「ベルトーネ」に在籍していた、フランコ・スカリオーネ。

アルファロメオ、ジャガー、アストン・マーティンなどを多数手がけた、レジェンドだ。

NSUはれっきとしたドイツ車ではあるのだが、最初の250台はベルトーネ社で生産された。

当初は583cc直列2気筒エンジンが搭載され、1962年後半に598ccへと排気量を拡大。プリンツ同様、RRだった。

NSUはこのスポルト プリンツのプラットフォームを用いて、ロータリーエンジンを搭載したオープンカー、「スパイダー」を1964年に発表した。

ただ、当時のロータリーエンジンの信頼性は……、相当低かったと聞く。

実際、スパイダーは2400台弱で生産を終了している。対するスポルト プリンツは2万台以上が生産された。

自動車史の一ページを担う車だろう

▲RRレイアウトを採用しているため、エンジンは後部に収められている ▲RRレイアウトを採用しているため、エンジンは後部に収められている

今回見つけたスポルト プリンツは1967年式で、ほぼモデル末期。

ロータリーエンジンとの関連性を強くイメージさせながら、ロータリーエンジンを搭載していないことによる維持のしやすさ、というイイトコ取りをしているような車でもある。

1969年にはNSUはアウディによって買収され、NSUブランドは消滅した。

さすがに半世紀以上も前の車となると、何かと維持するのは大変だとは思う。

しかし、まさに自動車史の一ページを担う車であり、誰もが美しいと思えるスカリオーネの手によるデザインに愛着が湧くことだろう。

この車が気になった猛者はぜひ、在庫の有無をチェックしてみてほしい。

それにしても奥が深いぜ、中古車!

▲半世紀以上前の車のため、今の車とは全く異なるインテリア。クラシックカー好きにはたまらないはずだ ▲半世紀以上前の車のため、今の車とは全く異なるインテリア。クラシックカー好きにはたまらないはずだ
▲なかなか出合うことができない貴重なモデル。気になったらぜひチェックしてみてほしい! ▲なかなか出合うことができない貴重なモデル。気になったらぜひチェックしてみてほしい!
text/古賀貴司(自動車王国)
photo/カーセンサーnet