これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍たちの登場背景や歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「クルマは50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。
無駄のないエレガントさと重厚感を兼ね備えたフラッグシップらしいスタイル
松本 今回はどんなモデルを紹介しようか? スポーツカーが多かったから、王道のサルーンなんていいよね。
——そのことですけど、最高に状態のいい車があるからオーナーに取材のお願いしておいて、って松本さん言ってませんでしたっけ?
松本 あぁ……2代目のBMW 7シリーズだね。あれは程度が良かったよ。カーセンサーの編集部員に「気になる中古車があるから見てもらえないか」ってお願いされたから、その中古車屋さんにちょいと実車を見に行ったんだよ。そうしたら思った以上の上物で“新車の匂い”がしたよ。デザインも良くって激渋だったね。
——それですよ! 松本さんに言われてたんで、その7シリーズを買ったカーセンサーの若手編集部員に伝えておきました。
松本 ありがとう。でも、彼ってそんなに若手だったっけ? 確かに僕の息子でもおかしくない年齢なんだけど、逆に彼からはいつもいろいろと教わってるんだよね(笑)。彼がメルセデス・ベンツのW124型Eクラスを見に世田谷にある販売店に行った時に相談されたんだよ。「W124型はどうですか?」ってね。彼の雰囲気には合っているけど、なんか選び方がステレオタイプな感じがしてね。他に気になる車両があるか聞いてみたら、ほぼワンオーナーで新車のようなBMW 735iがあるっていうんだよ。年式を聞いてみると1991年とのことだったので、これはスタイリッシュなサルーンだけどスポーティさを感じられるE32型だなと。個人的にも、その2代目(E32型)と3代目(E38型)が好きなんだ。
——松本さんのおすすめもあって、彼は2代目7シリーズの735iに決めたわけなんですね。でも、あの年代に手を出すのはちょっと勇気がいりますよね?
松本 確かにね。でも彼はすでにクラシックMINIを所有しているくらいエンスーへの道をまっしぐらなんだよ。だから、エンスーな車の魅力をどんどん教えて沼らせようと目論見中なんだ(笑)。


——彼の話もいいですが、松本さんはどうしてこの車を勧めたんですか?
松本 まずはデザインがいいことだね。初代7シリーズも押し出し感はあったけど、サルーンとしてのダイナミックさには欠けていた感が否めないんだよ。2代目のスケッチを描いたのはエンスージアスト界隈では伝説的な人物、エルコレ・スパダ氏なんだよ。知っているかなあ。1960年代のアルファ ロメオ SZやTZ、そして個人的に最も美しいと思うアストンマーティン DB4 GTZ、それらをデザインしたのがスパダ氏なんだよ。どれも夢の車だよね。ネーミングの“Z”でわかるんだけど、ミラノにあるカロッツェリア・ザガートで作られたモデルってことなんだ。どれも少量生産の高性能コンペティションモデルで、誰もが憧れる車たちをデザインした彼が手掛けたのが2代目7シリーズなんだ。
——なるほど。でも、スパダ氏が手掛けた他のモデルと比べると少しおとなしい感じがするんですけど。
松本 それは、スパダ氏が前衛的で際立ったデザインを生み出した時代を経て、円熟味を増した年になって作られているからじゃないかなあ。重厚感のあるフラッグシップに相応しいデザインでかっこいいよね。それに、とてもすっきりしたデザインだと思うんだ。特に低く構えたエンジンフードはたまらないね。そして美しいパーティング、無駄のないエレガントさがうかがえるね。とは言っても、イメージだけでは実際のモデルは仕上がらないんだ。スパダ氏のデザインをスケールモデルに落とした時に雰囲気を伝えられなければ意味がない。さらにフラッグシップだから、その先のブランドビジョンを示すものにもなる。
——その取りまとめは誰がやったんですか?
松本 フロントはフラッグシップとして申し分ないデザインだったんだけど、テールライトとクオーターパネルの造形をさらにBMWらしい形にしたのがハンス・ケルシュバウム氏。彼の功績はあまり広くは知られていないんだけど、BMWとして初めてリアにL字型テールライトを取り入れたことで、BMWに新たなアイデンティティをもたらした人なんだ。ボディデザインと一体感あるL字型テールランプは、BMWが先駆者といっていいと思う。このタイプで特許を取得していることもその証明だね。最新モデルでもフォルム一体のL字型デザインを用いていることが何よりのフィロソフィーと言えるだろうね。インテリアは上品で、豪華さよりもドライバーズカーとして満足いく扱いやすさが優先されている。きらりと光るマテリアルを使った感じも、オーナーの満足感を高めてくれるね。後席に乗車している人の優雅な雰囲気が外見から感じられるかのようなところも、フラッグシップらしいよね。

——エンジンはどうなんですか? 735iですから3.5Lの6気筒ですよね?
松本 そのとおり。エンジンも名機なんだけどそれは知っているよね?
——“シルキーシックス”の代名詞ですよね、635CSiとかに搭載されている。
松本 そうそう、M30型ユニットだね。このブロックをベースにしてレーシングカーに搭載されたM88型は伝説のユニットだね。以前にこの連載でも紹介したBMW M1にもこのM88型が搭載されていて、M1のレースモデルはNA(自然吸気)ながら最高出力が470psにまで高められているんだ。さらにレース仕様のターボモデルも存在していて、量産の鋳鉄ブロックを十分に枯らしてひずみをとったパーツを加工することで、なんと900psを発揮していた。量産ユニットながら凄まじい信頼性があるんだよね。これぞBMW“バイリッシュ・モトーレン・ベルケ”の真骨頂っていうわけだよね。
——まさにフラッグシップにふさわしい一台ですね。
松本 スタイリングはスタイリッシュで高級感を感じさせる、いつ見ても古さを感じさせないノーブルさもある。エンジンはトルキーかつ滑らかで扱いやすく、ハンドリングは大きさを感じさせない軽快なコーナリングで、ドライバーズカーとしての満足感がある。2代目7シリーズは、歴史に残るデザインとパフォーマンスを兼ね備えた名車であることに間違いないね!
BMW 735i
7シリーズとして2代目となるフラッグシップサルーン、E32型は1986年に登場。重厚なスタイルの初代から、フロントノーズを低くしたウエッジシェイプのスポーティなスタイルに一新。空力性能もCd値0.32と大幅に向上している。なお、当初は直6エンジンのみであったが、1988年にはドイツ車では戦後初となるV12を搭載した750i/750iLが登場している。
※カーセンサーEDGE 2025年5月号(2025年3月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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