これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍たちの登場背景や歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「車は50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。
ポルシェの進化と歴史を語る極めつけの“930”
——これまでたくさんの車を取り上げてきたので、最近は松本さんが希望する車を見つけるのが難しくなってきましたよ。でも、今回は渾身のモデルが用意できたと思います。
松本 本当? 君のこと10年以上鍛え上げてきたからそろそろ、僕とあうんの呼吸で名車を見つけてほしいんだよね。この車なら文句ないだろ! っていう名車をぜひ頼むよ。
——今回はポルシェです。松本さんやその世代の人にはたまらない1台だと信じています。昭和を飾った、特に代表的なモデルではないでしょうか。
松本 そこまで言えば分かるよ。ポルシェターボ、中でも極めつけの930ターボでしょ?
——はい。馴染みのお店に極上モノが入ったのを察知して、撮影させてもらうことにしました。930ターボ、松本さんお好きですよね?
松本 もちろん! 930ボディはポルシェの進化の歴史を物語っているプラットフォームとボディだからね。簡単に歴史を解説すると、ナローと言われた1964年の0シリーズから1973年モデルのGシリーズまでがひとつの時代でね。その後、レギュレーションの変更を受けて、樹脂バンパーなどを追加した新たな930ボディが1974年から登場するんだ。0からAシリーズ、Bシリーズと年式ごとにシリーズ分けして、イヤーモデルを登場させていたんだ。
——ちなみに930ターボは何シリーズになるんですか?
松本 930ボディは1974年に登場してからHシリーズと公式に呼ばれたモデルだね。その年の10月にパリサロンでデビューを飾ったのが930ターボなんだ。
——ということは、いきなりターボを取り付けて登場したんですかね。唐突なイメージがありますね。
松本 なんだかマニアっぽい質問だね。なかなか詳しくなってきた感じがするよ。ポルシェ 911に使われている基本のユニットは今も昔も水平対向6気筒だよね。水平対向6気筒の最も優れている点はバランスなんだ。理論的に相互のピストンの動きを完全に打ち消してくれる。しかもクランクシャフトを短く軽量にできて、捻じれ剛性も高い。バランスがいいから、フライホイールも軽くできるんだ。
——なるほど。その辺は分かっているようで分かってなかったですね。
松本 この6気筒エンジン、レスポンスがいいのは知ってるよね? それはマスが小さいからなんだ。ピックアップのいい要素がちりばめられているというわけだね。市販車であっても、レーシングカーみたいな素質の良さも兼ね備えているんだ。
——この時代からポルシェの技術力はすごかったということですね。
松本 そうだね。しかも当時は空冷ユニットだからメンテナンス性が良かった。シリンダーヘッドとブロックは通常ヘッドガスケットで密閉するんだけど、空冷水平対向ユニットは金属同士を茶筒の蓋のようにはめ込みにして強固にしているんだよ。シリンダー内の圧力が上がってもこのユニットのおかげで剛性も耐久性も得ていたんだ。たくさんの空気を送り込み燃焼させるターボチャージャーとは相性が良かったと思うね。一方でストロークとボアに限界があることから、排気量アップは難しいんだよ。だからこそのターボなんだよね。
——ということは、排気量を増やすわけにはいかないからターボにしたんですか?
松本 ポルシェは、ターボユニットを2Lユニットの時から試作しているんだ。917は知っているよね? 耐久レースモデルとして有名な。
——はい。一応……。
松本 917は水平対向12気筒にターボを搭載して1000psも発揮していたんだ。それが1972年。だから十分な経験も積んだうえでフラットシックスをターボ化したんだ。ポルシェはレーシングカーのノウハウを市販車に取り入れるスペシャリストだからね。12気筒ターボユニットのノウハウを6気筒の930ターボに取り入れたというわけなんだよね。
——なるほど。あ、車はこれですね。たしか930ボディ最後のターボと言ってましたよ。
松本 おー! では911ターボと言ったほうがいいかな。3.3L仕様だね。930ターボと呼ぶのは1975年から1977年だと思うんだよ。リアのトラクションを高め、安定性を確保するために8Jのホイールを装着した、ワイドフェンダーだったんだ。ワイドフェンダーになった分、小石も当たるから黒いストーンガードフィルムを取り付けていたんだ。その後、1978年式から仕様が大きく変わったんだよ。
——それが最終モデルですか?
松本 そう。エンジンが3.3Lで欧州仕様は300psに達したんだけど、国内仕様は265psだったかな。その後1986年の後半から触媒の性能向上などで、日本仕様も282psへとパワーアップしたんだ。そのまま1989年がこのボディの最終となるわけなんだ。しかし最終の「89」だけは特別な要素がある。そこに価値があると言っていいんじゃないかな。
——5速MTですか?
松本 そのとおり。国内仕様は300psではないけど、ミツワのディーラー車は282psで、しかも1989年だけゲトラグの5速トランスミッションが搭載されていたんだ。それまでのターボは4速。しかもシンクロがポルシェ製からボルグワーナー製となってカチッと決まるようになった。ポルシェ製の独特なフィールは、ドライバーが運転に慣れているかどうかが分かる部分でもあったけど、やっぱり小気味よくシフトしたいよね。1989年型911ターボは飛躍的に進化しているこの世代の集大成みたいな車なんだ。価値がないわけないよね。間違いなく名車の中の名車だよ。
——そうなんですね。知らなかった。本当に今見てもかっこいいですよね。ポルシェが作った古くならないデザインの世界観が唯一無二ですし。しかも作りの良さも感じます。カチッとしたドアの開閉フィールも素晴らしいですよね。
松本 君も十分、エンスージアスティックな表現をするようになってきたじゃないか(笑)。こういう車をこれからもどんどん探してきてほしいな。さすがにこのコンディションの名車はそうそう見つからないかもしれないけど……。
ポルシェ 911ターボ(930型)
1974年に930ターボの名でパリサロンに登場した、911初のターボモデル。張り出したリアフェンダーやリアスポイラーによって特徴的なスタイルを備える。当初は260psの3Lエンジンを搭載していたが、1978年より300psの3.3Lに変更。最終の1989年モデルには4速MTに代わり、5速MTが搭載されている。
※カーセンサーEDGE 2024年4月号(2024年2月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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