モントリオール

これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】

クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「車は50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。

“純レーシング”エンジンを積んだ大人の2+2グランツーリスモ

——今回はいつになく執筆意欲が湧いてくる車だと思いますよ。
 

松本 本当に? いまひとつ信用できないなぁ。どんなシチュエーションで見つけたの? まさかこの企画でお世話になっているいつものお店じゃないよね? もしそうなら、それは君の手柄じゃなくて、そのお店のセンスがいいということだからね。

——なんてヒドイことを……。

松本 もしかして価値はよくわからないけど、お店の奥にしまってある車を見て、これは普通の車じゃないなって判断したんじゃない?

——いやいや、以前から松本さんは「良い車は遠くから見てもオーラがあるからわかる」って言ってましたよね? 今回はそれが僕にも見えた気がしたんです(笑)。まあ、見たこともない2ドアのアルファ ロメオだったので、価値があると思ったんですけどね。

松本 もう10年以上一緒に見て回っているからそこそこわからなくちゃね(笑)。それはアルファ ロメオのなんというモデル? で、どこのお店で見つけてきたの?

——まぁまぁ、それは到着してのお楽しみで。あ、こちらです。

松本 ……またお馴染みのお店に無理なお願いばかりして……。コレツィオーネさんじゃない。車はこれ? おぉ、モントリオールじゃない。よくあったね!
 

モントリオール

——大物を釣り上げた感じですね。

松本 めちゃくちゃ程度がいい個体だね。ジュリエッタもジュリアも、ベルトーネ製のボディってドアが落ちてきてしまう印象があるんだけど、ドアの閉まりも実にいい。きっと同じ105系のプラットフォームでも強化しているんだろうね。

——程度の良さが遠目でもわかりますよね。

松本 そうだね。ドアの閉まりが良いのは、この個体のコンディションによるところも大きいんだろうけどね。

——このモントリオールってあまり見かけないですよね? 古いアルファ ロメオって、結構有名な車が多いのに。ところで松本さんは乗ったことありますか?

松本 何回もあるよ。25年くらい前に、友人が持っていてね。ブルーのモントリオールで、キレイだったな。普通に使っていたけどその後どうしたろうなぁ。スピカのインジェクションの調子がいまひとつでね。かぶりやすくなっていたときもあったんだ。

——あれ? 意外と小さいですか? この車。

松本 車幅は1700mmに満たないから5ナンバーサイズだよ。僕が試乗した車のナンバーは品川33。これはエンジン排気量が2L以上あるということだね。

モントリオール

——走ってる姿がまったく想像できないんですが、どんな車なんですか?

松本 大人の2+2っていう感じだよね。少し当時の話をすると、スーパーカーブームの時に何度か新車で見たことあるんだ。他のスーパーカーに圧倒されて控えめな印象だったね。当時、写真を撮りに行ったときに小学校時代の友人が、これってミッドシップじゃない? なんて話をしていたからね(笑)。実に懐かしいなぁ。

——確かにパっと見てミッドシップに見えるデザインですよね。

松本 友達には「エンジンは前にあるよ」って教えてあげたよ。

——その頃から車に詳しかったんですね……。

松本 この当時はDOHCのミッドシップモデルなんて、夢のような車だったから、憧れからミッドシップだと思い込むのもわかるよ。Cピラーにスリットがあって、穴が開いてるんだもの。いかにも空気を入れるような感じがするでしょ?

——確かに……。

松本 まあ実際はダミーなんだけどね。

——デザインは誰なんですか?

松本 マルチェロ・ガンディーニだよ。ランボルギーニ ミウラのプロポーションをどことなく摘んでいるデザインだと思わない。

——言われてみれば確かにそんな気が……。

松本 全然成長してないなぁ(笑)。

——ボクは松本さんみたいに子供の頃からのマニアじゃないんですよ。

松本 僕は学校の勉強なんてしないで、「世界の自動車」という本ばかり眺めていた少年だったよ。

——じゃあその知識でモントリオールのこと、もう少し詳しく教えてくださいよ。

松本 そうだね。このモントリオールって、シャシーは当時のジュリアGTVの105系を利用していたから、これといって特徴的ではないんだ。でも、エンジンがまったくの別物だったね。2.6LのV型8気筒だからね。しかも80×64.5っていう超ショートストロークなんだ。

モントリオール

——それって凄いんですか?

松本 このスペックだけでもレーシングエンジン譲りだっていうことがわかるんだよ。元々はティーポ33という2L V型8気筒のレーシングカーがあってね。これは知る人ぞ知るレーシングエンジン設計者のカルロ・キティが設計したユニットで、レースではとても活躍したんだ。そのロードゴーイングがティーポ33ストラダーレなんだよ。

——伝説の車ですね!

松本 世界で最も美しいレーシングカー、それに近いロードゴーイングカーだね。そして、そのデチューン版がモントリオールが積んでいるエンジンなんだよ。

——それは……凄いですね。

松本 乗せてもらった頃は中古車なら400万円くらいで買えたんじゃないかな? 印象としては、とにかく乗りやすくてね。軽やかなレスポンスで、4000回転からの音色が格別だったなぁ。特に追い越し車線での加速は最高だった。トランスミッションはボルグワーナー式のシンクロメッシュだったと思う。当時のアルファ ロメオはポルシェタイプのシンクロメッシュのシフトフィールとは違った印象だったんだ。ただ、カーブは苦手な感じだったね。高速を楽しく操るっていう感じの車かな?

モントリオール

——昔のことなのに結構覚えてるんですね……。

松本 ディファレンシャルの冷却フィンも大きかった。LSDが標準で装着してあったから熱対策といえるだろうね。あと、確かパワステがなくて重かった(笑)。走り出せば安定感もあって良い車だったなぁ。4000台ほど生産された純レーシングエンジンを積んだアルファ ロメオってこれだけじゃないかな? アルファ ロメオの栄光を感じる歴史的なモデルであることは間違いないね。

アルファ ロメオ モントリオール

ジュリアクーペをベースに、エクステリアをベルトーネがデザインした2+2クーペ。レーシングモデル、ティーポ33のV8をベースにデチューンされたエンジンを搭載する。当時のアルファ ロメオで、最も高価なモデルであった。なお、プロトタイプがモントリオールの万国博覧会に出展されたため、この名が冠されたという。

※カーセンサーEDGE 2022年10月号(2022年8月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏