メルセデス・ベンツ W124人気が止まらない! 現代の若者にも刺さる理由を20代オーナーの声から紐解く
2022/05/19
W124を愛好する20代のオーナー
優れた性能を備えた車は数あれど、世代を超えて認められるものとなるとそう多くはない。なんせ車は機械だ。技術はとどまることなく進化し続け、同時に高性能車の基準も次々と更新されていく。ただ高性能なだけでは普遍的な価値を有する「名車」にはなれない。
メルセデス・ベンツが1985年から95年にかけて生産した初代ミディアムクラス/Eクラス、すなわち「W124シリーズ」はそういう意味において紛れもない名車である。現役当時から圧倒的な高性能が賞賛されていたが、生産終了から25年以上が経過した現在もその評価はいささかも揺るがない。いまでは絶対的なパフォーマンスでW124を凌駕するモデルが無数あるにも関わらず、である。
その人気を示すように近年の中古車平均価格は右肩上がり。2021年1月時点には300万円を下回っていた価格も2022年3月時点では347.5万円になっている。
また、価格だけでなくW124の普遍的価値を証明するひとつの例が、20代の若いオーナーの存在である。 村山達哉さん(27歳)、村山雄哉さん(22歳)は兄弟でW124を所有する生粋のW124フリーク。物心ついた頃にはW124の生産はすでに終了しており、購入の動機が単純なノスタルジーではないことがうかがえる。
W124がどういう車かを解説する記事はちまたにいくらでも転がっているので、ここでは260Eと500Eを所有するお二人の生の声を通じて、改めてW124の魅力について探っていこう。
ステアリングを握らずとも理解できたW124のすごさ
お二人とW124の出合いは幼少期まで遡る。実家のファミリーカーが、いわゆる中期にあたる93年式320Eだったのだ。だが、この車はもらい事故によって不幸にも廃車になってしまったという。その後の7~8年間は、車が必要な時にはカーシェアリングやレンタカーを利用していたが、レンタカーなどを乗るにつれ、改めてW124の特別さに気がついたという。
「ひと言でいえば、W124は『剛性感』が他の車とはまったく違いました。金属の壁に包まれているような安心感は、リアシートに座っていても分かるほど。この部分に関しては現代の基準でも高いレベルだと思っています」(達哉さん)
「全損になった320Eですが、Aピラーより前はひどい潰れ方をしているのに、キャビンの部分はほとんど無傷で残っていたんです。W124の優れた安全性については、後に雑誌やネットなどを通じて知ることになりますが、子供の頃にそれを目の当たりにしたことで絶対の信頼を置くようになりました」(雄哉さん)
W124は「良い車」のお手本として脳裏に刻まれた。弟の雄哉さんに至っては、小学生の頃からいつか自分で買う日を夢見てカーセンサーnetで物件探しをするほどだったという。
運転したらこんな車だった
現在お二人は、90年式の260Eと93年式の500E(外装は後期のE500ルック)を所有している。いずれも前のオーナーさんから直接譲ってもらったものだという。
「自分が自動車免許を取得した後、再びファミリーカーとして我が家に92年式の260E(現在は売却済み)がやってきたんです。W124がネオクラシックとして大きく注目され、オーナー同士のオフ会などが行われるようになり始めた頃でした。そうした場所へ出入りをしていたら、後に現在の260Eと500Eを手放したいという方と知り合って、譲り受けることになったんです」(達哉さん)
90年式の260Eを譲り受けたのは、いまから6年前のことだ。
「SOHCエンジンを搭載する前期型でありながら5万kmほどしか走っていない状態の良い個体を譲っていただけました。W124でのドライブは静かで快適であることに加えて、そのフィーリングが独特なんです。サスペンションがしっかりとストロークする、奥行きを感じさせる乗り味で。現代の高級車とは趣の違う独自の気持ち良さがあるんですよ。しかもコンパクトで取り回しもいい。現在のCクラスよりも小さなボディで最小回転半径が5.2mですからね。都心の路地もちゅうちょなく入っていけます」(雄哉さん)
93年式の500Eは5年前に入手したものだが、開発・生産にポルシェ社が深く携わった最上級モデルだけあって、別格の存在だ。
「別格だと感じる点については、500Eだけが持つワイドフェンダーが醸し出す迫力のあるフロントフェイスと安定した走行性能が挙げられますね。あとは、260Eなどのノーマルグレードと同様の使い勝手の良さや快適性はありつつ、ひとたびアクセルを踏み込むと太いトルクのV8ユニットが目を覚まし、あっという間に車を進めてくれるフィーリング(いわゆる“羊の皮を被った狼”と言われる点)はさすがだなと思います。ポルシェの工場とベンツの工場を何度も行き来して作り上げられたというストーリーからくる所有満足感もありますね」(達哉さん)
改めて、W124のオーナーになって感じたことを伺ってみると、こう話してくれた。
「自分で手に入れてみて改めて印象的だったのは、コストを顧みずとにかく良いモノを作ろうという意思が車体の隅々までみなぎっていることです。パワーウインドウのスイッチですら、効率よりも理想を優先して左右でデザインが異なりますからね。インテリアのウッドパネルは、エアコンの吹き出し口の部分からシフトパネルのところまで模様がつながっている一続きの板から取っていたりと、現在の量産車では考えられないような手間とコストがかかっている。こういう贅沢な作りは効率化が進んだ現代の車にはないものだと思います」(雄哉さん)
これまで関西や東北といった遠方までドライブしたことも多々あるが、「とにかく疲れない」とお二人は口を揃える。また、高性能車でありながらドライバーを急き立てるような部分がなく、自分のペースで気持ち良く走れる点も気に入っているという。
「じつは他にも、VW ゴルフVのGTIなども所有しているんです。もちろん気に入って乗ってはいるんですが、決してオンリーワンの存在ではなく、他のモデルでも代わりが務まると思ってます。でも、W124は何もかもが特別で代わる存在が見つからないですね」(雄哉さん)
近年の新型車は電子制御システムは当たり前、さらには電気自動車の発売も増えてきた。W124の新車販売時をリアルに体感していた世代にとっては、車の電動化は新鮮な感覚を持つかもしれない。
しかし、初代プリウスの発売が1997年であることを踏まえると、いまの20代は物心ついたときからハイブリッド車が街を走っていた「ハイブリッド車ネイティブ世代」ともいえる。そんな20代のお二人にとって、現代の量産車にはない思想のもと作られたW124の「内外装の質感」「乗り味」は「ある意味新鮮で、唯一無二の名車」。
お二人の証言をもとにW124の魅力を総括するとそんなところだろうか。
近年、ますます中古相場が高騰しているW124。だが、買えば一生モノだ。欲しい人はもう待ったなしのタイミングだろう。
今回の撮影にご協力いただいた「I'DING」1995年9月の創業以来約25年以上にわたり、「ちょっと古いメルセデス」の整備と販売に従事している。(住所:神奈川県横浜市都筑区早渕2-1-38 電話番号:045-590-0707)
カーセンサー2022年6月号(4月発売)にて、巻頭特集17ページ内の表記に誤りがありました。
この場をお借りして訂正させていただきます。
誤:「このお店で兄弟揃ってW124を購入した村山雄哉さん、達哉さん」
正:「このお店で兄弟揃ってW124のメンテナンスを依頼している村山達哉さん、雄哉さん」
読者の皆さまおよび関係者の皆さまにご迷惑をおかけ致しましたことを、深くお詫び申し上げます。
ライター
佐藤旅宇
オートバイ専門誌、自転車専門誌の編集部を経てフリーの編集ライターに。乗り物をはじめ、アウトドア、ミニ四駆、子育てなど、様々なメディアで節操なく活動中。3人の子どもと3台のクルマの世話に奮闘する43歳。webサイト『GoGo-GaGa!』を運営