小橋正典


車で我々に夢を提供してくれている様々なスペシャリストたち。連載「スペシャリストのTea Time」は、そんなスペシャリストたちの休憩中に、一緒にお茶をしながらお話を伺うゆるふわ企画。

今回は、ドリフト競技、D1 GPで活躍する、D1ドライバーの小橋正典さんとの“Tea Time”。
 

小橋正典

語り

小橋正典

こはし・まさのり/1992年生まれ、青森県出身。D1GP 2020では全8戦中5勝という圧倒的な結果を残し、最年少でシリーズチャンピオンを獲得。2021年も連覇を狙い、LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGEよりS15シルビアで参戦中!

衝撃を受けたD1グランプリ、15歳で180SXを走らせる

父親は元モトクロスのプロライダー。その影響で小さい頃からカートをやっていましたが、あまり好きになれなかったんです。

でも、父が地元の青森にサーキットを作ることになり、視察がてら福島のエビスサーキットに「D1グランプリ」を見に行くことになったんです。

そこで初めて見たドリフトにガーン! と衝撃を受けて。それまでF1とかはテレビでちょこちょこ見ていたけど、それとはまったく違う見たことのない動きだったんです。

煙を巻き上げながら横を向いてダーッと滑っていく姿に、「なにこれチョーカッコいい! オレもやりたい!」と思っちゃったんですね。

でも、そのときは中学1年。父に意思を伝え、頑張って貯金して、15歳のときにドリフト用の“ワンエイティ”を買ってサーキットで乗り始めました。

今思えば中学生でマイカーを持っていたということになりますね(笑)。
 

ドリフトの理論を教わった恩師、熊久保さんとの出会い

D1グランプリという競技は、予選は1台で走る「単走」、決勝は2台ずつで走る「追走」で行われますが、どちらもタイムは競いません。ドリフトのスピード、角度、美しさなどの評価で順位が決まる。つまり、フィギュアスケートのように芸術点を競う競技なんです。

僕が始めたばかりのときは「あのコーナーは気合でつないでいくんだよ」と、がむしゃらに走ってただけ(笑)。

でも、「チームオレンジ」の熊久保さん(エビスサーキットの社長でありD1グランプリ黎明期から活躍するレジェンド)と出会い、ドリフト技術の理論を教わることで、考え方が180度変わりました。

熊久保さんは世界にドリフトの魅力を広める活動をしていて、その結果かつて“暴走”と思われていたドリフトがモータースポーツとして認められるようになりました。

僕もチームオレンジのドライバーとしてD1に参戦し、2020年にはシリーズチャンピオンを取ることができたので、今後はドリフトの認知や人気を高める活動をしていきたいですね。

僕がD1で走らせているのは、S15型の日産 シルビアです。もう20年前の車ですが、車体の軽さや足回りのセッティングのノウハウなど“勝てるマシン”と考えるとコレなんですよね。

エンジンはトヨタの80スープラなどに積まれていた「2JZ」。これまた30年前のエンジンですが、馬力が出せて耐久性もあるので、今のドリフト界では定番になっています。

D1はハイグリップタイヤを履いたマシンを大パワーで豪快にドリフトさせるのが醍醐味なので、750ps以上ないと戦えないんです。僕のマシンで850psぐらいですが、世界レベルでは1000psなんていうのもゴロゴロいます。
 

小橋正典 ▲こちらが小橋選手が乗るS15シルビア。搭載されるエンジンはなんと850ps! 写真:渡部良(Ryo Watabe)

年がら年中車を滑らせている生活

普段の生活ですか? 僕はオンもオフもドリフトどっぷりで、趣味も車いじり(笑)。普段の足として使っているトヨタのサクシードにエンジンやパーツを積み込んで、走り回っています。

今の楽しみは、走行会に愛車のS13シルビアで参加して気楽に走らせることかな。そのときは得点を気にしないで、思うがままに走れるし、ストレス発散にもなります。

ときどき「グリップ走行でも速いんですか?」って聞かれるけど、コーナーではついついガマンできなくなってタイヤを滑らせちゃうから……たいしたことないと思いますよ(笑)。

そうそう、最近はドライビングシミュレーターにもハマってますね。

もちろん、D1に向けたトレーニングという側面もありますが、ヒマさえあれば画面の中で車をドリフトさせてますよ。ここまで話していて気づきましたが……僕って年がら年中車を滑らせてばかりですね。今回のインタビューはスベっていませんか(笑)?
 

小橋正典
文/河西啓介、写真/阿部昌也
※情報誌カーセンサー 2021年10月号(2021年8月20日発売)の記事「スペシャリストのTea Time」をWEB用に再構成して掲載しています