【スーパーカーにまつわる不思議を考える】うわさのBEVコンセプトカーで判明したランボルギーニの新ビジネス
2023/09/28
スーパーカーという特殊なカテゴリーはビジネスモデルとして非常に面白く、それ故に車好きを喜ばせるエピソードが生まれやすい。しかし、あまりにも価格がスーパーなため、多くの人はそのビジネスのほんの一端しか知ることができない。そのスーパーカーブランドは電動化が進む中、どのようにビジネスを展開していくのか。新しいBEVであり、新カテゴリーであるコンセプトカーを発表したランボルギーニを例に、その世界をのぞいてみる。
電動化が進んでも、夢のある車は決してなくならない
世界最大規模の自動車イベントであるモントレー カーウイークが8月14~20日に開催された。「ザ・クエイル モータースポーツ ギャザリング」「コンコルソ・イタリアーノ」、そしてカーウイークの締めを飾る「ペブルビーチ・コンコースデレガンス」などがカリフォルニアの澄んだ青空の下、広大なグリーン上で開催されたのだ。
「ザ・クエイル モータースポーツ ギャザリング」は今やカリフォルニア・ハイパーカー・モーターショーと言っても過言ではない。ここでは多くの自動車メーカーが屋外にスタンドを構え、ニューモデルのアンベールを行う。マセラティのMCXtreama、ブガッティのW16ミストラルの新しいコンフィギュレーションモデルなどが30分刻みで披露されていくから、取材する側としてはのんきにイベントを楽しんでいられない。
中でもランボルギーニのスタンドは早くから多くの人々で溢れており、近づくことも難しい状態であった。そう、うわさとなっているBEVのコンセプトモデルのお披露目が予告されていたからだ。
ステファン・ヴィンケルマン氏、ルーヴェン・モール氏、ミティア・ボルケルト氏らがステージに上がり、ついに姿を現したランザドール。オーディエンスからは大きな拍手が沸き起こった。
ランボルギーニが提案する新しいカテゴリー
これまでランボルギーニがプレゼンしてきた脱炭素化とコル・タウリと呼ばれる電動化戦略の中で、開発中のBEVはレヴエルトのような趣味性の高いハイパフォーマンス・モデルではないことが明言されていた。こういったフラッグシップは日常のアシとして用いることは希であり、BEVは日常的に使用できるモデルであるというコンセプトが打ち出されていたのだ。その方が環境にも優しいのも事実である。
その「使い勝手の良さを重視する」というような発言から、筆者は「新しいBEVは4ドアサルーンではないか?」「となるとウルスとのすみ分けは?」などと考えていたのだった。
アンベールされた「ランザドール」はそういった予想を100%覆すものであった。ワンモーションのカウンタックから生まれたランボルギーニお得意のデザインDNAを生かしつつ、大口径のタイヤが生み出す高いシートポジションをもった、いわばウラカン ステラートの進化形ともいえるインパクトのあるスタイリングが目の前に現れたのだ。車高はそれなりにあるが、タイヤサイズとの兼ね合いで腰高感はなく、全長は5m以下であるという。
ヴィンケルマン氏いわく「これは第4のコンセプトであり、私たちは新しい自動車セグメントを切り開きます。そう、これはウルトラGTなのです。ランボルギーニのスーパースポーツカーが本来もっている、運転する楽しさと快適に日常使用できる多用途性を兼ね備えているのです」と語った。
すかさず、ランボルギーニのDNAのひとつは今から60年前に誕生した2+2シーターのグランツーリスモであることを強調し、今年がブランド創立60周年アニバーサリー・イヤーであることをほのめかした。非常にスマートなプレゼンテーションだ。
あえてSUVではなく、GTとして開発されたランザドール
このランザドールは前後アクスルにぞれぞれハイパワーのモーターを搭載し、システム全体で出力は1メガワット(約1360hp)を超えるという。リアアクスルにアクティブeトルクベクタリングを備えたAWDシステムを採用しており、ダイナミックなコーナリング性能を実現するとともに、次世代の高性能バッテリーを搭載し、長い航続距離も追求している。
発売は2028年を想定しているため、あくまでパワートレインにはダミーを搭載するが、それなりに走行は可能で、モントレーの美しいビーチを走る動画が公開された。フロントはしっかりとした容量のラゲージスペースが用意されているし、座席後部にもかなり大きなスペースが確保されており、そこにはサーフボードがさりげなく収められていた。このようにそれなりの実用性は確保されているものの、デザイン・チーフのミティアに言わせるなら「ランザドールはライフスタイルカーだ。そして、これまでのどのモデルよりも未来的だ。同時に各所には歴代モデルのモチーフもちりばめてあるよ」ということで、ウルスとの差別化は明確だ。
つまりランボルギーニとしてはこの新しいBEVを、フラッグシップのハイパフォーマンス・スポーツカーでもなければ、実用性に振ったSUVでもない、新しいカテゴリーで勝負する車だということを強調した。これはなかなか賢い戦略であり、世の中のCO2削減に向けた動きがどう進んでもこの新しいモデルは対応できるように考えられているに違いない。
会場のひとつであるクエールロッジ ゴルフクラブでは、リマックやアウトモビリ・ピニンファリーナなどがトップエンドのハイパフォーマンスBEVをアピールしているが、今はそれらが順調にデリバリーされ、かつ継続的な発注を確保できるかどうかを見極めようとしている段階だ。そして、今や超ハイパフォーマンスBEVの存在はある意味で驚きではなく、ひとつの定着したカテゴリーと見なされてきている。
スーパーカービジネスの乱世は今後も続く
そういった電動化に対してのアンチたるペトロ-ル・ガイ指向が、ここクエールロッジでも大きな存在感を持っていたことも一方で興味深い。びっくりしたのはロータス タイプ66だ。会場には、ブランド創始者であるコーリン・チャップマンの子息、そしてロータスF1全盛期で大活躍したエマーソン・フィッティパルディ氏が現れ、1960年代のアーキテクチャーであるコンペティション・モデルの販売をアナウンスしたことだ。もちろんサーキット専用マシンではあるが……。
それだけではない。テキサスのヘネシーパフォーマンスでは、1817hpをうたうヴェノム F5のロードスターモデルがローンチされ、並んだ5台が一斉にブリッピングするという異様なパフォーマンスを見せていた。
また、新興のジンガー・ビークルは、タンデムレイアウト(バイクのような前後のシートレイアウト)のC21を発表。V8ツインターボ+モーターで最高回転数1万1000rpm、パワーウエイトレシオ1:1というモンスターマシンも会場に並べられていた。
この「なんでもあり」なトレンドをどのように評価してよいのかは難しいところだ。おそらくあと数年はこの乱世が続くのではないだろうか、筆者はそう考えている。
▼検索条件
ランボルギーニ × 全国自動車ジャーナリスト
越湖信一
年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。