ランボルギーニビジネス▲ランボルギーニ初のPHEVとして、2023年3月にワールドプレミアされたレヴエルト。カウンタックから受け継がれてきたV12ミッドシップレイアウトの歴史にピリオドが打たれることになる

スーパーカーという特殊なカテゴリーはビジネスモデルとして非常に面白く、それ故に車好きを喜ばせるエピソードが生まれやすい。しかし、あまりにも価格がスーパーなため、多くの人はそのビジネスのほんの一端しか知ることができない。電動化が進む自動車の世界でスーパーカーブランドはどう立ち回るのか。変革期の今、その未来を考えてみたい。
 

スーパーカーブランドが推し進める新しいビジネスモデル

ランボルギーニ レヴエルトの登場で、モデナ産スーパーカーブランドの考える「電動化への流れ」がおおよそ見えてきた。スーパーカー界における電動化はもはや待ったなし。一方で、BEV化への流れはどうだろう? そう、クロアチアのリマックやイタリアのアウトモビリ・ピニンファリーナといった第一世代が華々しくローンチし、そのデリバリーが始まっている。各ブランドも電動モデルの開発が進んでいることを積極的にアピールしている。

スーパーカーブランドの顧客は富裕層である。当初は彼らがアーリーアダプターとして早速注文を入れる流れが予想されていた。しかし、コロナ禍とウクライナ問題によってその開発、製造の遅れが生じたこともあって、実際はそれほどドラスティックな動きになっていない。

そもそもフェラーリやランボルギーニというスーパーカー界の雄たちは、必ずしも電動化に積極的ではなく、PHEVで可能な限り凌ごうという思惑が見られる。少量生産スポーツカーにおいてはCO2排出のペナルティさえ支払えば、EU圏内において2034年まではガソリンエンジンモデルの販売は可能だし、合成燃料(EUではe-fuel)の使用で、それはさらに延期されるとの決議も行われている。
 

ランボルギーニビジネス▲12気筒エンジンと3基の高密度モーターにより、合計出力1015psを誇るレヴエルト。動力源だけでなくカーボンを用いた技術など、様々な部分に新しい技術が詰め込まれている
ランボルギーニビジネス▲フェラーリ初のPHEVとして発売されたSF90。車名はフェラーリのレース部門であるスクーデリア フェラーリ90周年を意味している。

電動化で明らかになったメリットとデメリット

一方、実はスーパーカーに関する規制で一番厳しいのが騒音規制だ。

エンジンなどのメカニカルノイズに加えて、太いタイヤによる路面との摩擦音が大きな問題になる。日本に最新スポーツカーを並行輸入しようとする場合、排気ガス規制は何とかなっても、騒音問題がかなり厳しいのだ。正規輸入車と同じスペックのモデルでも、並行輸入車だと騒音規制はパスしないことが多いという。その規制が、これからはさらに強化されるのだから、騒音規制への対応において、ICE(内燃機関)にとってハイブリッド化はマストであろう。そこまで騒音規制を強化する必要があるのかと個人的には思うのだが……(もちろん意図的なブリッピングで周囲に迷惑をかけることなどは論外であるが)。

話を戻すと、趣味性の高いスーパーカーは、ハイブリッド仕様で当面は凌げるという意見が現実的だ。もちろん、将来へ向けたアプローチ方法はそれぞれの考え方がある。例えば、マセラティは2030年までに全モデルをBEVにすると宣言し、そのスタンスをマーケティングに活用している。

しかし、一方では新たな高効率のガソリンエンジンをゼロから開発し、当面は完全電動とガソリンエンジンという2本立て戦法で臨む自動車メーカーもある。リマックはブガッティと新会社ブガッティ・リマックを設立。そこにはポルシェも株主として参画するから、どちらにでもかじを取れるというスタンスで臨んでいるとも受け取れる。

スーパーカーの電動化というのは、ある意味で理にかなっている部分がある。第一に、日常的に使用するものではないから、巡航距離に関しては問題になりにくい。二番目に、巡航距離さえ問題にしなければエネルギーを一気に放出することでとんでもないハイパフォーマンスを発揮することができる。限定されたジャンルではあるが、新しいモータースポーツを楽しむことができる可能性を十分に秘めている。三番目として、そのスタイリング開発における自由度が高まるという点も重要だろう。

ICEのスーパーカーはエンジンから出る熱の処理が大きな問題になってきた。空力も重要だが、エンジンの放熱のためのラジエターやダクトなどのレイアウトで、デザイン開発において大きな制約を受ける。ランボルギーニ カウンタックのプロトタイプであるLP500は、放熱問題が解決できずにガンディーニのクリーンなデザインに大きく手を加えなければならなかったし、大排気量エンジンの搭載も結果的に見送られた。
 

ランボルギーニビジネス▲フェラーリやランボルギーニ同様、早くから電動化へと舵を切ったマセラティ。新型グラントゥーリズモには同社初のBEVであるグラントゥーリズモ フォルゴーレをラインナップしている
ランボルギーニビジネス▲最大航続可能距離よりもパワーが重視されるスポーツBEV。グラントゥーリズモ フォルゴーレも航続可能距離は約450kmながら、最高速度は325km/hというスペックを誇っている

BEV化から生まれる新しいスーパーカーのデザイン

しかし、BEVなら新しいスーパーカーのスタイリングが誕生する可能性を秘めている。

では、マイナス面はどうだろうか。それは、完全電動スーパーカーが価値あるクラシックカーになり得るか、という点だ。スーパーカーを購入する富裕層の多くは、その車の将来的な価値の変動に関してシビアだ。多かれ少なかれ不動産的な側面が重視される。とすると、完全電動スーパーカーに関しての将来は未知数だ。

かつてフェラーリ エンツォのマーケットプライスが急上昇した原因のひとつは、ハイブリッド化されたラ フェラーリの登場がきっかけであったともいわれる。つまり、ハイブリッド化のためのバッテリーや電子機器などのメンテナンスがどれくらい先まで可能であるのかという点が、フェラーリコレクターの間で危惧されたのだ。

もちろん、こういった電子デバイスはコストをかければアップデートできるだろう。そっくりモーター、インバーター、バッテリーなどを交換すればいい(事実、そういうフォローをうたっているプロジェクトも存在する)。しかし、果たして25年後にクラシックカーという存在感をもつことになるのか? これは神のみぞ知ることであろう。

昨今、多くの少量生産電動スーパーカープロジェクトの発表を目にして、私は何とも複雑な心境になっている。
 

ランボルギーニビジネス▲BEV化により新しいスーパーカーのデザインが生み出される可能性も高い。その意味でも現在はスーパーカービジネスにとって大きな変革期を迎えているといえるだろう
ランボルギーニビジネス▲中古車市場において高値を維持する458イタリア。その要因のひとつが、フェラーリ最後の自然吸気V8エンジンに価値を見いだすファンが多いこと。BEV化が進めば、その価値はさらに高まるに違いない

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文/越湖信一
越湖信一

自動車ジャーナリスト

越湖信一

年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。