FDが愛車のドリフトドライバー・下田紗弥加さんに聞く「頭文字D世代スポーツカー」の魅力
2022/02/11
WEBだけのロングバージョンをお届け
2022年1月20日発売のカーセンサー3月号では、「買う、頭文字D」と題した特集を展開中。名作マンガ『頭文字D』に登場した作中車について、現在のリアルな中古車事情をレポートしています。
本稿は、特集でも登場したドリフトドライバー・下田紗弥加さんのインタビューの「完全版」。紙幅の制限で紙面では扱いきれなかった突っ込んだお話まで、WEB限定で大公開いたします!
ドリフトドライバー
下田紗弥加
しもだ・さやか/千葉県出身のドリフトドライバー。2018~2021年、D1 Lightsに参戦、60台を超える出場者の中で常に上位を争い、2021年7月ついにD1 GPライセンスを獲得。頭文字Dの聖地のひとつ、群馬県安中市の観光大使を務めるなど、モータースポーツ普及に向け、活動の幅を広げている。
インタビュアー
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。
下田さんがドリフトを始めたのは、『頭文字D』が直接のきっかけではないと聞いていますが?
そうなんですけど、でもドリフトを始める前から、というかそもそも車を買う前から、実は『頭文字D』は大好きで読んでました。
車も持ってないのに読んでたんですか!
はい。頭文字Dの世界って「無駄にアツい」じゃないですか? 峠でバトルして勝ったからといって賞金がもらえるわけでもないし、何かの公的なチャンピオンとして称されるわけでもない。なのに、男たちが本気でアツくなってるというあの世界が大好きで、実はむさぼるように読んでたんです。
その後、下田さんはFD(最終型マツダ RX-7)を購入してドリフトの猛練習を始め、今やトップレベルの競技者になったわけですが、リアルなドリフト競技と漫画の『頭文字D』って、何かしら通じるところはありますか?
精神的なところで言いますと、私は「イニDの登場人物よりもアツく生きてやろう!」と思ってますし(笑)、技術的な部分でも、『頭文字D』に出てきた独特なドラテクを「本当にできるのかな?」と試してみたこともありますよ。
マジですか! どれを試してみたんですか?
例えば、右手とステアリングをガムテープで固定したうえで走るという「ガムテープデスマッチ」ってあったじゃないですか(編註・『頭文字D』Vol.33「進化する天才!!」に収録)。あれを、もちろん峠じゃなくてサーキットで試してみたことはあります。
ど、どうでしたか?
痛いし、ステアリングがまったく切れないのですが、それでも何とかドリフト出来ましたし、その後の実戦に役立ったんですよ。「……この超最小舵角からドリフトに持ち込むためには、果たしてどうすればいいのか?」みたいなことを真剣に考えたり、練習してみることは、競技のためのプラスにはなってるんです。
なるほどぉ……。で、あちらに止まっているピンクのFDが、下田さんが最初に買った車なわけですが、当時、FDという車種に決めた理由は?
駆動方式やエンジンパワー、そして当時はまだ今ほど高くはなかった中古車相場など、いろいろな理由があってFDに決めたんですが、実は中学生の頃、まだ「FD」も「RX-7」も何も知らなかった頃から、私はFDのことが大好きだったみたいなんですよ!
どういうことですか?
先日、中学生の頃に使っていたガラケーが出てきたので、「当時はどんな写真を撮ってたんだろう?」と思って見てみたら、車名もわからないまま撮りまくったFDの写真がいーーーっぱい入ってたんです(笑)。自分でも忘れてましたが、当時からFDのカタチが大好きだったみたいで、最初の車を買うときは、そこに引き寄せられていった……ということなのかもしれませんね。
買うべくして買った……のかもしれませんね。で、1月20日に発売された雑誌『カーセンサー』は「買う頭文字D」という大特集を組んでいて……。
いい特集ですね!
で、「購入催促伝説」というふざけたサブキャッチも付いているのですが……。
アハハハ!
あらためて「今、イニDに登場していた車を買うこと」についてはどう思いますか?
……あのですね、もしも買うのであれば「なる早で買った方がいい!」と思います。
ほほう。それはどういった理由で?
たぶんですが、「欲しいけど、どうしようかな……」なんて迷っているうちに、あのへんの車は全部、市場からモノがなくなってしまうと思いますし、あったとしても、とてもじゃないけど手が出せない価格になっちゃうと思うんですよね。
すでに相場はかなり上がっていて、流通量も減少傾向ですが、それがさらに加速しますか?
おそらくですけど。私もFDを買おうと思ってから、実際に買えるお金が貯まるまで5年かかってしまったのですが、それでもまだギリギリ、買える相場ではありました。状態のいい6型が200万円ぐらいの時代でしたからね。まぁ私のはネットオークションで約50万円でしたが(笑)。
それは安い(笑)。
でも、まぁちゃんと乗れるようにするまでには結局さらに100万円ぐらいかかっちゃったんですけどね。それはさておき、もしもあのとき「買う!」と決断してなければ、その後の高騰により、結局は買えてなかったと思いますよ……。
今後は、そういった相場高騰と流通量の減少傾向はさらに進むと?
世界的に人気ですからね。だから、まだギリギリ買える今のうちに「ほら、もしも本当に買うなら早く買って! 急いで!」って言いたいんです。
その一方で、頭文字Dに登場したような往年のFRスポーツカーって、言ってみれば「不要不急の品」じゃないですか? なくても生きてはいけるし。それでも、あえてイニDに登場したようなFRスポーツを買う意味って何でしょう?
まずは、あれば心が豊かになりますよね。私も、家の庭に大好きでたまらないFDが止まってる姿を見るだけで「私の車、カッコいい! この車に乗れてるワタシ、、本当にシアワセ!!!」って、毎朝本当に思ってますから。この感無量な感じと幸福感はプライスレスなんですよ。
ふうむ、なるほど。
それに加えてですね、イニDに出てくるような往年のFR車を買えば運転がうまくなるというか、「より安全に公道を走れるようになる」って思うんです。
どういうことですか?
最近の電子制御ががっつり入ったFR車は普通に安全ですけど、往年のFR車って、それなりの運転技術がないとちょっと危ないんですよ。
例えばですけど、昔のS15シルビア(最終型日産 シルビア)なんかに憧れてた、特に運転技術を持っていない若い子って、車を買ってもすぐに廃車にしちゃったりするんです。そのへんの普通の道をつい楽しくなって飛ばして、そしてスピンしちゃって全損になるという。
ううむ……。そういえば私も、ここだけの話ですが某雑誌の撮影中に、大昔のBMW 3シリーズというFR車をスピンさせたことがあります。決して飛ばしてたわけじゃないんですが……。
電子制御の介入がなかった昔のFR車って、そういうこともあるんですよ。そんな中で、せっかく買ったFR車を大切に、長く乗るためには「運転がうまくなりたい!」って思うようになってくるんです。
私も、たまに仕事で電子制御ゼロの古いスポーツカーに乗ると、自分の運転のしょっぱさに泣きたくなります……。
ですよね(笑)。峠道をかっ飛びたいとかドリフトしたいとか、そういう意味ではなく「安全に、スムーズに、何かが起きそうな場合でも対処できるぐらい、運転がうまくなりたい」と自然に思えてくるのが、イニD世代のFRスポーツのいいところなんですよね。
そんな下田さんはドリフトを始めてから何年目ぐらいで、今のような神業テクを身につけるに至ったんですか?
いやーっ! 神業なんてそんな、ぜんぜんまだまだです! 正直、やればやるほど奥の深さがわかってくるので、「自分はまだまだだ……」としか思えないんですよね。謙遜ではなく、本当に。
ううむ、そういうものですか。では最後に、これから『頭文字D』に登場した車を買うかもしれないという人に向け、メッセージをお願いします。
……欲しいものや、自分にとって大切なものが、「いつまでもそこにある」とは思わないでほしいですね。国産FRスポーツをとりまく状況は、今後10年で大きく変わるはずです。つまり「いくら欲しくても、手に入れられない」という状況になってしまう可能性は高いと思うんです。
もしも本当に欲しいのであれば、往年のFRスポーツという“国宝”が、まだ世の中にある内に、そして手に入れられる相場である内に、手に入れてください。何事もそうですが、「いつまでもそこにあるはず」とは思わない方がいいんですよ。
親の命とか自身の健康とか、地球環境とかもそうですよね……。押忍、今日は本当に勉強になりました。ありがとうございました!
いえいえ、どういたしまして!