【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】カーセンサー中古車購入実態調査2020について(前編)
カテゴリー: トレンド
タグ: トヨタ / マツダ / フォルクスワーゲン / ポルシェ / ロードスター / 911 / ゴルフ / RAV4 / CX-5 / 時事放談 / フェルディナント・ヤマグチ / 編集部 西村泰宏
2021/07/23
みなさまごきげんよう。 フェルディナント・ヤマグチでございます。
前回のテーマ「自動車業界と半導体について」、はソコソコの反響をいただけたとのこと。
何しろ本業のリーマン稼業に関わるテーマですので、ハズしたらどうしようかと内心ドキドキしていたのです。たくさんの方にご覧いただき感謝であります。
あれから1カ月。半導体の需給は一向に改善しておりませんで、おかげさまをもちまして本業は空前の大もうけであります。
さて、今回お届けするテーマは「カーセンサー中古車購入実態調査」。
これはカーセンサー編集長である西村氏が所長を務めるリクルート自動車総研が毎年行っている調査で、過去1年間に中古車の購入を検討した人に対して、どのような視点で中古車を検討したかを調査・分析しようというものです。
読者諸兄はもとより、世の中の人がどのように中古車を選んでいるかが伝わってくる非常に面白いデータです。とくに今回は調査の途中でコロナ禍になったことで、その前後で人々の心理が大きく変わっていることが見て取れる興味深いものでした。ま、こんなことをネタに、ゆるくダベろうというのが本稿の企画意図であります。
早速データを見ながら、西村編集長と話をしていきましょう。
程度のいい中古車を安く買う。今の時代はこれがスマート
今回は、事前にお送りした「カーセンサー中古車購入実態調査2020」のデータを見ながら、お二人にお話ししていただこうと思います。
この調査は2015年から毎年行なっているものですよね。調査を行うたびに、傾向には変化が表れるものでしょうか。
詳細をお伝えする前に、まずは西村編集長から調査全体の雑観をお話いただけますか?
フェルさんがおっしゃるとおり、この調査はこれまで6回行っていますが、前回の3兆7498億円から今回の3兆4365億円へと、初めて中古車市場規模が縮小したという結果が出ました。
なんと! しかし中古車市場の規模というのはどのように出しているのですか。新車のように単純に「何台売れた」だけでは見えてこないようにも思えるのですが。
そのとおりです。新車と違い、中古車は一般ユーザーが車を買う以外に店舗間やオークションでの取引もあります。
場合によっては1台の中古車がユーザーの手元に届くまでに、数社を間に挟むこともあり得る。そうなると、実際は1人のユーザーが買っただけなのに、3台売れたという計算になってしまう可能性もあると。
なるほど。業界の実態がよくわかりました。そのうえでデータを見ていきましょう。
台数ベースで見ると、販売台数は3%とやや減少しました。が、コロナ禍で世の中の消費が止まった月もある中で、台数はほぼ横ばいで済んでいます。
昨年4月に初めて緊急事態宣言が発令されて、消費どころか外出自体が禁止されるという未曾有の事態が起こったのがこの1年でしたからね。それを考えれば台数的にはかなり健闘したと言えるのではないでしょうか。
はい。コロナの影響を受けた結果としてはいい数字だと思っています。一方で、購入単価は7%ほど下がりました。これが市場規模を下げた要因になります。
7%というのは見過ごせない数字です。原因はどこにあるのですか?
調査を開始してから中古車の平均購買価格は毎年5から10万円ずつくらい上昇していました。
毎年10万円というのはかなり大きい数字ですよ。
実は現在、中古車を購入している人は大きく2つのグループに分かれます。ひとつは「中古車は100万円以内くらいで買いたいよね」という人たち。このグループは昔から変わらずに存在し続けています。
新車より安く買いたい、お金をかけずに車を手に入れたいというコモディティ的な消費をしている人たちですね。そういう人たちが多いのはとてもわかりやすい傾向です。
他方で、近年は200万から400万円くらいの中古車――これまでは新車を買っていたけれど、それよりも程度のいい中古車で十分じゃないかと考えたり、例えばハイブリッドカーのミニバンのように新車だと400万円くらいするものの購入を考えたときに、「この値段を払うなら中古車で輸入車のプレミアムモデルを買う方がいい」と考える層も増えています。
とても賢い選択ですね。中古車なら新車と同じ予算でそこまで古くない高級車が買えるケースも少なくないですから。
近年はフリマアプリが一般的になったこともあって、以前と中古に対するイメージが変わったことも大きいと思います。
お金がないから仕方なく買うというイメージが薄れてきた。
中古で程度のいいものを安く買うのはスマートだと考える人が増えた。
購買意識の変化を感じています。結果、従来の中古車市場からすると相対的に単価が高いものを買う人が毎年増えていて、平均購買価格が上昇していました。
確かフェルさんもこれまで中古車ばかり買ってきたとおっしゃっていましたよね。
そうです。新車は今乗っているポルシェの前に乗っていた、Gクラスと、トランスポーターとして先日手に入れたハイエースだけ。あとはすべて中古車を買っています。
ところが、昨年にコロナ禍が襲来し、人々の意識が大きく変わりました。工場停止や生産調整、輸出入のストップなど納期が読めずに新車を買っていた人の動きがいったんストップしたり、これまで大きなミニバンを使って大勢で出かけていた人が「大勢で出かけるのは怖い」と考えたり、車を所有していなかった人が「移動手段としての車をすぐに買いたい」と考えるようになったり。
1人でぱっと動ける車の需要が高まった。その分、単価が下がったということですね。
コロナ以降、スポーツカーの中古車相場が高騰
コロナ禍においては、購入単価以外にもこれまでとは違う傾向が見られました。そのひとつが、「車そのものを楽しむ」という人が増えたことです。
車そのものを楽しむ? それはどういうことでしょうか。
車のパーソナルスペース化が進んだと言い換えることもできると思うのですが、今までは車を購入してキャンプを楽しんだりするなど、車は自分の目的を達成するための“手段”として選ぶ人が主流でした。
それはそうでしょう。私もバイクを山に運ぶためにハイエースを手に入れましたし、ポルシェ 911は通勤やデートに欠かすことができない存在です。
ところが今年の調査では、車を走らせること自体が目的だったり、車をいじって楽しむ人が増えていました。
なるほど。コロナ禍で車を使ってレジャーを楽しむことができなくなった。そこで新たな楽しみとして、車自体を遊んでしまう人が増えたということですね。
そうです。それは調査結果だけでなくスポーツカーの相場が上昇するという形でも表れています。
今回、人気のスポーツカーの最近の相場状況を調べてきました。
それは興味があります。ぜひ見せてもらえますか。
このグラフは青い線が2019年、赤い線が2020年、そして紫の線が2021年の中古車の平均価格になります。まずは、カーセンサーでも人気の高い初代マツダ ロードスターです。
NAロードスターは運転すること自体を楽しめるモデルの代表格です。確かに昨年の緊急事態宣言以降、相場上昇の動きが顕著に表れていますね。
最新の平均価格は135.3万円。もう、100万円じゃ買えない車になってしまいました。
2年前に買って今手放したら、買ったときと同じかそれ以上の価格で買い取ってもらえたかもしれない。それくらいの上昇じゃないですか。こんなすごいことになっているんだ。
コロナになって楽しみが減ってしまったので、スポーツカーは全体的に盛り上がっていますよ。家の近所を走るだけでも楽しめますから。
それはそうだ。1人で運転するなら密なんて関係ないですしね。
子供の少年野球で仲間を乗せたりというニーズが減った代わりに、こっちが増えている感じです。
車内は最も密な空間ですからね。
今度はレジャー用途で人気の高いSUVの代表として現行型マツダ CX-5の平均価格の推移を出します。
これが一般的な中古車の典型的な相場の動きだと思います。コロナが始まったときは、買い控えが発生したので相場が急落しました。
でも6月以降は上昇していますね。コロナ前に戻るほどではありませんが、需要が高まったということでしょうか。
緊急事態宣言が明けた後は、密を避けてレジャーを楽しむという需要があったのでしょう。CX-5は都市型SUVなのでアウトドアのイメージはそこまでありませんが、トヨタ RAV4は昨年6月以降に平均価格が急上昇しました。
フェルさんが大好きなドイツ車の平均価格も調べてきましたよ。
これは空冷最後の911ですね。こんなに高いんだ。
993型はコロナ前まで一時期の過熱相場が落ち着いて平均価格が下がっていましたが、昨年6月以降は相場が急上昇しています。
先ほど編集長が話していた「1人で楽しむ」車の典型的な動きなのでしょうね。それにしても、ここまで極端に変化するとは。こうなると、気になるのは僕が乗っている997型の動きです。
そう思って調べてきました。こちらです。
えー、997はそこまで相場が上がっていないじゃないですか。2019年より平均価格が低い。
でも、993と同じようにコロナ禍が始まってからは平均価格が大きく上昇しています。モデルにより多少の違いはありますが、みんなが好きなスポーツカーはおおむね同じような動きになっていますね。
うーん……。でも、993の極端な動きを見た後だとちょっとガッカリしました。ガッツリ相場が上がっていたらすぐに手放して新しいものを買おうと思ったのに(笑)。
ひとつ気をつけないといけないのは、このグラフは単純に2019年と同じ条件で相場が上がっているのではなく、2年経過してその分走行距離も延びているということです。そう考えると997もかなり上昇していると思いますよ。
確かに。年数がたてば中古車としての条件は必然的に厳しくなるわけですからね。
ゴルフ7は2020年の動きが極端ですね。
昨年はモデルチェンジのうわさもあったので、相場が下がる。そして、写真などを見て現行型の方がいいと思った人が買うので再び相場が上がる。
もちろんコロナの影響もあったと思いますが、ある意味典型的な動きということですね。
あとはゴルフなどの輸入車を選びたい人は、輸出入が大きく影響を受けて新車で購入しにくくなっていた影響もあったと思います。
そういえば、昨年別の媒体で輸入車専門店に話を聞いたところ、コロナで在庫が一気になくなり買い取りを強化したという話をしていました。ニューモデルが出たことでこれから平均価格がどう動いていくのか、とても興味があります。
(まだまだ話は尽きませんが……一旦ここまで。次回へ続く!)
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。