フォルクスワーゲン タイプⅠ(ビートル)をカスタムする楽しさと、広がる仲間の絆。終わりなき究極を求めて
2024/05/26
【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
子供の頃からの夢はビートルに乗ること。憧れの車を入手するまでの情熱と挑戦
「子供の頃に伯父が乗っていたビートルを見せてもらったんですよ。それ以来、ずっとビートルに乗りたくて」そう話すのは、歯科医の伊藤壽人さん。彼が初めて憧れた車は、親戚の伯父さんが載っていた赤いビートルだった。あの独特なフォルムと低いエンジン音、そしてその走りに一目ぼれした。
免許を取ったのも、ビートルに乗るためだった。18歳でバイクの免許を取った後、すぐに車の免許を取得。「ビートルに乗るためにマニュアル免許を取ったんです」と、とにかく必死だった。
ほどなくして、人生で最初に手に入れた車がビートルとなった。20代だった当時は当然お金がなく、貯めたバイト代を工面したが、半分は両親に援助してもらった。「77年式の白いビートルで、当時150万円ぐらいでした」と伊藤さん。少しずつ市場価格が値上がりし始めていたが、それでも夢の車だった。
手に入れた頃は、よくキャンプに行ったそう。「天井にキャリアを付けて、キャンプ道具を積んで」と、ビートルと自然の中で過ごすアウトドアライフを満喫していた。
ビートル改造大作戦! 仲間たちとともに作り上げてきたビートルライフ
ビートルは人との出会いももたらしてくれた。あるライブハウスに出かけた際、ビートルに乗っていた人に話しかけたら、地元・山梨のビートル好きが集まる“空冷イベント”に誘われたのだ。そして、そこで多くの仲間たちと出会うことになった。「ワーゲンに乗っていると自然と仲間が増えるんです」と伊藤さん。彼にとってビートルは、憧れていた車でもあり、人とのつながりを作ってくれる存在となっていた。
ビートルへの愛は、ひょんなことから新たなステージに進んだ。ある日、空冷イベントのメンバーの中でより古いビートルを手放す人が現れたのだ。写真を見せてもらうと、なんと探し求めていた貴重な59年のUSモデルの黒いビートル。これが現在の愛車だ。58年に製造され、翌59年にサンフランシスコに輸出された、正当なキャルルック仕様だった。
「ここで手に入れておかねば」と、すぐに購入を決意。2年間ともに過ごした白いビートルを後輩に売却して、即行動に移った。
ガレージに59年モデルの黒いビートルを迎え入れ、すぐに車いじりを始めた。ドア下の足を掛けるサイドステップが錆で腐食していたので、同じ年式の新品にリプロのゴムを貼って付け直したり、純正ではないバンパーが装着されていたので、ネットオークションで純正を落札して装着し直した。
さらに塗装も傷だらけでズタボロだったので、友人とポリッシャーをかけて研磨。ホイールはポルシェ911のホイールを履かせ、ジャーマンルックな外見に様変わりした。また、心臓部のエンジンは、「ちょっと素性がわからないエンジンで……」と、この車の年式と異なるエンジンが搭載されていたそう。
アメリカで相当いじられてきた車なので、オリジナルのパーツに戻しながら、自分が思うかっこいい車に仕上げることにしたという。見た目はキャルルックの優等生ルックだが、エンジンをよりパワフルなものに換装し直しチューニングを施して、車高も低くした。「低くければ低いほど、かっけえんです」と伊藤さん。不思議と山梨にはシャコタンが多いのだとか。
こうして59年モデルの黒いビートルは、“羊の皮をかぶった狼”のようなビートルに生まれ変わった。
どこまでカスタムする?と尋ねてみると、「まるで1/1ミニカーなんですよね」と伊藤さん。最終的にたどり着きたいところが、 いつまでも更新されていく感じだという。カスタム費用がトータル100万円ちょっとに抑えられているのは、できることは自分たちの手でやったからなのだ。
さらに伊藤さんのビートルには、仲間から譲り受けたパーツが多いのも理由のひとつ。例えばシフターは、子供の頃に憧れた伯父さんの赤いビートルのものを使わせてもらっているという。ホイールはミシュランのXWXを履いたままの状態で4本セット10万円。マフラーもお世話になっているお店で格安で譲ってもらったそう。「とにかくいろんな人の協力があってできた車って感じです」と、周りに感謝する気持ちは忘れない。
直近の目標は、やんちゃな中身になった黒いビートルでVW Drag Inというドラッグレースに出ること。「直線で思いっきりスピードを出して、ビートルの力を試したい」と語る。現在は、換装したエンジンの慣らし運転中。来年の出場を目指してギアも調整する予定だ。
エンジン音もロック! ドカドカうるさいビートルで楽しむ縦ノリなドライブ
そこまでカスタムすると、ドライブ中のエンジン音は「はちゃめちゃにうるさい」とのこと。デート中も大声での会話になるし、さらにエアコンが付いていないので夏場は飲み物も必須だという。それだけ過酷な車内空間だが、バンドやDJ活動もしている伊藤さんにとっては、音楽は切っても切れない関係。
友人に手伝ってもらいながらステレオも装着。リアのラゲージスペースに実家で使わなくなったコンポのスピーカーを入れ、フロントの下にもスピーカーを設置。THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYといったバンドの、エンジン音に負けないロックアンセムに包まれながら、縦ノリのドライブを楽しんでいる。でも、バンドメンバーからは、狭い・うるさい・ガソリン臭いと不評のようだ。
それでも、黒いボディがロックな雰囲気にもマッチしていて、バンドの移動にはピッタリ。運転している伊藤さんだけ気分よく移動できている。むしろ「ドカドカうるさくて、ガソリン臭いところがたまらないんです」とビートルへの偏愛は止まらない。
黒いビートルの魅力はそれだけではない。エンジンを換装したことで、思ったよりもよく走ってくれるようになった。下道でリッター7~8kmくらい。高速で15kmと燃費もまずまず。「割とエコでしょ」と、ニンマリほほ笑む伊藤さん。
「この車に出会ったおかげで、人生が変わりましたね。たくさんの仲間ができたし、車との時間が本当に楽しい」ビートルとの日々は、伊藤さんにとってかけがえのない時間。ビートルに対する情熱は、時間が経つほどに深まっていく。
▼検索条件
フォルクスワーゲン タイプⅠ × 全国伊藤さんのマイカーレビュー
フォルクスワーゲン・タイプ1 ビートル
●購入金額/約150万円
●年間走行距離/購入してから約3万km
●マイカーの好きなところ/うるさくて、ガソリン臭いところ
●マイカーの愛すべきダメなところ/便利な車じゃないところ。おもちゃみたいなワイパーで、雨の日は大変
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/凝り性で、飽き性な人