ラムバン

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

趣味はロックにサーフィン、ならば一度はアメ車だ

モーターサイクルが大好きな父と、アメリカンロックが大好きな母の血を受け継いだせいか、金子さんは18歳で「バイク好きのインディーズバンドマン(ギター担当)」になった。21歳でバンドを辞めてからも、モーターサイクル趣味は続いた。

だが、今から5年前。大学生時代にお遊び程度でやっていたサーフィンのための道具、つまりはサーフボードを「なんとなく」購入し、なんとなくもう一度波乗りをしてみたところ――これにハマった。

ラムバン▲元々バイクの整備士だった父と共同で使っている自宅のガレージ。男の夢が詰まったような空間だ

「波に乗るのは難しいんですけど、難しいからこそ『できるようになりたい!』と思ったし、できたときの達成感というか喜びみたいなものは、もうほんとすごいんですよね……」

サーフィンにドはまりした結果、「バイクで転んでケガをして、サーフィンができなくなる」ということを恐れた金子さんはモーターサイクル趣味から引退。バイクの代わりにボルボ V70というスウェーデン製ステーションワゴンの中古車を購入し、それを使って数年間にわたりサーフィンに没頭した。

そして今から約1年前。「一度はアメ車に乗ってみたいから」ということで手に入れたのが、こちらの2000年式のダッジ ラムバンだ。

ラムバン

「2000年ぐらいまでの、言ってみれば“中途半端な世代”のアメ車が好きで、いろいろなモデルを探してみたのですが、最近はそういった世代の中古車相場ですら高騰してしまってるんですよね。気になるモデルの中で唯一、予算内に収まる相場だったのがダッジのラムバンだったのですが……」

肝心のモノが市場になかった。少なくとも、金子さんが普通に手を出せそうなプライスのラムバンはなかなか見つからなかった。

「ううむ、どうしたものか……」と思い悩んでいたとき、一般的な国産車の中になぜか1台だけラムバンを置いている謎の中古車販売店を発見した。とりあえず現車を見に行ってみると、どうやらアメリカ車が個人的に大好きな社長さんが、半ば趣味のレベルでたまにアメ車を仕入れているらしい。

「で、話をしてみると、その社長さんもサーファーであるとのこと。いろいろと意気投合してしまった結果、即決で購入しました」

それが2022年6月のことだ。「納車日にいきなり不動になる」という珍プレーを見せた2000年式のダッジ ラムバンではあったが、そこは販売店に無償でしっかり直してもらい、以降は1年以上、大きなトラブルもないまま「金子氏の大切な相棒」であり続けている。

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最適解ではないかもしれない、でもそれもアメリカらしさだから

基本、サーフィンをする休日にしか乗ることがないラムバンではあるが、購入時に7.5万マイルだった走行距離は約1年で8.6万マイルに達した。つまり、わずか約1年で1.7万kmほども走った計算になる。

そんな約1.7万kmという数字の大半は、サーフィンをするために刻まれた。

週に2日ある休日のたびに横浜市内の自宅から湘南へ、あるいは千葉や茨城の海へ――ということを繰り返すことになったラムバンは、その「海に似合う雰囲気」だけでなく、「全長が長いからボードを車内に収容できる」ということもあって、サーフィンを趣味あるいは生きがいとしている人には「最適な車のひとつ」であるように思える。

ラムバン

が、金子さんはそのことを認めたうえで、否定もする。

「確かにダッジバンはサーフィンをするのに向いているし、似合う車でもあると思うのですが……僕個人の話でいえば、僕がメインで使っているのは自分の身長程度のショートボードですし、人数的にも自分1人か、せいぜい2人で行く程度です。なので、実はこの“大きさ”は不要なんですよね」

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事実、金子さんは近頃「もう少し小さなステーションワゴンに買い替えてもいいかな?」と、思わないでもないという。

だが同時に「波乗りウンヌンを超えた領域での魅力が、この車にはあるんです」とも言う。

「単純にこの雰囲気が自分好みだというのもあるのですが、乗り込んだ瞬間に感じる独特の匂いとか、ちょっとしたスイッチのつくりとかが、自分としてはものすごく気持ちいいんですよね。エンジン付近から聞こえてくる音のニュアンスが毎回ちょっとずつ違うのは、もしかしたら軽い故障を起こしているせいかもしれませんが(笑)、でも僕にはそこも『まるで生き物みたいだ!』と感じられて、なんかこう、いい感じなんですよ」

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金子さんがこの車を購入してからの約1.7万kmという走行距離の多くは「サーフィンのために刻まれた」と、先ほど申し上げた。

だが実は、約1.7万kmの内訳はそれだけではない。

「この車の使い方としては、サーフィンをしに行く――というのももちろんそうなのですが、それと同時に、というかそれ以上に『ただフラッと乗り込んで、古いアメリカの音楽を聴きながらのんびり走る』というのが、もしかしたら一番好きな使い方なのかもしれません」

ラムバン▲アメリカの音楽に造詣が深い金子さん。リアガラスには、ロサンゼルスのインディーズレコードレーベル「Stones Throw Records」やレコードショップ「Amoeba Music」のステッカーが貼られている

横浜市内の自宅から逗子、鵠沼へと向かい、藤沢を経由してまた横浜の自宅へ戻る――といっても関東圏以外の人には位置関係が伝わりにくいと思うが、要するに「海辺のあたりを通る、所要時間1~2時間ほどのいい感じなドライブコース」である。

そんなドライブコースを現代の電子仕掛けな車でもって、メイド・バイ・コンピュータな音楽を聴きながら走るのも、決しては悪くはないのだろう。

だが、完全アナログなラムバンでもって、まさにラムバンが設計された時代に作られた「ザ・バンド」や「オールマン・ブラザーズ・バンド」などの完全アナログミュージックを聴きながら、ただのんびりと走る行為が格別であろうことは想像に難くない。“調和の美”というやつだ。

「自然体といいますか、良い意味でなるべく力を抜いて生きたいと思っています。そのためにはラムバンみたいな車が、つまりはちょっと古くて、ちょっと間抜けなところもあって、でもいい感じにゆったり走ってくれる車が、“ちょうどいい相棒”になってくれるんじゃないか――なんて思ってるんですよね」

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取材日の夜も金子さんが“例のドライブコース”に繰り出したのかどうか筆者は知らないし、知る由もない。大きなお世話である。

だが、1970年に初号機が発売されたラムバンの窓を少し開けて海風を感じながら、例えばザ・バンドの「The Weight」という1968 年に発表された曲を聴きつつ、海辺の道をのんびり走る金子さんの姿と、そのときの心情を想像すると――ひたすらの「いいね! うやらましいね!」との思いが湧き上がってしまうのを、止めることはできない。

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文/伊達軍曹、写真/阿部昌也
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金子さんのマイカーレビュー

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●購入金額/160万円
●年間走行距離/約1万マイル(約1万6000km)
●マイカーの好きなところ/日本車にはない質感
●マイカーの愛すべきダメなところ/エンジンオイルが徐々に減るところ
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/アウトドア派の人にオススメ

伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。