R34GTR▲今回、お話を聞いたのは代表の丸橋秀規さん(写真左)。911に特化した中古車ビジネスを一等地である麻布で続けてきたやり手経営者。しかし話を聞いてみると、この不思議なビジネスを成功させられる、異質な資質をお持ちの方だったようで……
 

「なぜこれでビジネスが成立するの?」「HP見た感じ怪しい気がするんだけど……」などなど。車業界の中で思わず「なぜ?」と思ってしまう不思議な現象に小沢コージが迫ります。今回は、東京の一等地でポルシェビジネスを行う有名中古車店「オートスポーツ」。現在は2つの拠点で販売と整備を行っているが、その内容や経営手法を尋ねてみたら……まさに驚きの連続でした。
 

バブル期の中古車ビジネスを見て学んだ、生き残るための極意

「この世界で長く生き残れるのは変態しかいません。それも『孤独に勝てる』変態。トヨタの社長さん(豊田章男氏)も言ってるじゃないですか。『本物の車屋は残る』って。これから電気(自動車の世界)になろうが残るんです」

そう語るのはポルシェ専門店、いや“911”専門店として名高い東京・麻布の『オートスポーツ』であり、その横浜ファクトリー『ヴァンセプト』代表、丸橋秀規さんだ。

現在50代の丸橋さん。聞けばプロサーファーを目指していた19歳、ひょんなことから「クルマの街」として名高い麻布で輸入車ブローカーを始めた。東京生まれで父譲りの車好きだったが、当時はマニアックからポルシェやメルセデス・ベンツには目がなかった。

「当時はすごかったですね。弁当箱みたいな自動車電話を持って『おい、デイトナ買いに行くぞ』って先輩と一緒に茨城に行き、買い付けたデイトナを東京に持ってくるだけで300万円儲かっちゃってた時代。同時にそれを一晩で六本木で使っちゃう人も山ほどいました(笑)」

あれは80年代末期のバブル期。麻布では、米フォーブスの長者番付世界第6位にランキングされた麻布自動車&麻布建物の渡辺喜太郎氏の他、著名人たちが幅を利かせていた。新車本体価格4500万円のフェラーリ F40の中古車に2億円の値札が付いたこともあった。当時、高級車を都心の一等地に置けば必ず翌日には値段がハネ上がると信じられていたのだ。しかしこのとき、丸橋代表はこの世界の極意を身をもって知ることになる。

「あの頃の車屋で今も残ってる人はどれくらいいますかね。なんだかんだ失敗した人には共通点があって、みんな人たらし。そして根が寂しがり屋だから付き合いにお金を使うし、しょっちゅう飲みに行く。それから本当の意味で車好きじゃないとも言えると思います。僕はずっと車好きだし全然寂しがりじゃない。友人がいなくても大丈夫だし、孤独にも勝てる。だから大丈夫なんですよ」

丸橋代表はその後、1996年に今の麻布に土地を借り『オートスポーツ』の看板を出す。以降30年近くこの仕事を続けているわけだ。聞けば、リーマンショック時代も利益は出ていたという。

「リーマンショックっていうとすべてが暴落し、物が売れなくなったイメージがあるじゃないですか。しかし物事は表裏一体で、そういう状況の反面、良い車が安く仕入れられたし、時間が経てば値段も上がるんです。ちゃんと良い物が分かって、それを在庫して、お客を待ち続けられる人間なら全然大丈夫なんですよ」

それは3.11の東日本大震災のときも同じで、下手に焦っても意味はないのだという。
 

R34GTR▲東京の麻布にあるオートスポーツのショールーム(所在地:東京都港区東麻布1-27-8 tel. 03-3224-1121)
R34GTR▲こちらが今回取材で訪れたオートスポーツの横浜ファクトリーとなる「VINGTSEPT(ヴァンセプト)」。ほんの一部しかお見せできないが、空冷、水冷問わずズラリと大量の911がストックされている(所在地:神奈川県横浜市瀬谷区卸本町2162-19 tel. 045-924-2700)

いいものを探し求めることを続けられるプロはきっと生き残る

もちろん根っから車好きで、この車種でこの年式なら「絶対欲しがる人がいる」「なんなら自分で欲しい」という『物を見る目』があるのは大前提だ。事実、ヴァンセプトにはベーシックな空冷911はもちろん、どこで手に入れたのか不思議で仕方ない極上のビンテージモデルまでズラリと並べられている。また、自社工場も持っているので、納得いくまで整備し続けることが可能。そして重要なのが規模感の見極めだ。

「このビジネスは100人いて100人が儲かるわけじゃありません。8割のにわかは落ちるし、手を広げすぎてもいけない。例えば、月に20台売れる車を40台仕入れちゃいけないし、市場の動向も見極めないといけません。実際ここ何10年、SUVを除くポルシェの国内登録台数はほとんど伸びてない。911に限定したら決して増えてないんです。でも逆に言うと“減ってもいない”んです」

つまり、コアな911ファンの心を捉え続ければ、エンスービジネスは延々と続けられるということ。

「サカナ屋と同じですよ。根っからのサカナ好きで自分で船を出して釣りに行き、いいサカナを本気で追いかけるようなプロは生き残る。ポルシェ屋も本質は変わらないんです」

そんな丸橋さんには同業としてずっと尊敬し、今も追いかけている先輩がいる。

「憧れているのは切替徹さん。そう、レーシングサービスディノの社長ですね。あの人とRE雨宮の雨宮勇さんはすごい。2人とも本物の変態ですから(笑)」

小沢も何度か取材したが、切替さんは1974年から50年間、フェラーリひと筋の元祖ガイシャ屋だ。もはや車屋というより国内有数のフェラーリ教教祖で「単にフェラーリが欲しいんじゃない。俺は切替さんの店からフェラーリを買いたいんだ」という熱烈ファンが今も大勢いる。

丸橋さんも言うとおり「切替さんは今も最初に買った365BBを持ってるし、前に一度店に行ったらあの掛布さん(元阪神タイガース)のディノが置いてあってね。その仕上がりに感動しましたよ」と。それを見習ってなのか、丸橋さんも最初に買った911を今も所有しているのだという。

「こんな店にどれだけ需要あるの? って思う人もいるかもしれないけど、先日もビッグモーターから電話があって『このマニアックな911、査定してもらえないか」と。結局、この世界は1日2日じゃ分からない世界ですから」

まさに餅は餅屋。不詳小沢コージもイチ車バカライターであり喋り手として「ブレない姿勢」を改めて全うしようと心に決めた次第なのです。
 

R34GTR▲911業界で知らない人はいないであろう、敏腕経営者の丸橋さん。パーツ開発やレースへの出資など、これまでブレずに車好きを貫き通したきた結果が、30年というキャリアにつながっている
R34GTR▲丸橋代表はポルシェに限らず、様々な時代、メーカーの車が好きなため、ヴァンセプトのストックヤードには911の陰に隠れて希少、かつ珍しい物件も紛れ込んでいる
R34GTR▲当然、911に精通するメカニックが多いうえ、重整備まで対応できる大型の工場を併設しているため、メンテナンスに関しても万全

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文/小沢コージ 取材協力/autosports tel. 03-3224-1121  http://www.autosports.jp/)