世界で戦った元自転車選手が選んだポップなホンダ シティカブリオレ
2022/10/19
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
スピードを競っていたサイクリストが選んだポップなオープンカー
小野さんは自転車ロードレース競技の元選手。自転車店を営む家庭で生まれ育ち、10代の頃から年代別のカテゴリーで活躍、日本代表として世界選手権にも出場したこともある。
約4年にわたってイタリアを拠点に選手活動を行った後、2021年に現役を引退。現在は自転車競技から離れ、趣味としてサイクリングを楽しんでいるという。
というわけで、愛車である85年式シティ カブリオレの後席には愛用の自転車が(少々強引に)積載されていた。
シティカブリオレはいまの軽自動車ほどの全長しかないミニマムなボディだが、4座を備えるオープンカーなのである。
80~90年代のネオクラシックな日本車が好きだという小野さんはまだ25歳。
「シティカブリオレはその中でもとくに気になっていた1台だとか。もちろん新車が走り回っていた時代はまだ生まれておらず、購入を決めるまで実車を見たこともなかったという。
「昨年、オークションサイトで状態の良さそうな個体を発見したんです。新潟からの出品だったんですけど、『これは』と思ってすぐに東京から新幹線で現車を見に行き、想像以上に状態が良かったので落札しました」
価格は約100万円。鮮やかなブルーは前オーナーがリペイントしたものだが、色味は当時の純正色が再現されている。
初代シティという車は、日本車がもの凄い勢いで進化していた最中に登場したためか、あるいはメカが脆弱だったからなのか分からないが、やたらと“アシ”が早かった。一世を風靡したにも関わらず、あっという間に街から姿を消した記憶がある。
筆者はものすごく久しぶりに実車を目にしたが、ポップなのに子供っぽさを感じさせないデザインに改めて舌を巻いた。昨今の回顧主義とは一線を画す、あふれんばかりのオリジナリティによって実現された、魂のこもった「かわいさ」である。
小野さんがシティに魅了された一番の理由もやはりこのルックスだという。
「この時代のホンダ車ならではのシンプルで角ばったデザインが好きです。あとは色ですかね。シティを買うなら青しかないと思っていたところにちょうどこの個体が現れたので。屋根を開け、主に銀座やお台場、表参道などの都心部をドライブして楽しんでいます。遠出はほとんどしません。スピードが出なくて疲れるので(笑)」
生活をちょっと豊かにしてくれるアナログな車
80年代の半ばというと大衆車にも電気仕掛けの快適装備が普及し始めた時代だと思うが、小野さんの愛車はMT、重ステ、手動窓、キャブレターによる燃料供給など、アナログメカだらけだ。おまけにコンプレッサーの故障でクーラーも効かないという。
さすがにクーラーなしは乗用車として致命的な気がしなくもないが、「来年の夏がくるまでには直します」とあくまで大らか。もし、遠方へ車で出かける用事ができたときはレンタカーを借りることにしているという。
「オンリーワンであることが古い車の面白さだと思います。良いところも悪いところもすべて個性ですからね。実用では様々な不便があることも確かなんですけど、お金だけでは手に入らない一期一会の魅力があります」
旧車は古いことそれ自体に価値があると小野さん。したがって80~90年代の地味な大衆車や商用車すら趣味の対象だと豪語する。実際、シティカブリオレを買う際には、B12型の日産 サニーカリフォルニアと悩んだのだとか(ほぼ同価格の出物があったそう)。
「車好きが集まるスポットに出かけると、同世代の旧車オーナーと会話が弾んで仲良くなることが多々あります。そうやって知り合った人に旧車ミーティングへ誘われ、また新しい出会いがあったり。このシティ カブリオレは移動するためのものというより、所有することで生活がちょっと豊かになる、そんな存在です」
いまのところ走行に支障はないものの、リアサスペンションのダンパーが抜けていたり、足回りから異音がしたり、アルミホイールの表面が腐食していたり等々、手を入れるべき箇所は無数にある。今後はこれらをコツコツと修繕して「育てる」楽しみががある、と小野さんは少しうれしそうだった。アンタも好きねえ(褒めてます)。
小野康太郎さんのマイカーレビュー
ホンダ シティカブリオレ(初代)
●年間走行距離/約6,000km
●マイカーの好きなところ/四角いボディと丸いヘッドライト
●マイカーの愛すべきダメなところ/時代相応の乗り味
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/街乗りメインで人と違う面白い車に乗りたい人
ライター
佐藤旅宇
オートバイ専門誌や自転車専門誌の編集記者を経て2010年よりフリーライターとして独立。乗り物系の広告&メディアで節操なく活動中。現在の愛車はボルボ C30とカスタムした日産ラルゴの他、トライアンフ スクランブラー(バイク)や、たくさんの自転車。