車から降りると、空に浮かぶリビングに繋がる家【EDGE HOUSE】
2022/05/28
眺望のよい高台の住宅地には、得てして目の前の道路に勾配がある。そのため愛車の顎や腹を擦らずにガレージに収めるには、設計に細心の注意が必要になる。今回のお宅は車を収めやすいガレージの高さと、眺望のために必要な高さのバランスを考え、その高低差を上手に活用することで、暮らしが楽しくなるリズムを生み出していた。
ガレージとの高低差が、心地よいリズムを生む
鳥のさえずりが心地よい。リビングのソファに腰を下ろすと、プールの水面の向こうに、山の緑と遠くの街並み、海、そして空が広がる。そんな外の世界を眺めれば、まるで景色とリビングが同化したかのような気分になる。
このガレージハウスの施主は外国人だ。仕事でよく日本を訪れるうちに、神戸をたいそう気に入り、この地に拠点を構えることにしたという。そこで見つけたのが、神戸の街と海を一望できる、この山の斜面にある住宅地だった。早速何人かの建築家に声をかけてコンペを催した。その中から選ばれたのが、松尾享浩さんが設計したプランだった。
松尾さんは、立地条件を生かして“別荘のような非日常”を毎日楽しめるガレージハウスにしようと考えた。それには借景としての周囲の景色の取り入れ方が重要だ。住宅地として開発されたこの傾斜地には、下にいくつもの住宅が建ち並ぶ。そこで松尾さんはメインフロアの床を最大限に延ばすとともに、床の高さを上げることで、下にある住宅を視界から消した。加えて大開口を設け、メインフロアの延長線上にあるプールの水面を“景色との境界線”に。これによって、まるでリビングが景色の中に浮いているような浮遊感を演出した。リビングと景色が同化する感じがするのは、この浮遊感のせいだ。
友人を招くゲストハウスとして利用することを想定した施主にとって、この浮遊感はなによりのおもてなしになった。松尾さんはこのガレージハウスを「空中に浮かぶ別荘」という意味を込めて「VILLAIR(VILLA+AIR)」と名付けた。
一方で、イギリス車が好きな施主のために、リビングと反対側に3台分のガレージを設けた。一台一台が乗降しやすいようにすると、3台横並びでの間口は10m以上必要になる。ところが目の前の道路は勾配がきつく、10mもの間口をとると、左右の高低差は約1.5mにもなる。そこで道路からガレージを少し奥へ引き込んだうえで、道路との間になだらかな傾斜を作るために、ちょうどよいガレージ床の高さを探った。すると今度は、メインフロアの床の高さとガレージ床に高低差が生じる。そこで松尾さんは積極的にこの段差を活用した。例えばガレージからメインフロアに直接アクセスできる階段だ。ここからリビングへ上るのは、まるで崖を上がった先に広がる砂浜へ駆け上がるようだし、ガレージへ下りるのは、ちょっとした秘密基地に向かう気分が味わえる。
駐車しやすいガレージの高さと、眺望を損なわない高さ。その高低差がガレージハウスで過ごす毎日に、心地よいリズムを生んでいた。
■主要用途:専用住宅
■構造:木造(SE構法)
■敷地面積:809.42㎡(244.8坪)
■建築面積:236.94㎡(71.6坪)
■延床面積:453.60㎡(137.2坪)
■設計・監理:松尾享浩(METAPH建築設計事務所)
■施工:アドヴァンスアーキテクツ
■TEL:0120-926-612
※カーセンサーEDGE 2022年7月号(2022年5月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています