アウトドアインストラクターが偶然出合ったハマー H3は、今となっては斧やナイフと同じく欠かせぬ存在に
2021/12/31
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?
コンパクトカーでのジムカーナ参戦から始まったカーライフ
ハマー H3の荷台に積んだ薪をおもむろに取り出し、たき火台にくべる。彼が薪を置く場所、角度をほんの少し変えるだけで炎が立ち上がる。薪を斧で割る動作、ナイフで削る動作、すべてに無駄がなく美しい。
今回紹介する森 豊雪さんの仕事は、海岸でキャンプ教室やたき火教室を主宰するアウトドアインストラクターだ。
アウトドアとハマー H3、あまりにもおあつらえ向きなチョイスだが、クロカン四駆デビューは意外に遅かった。
18歳で免許を取ると、すぐにトヨタ スターレット(KP61型)でジムカーナやアマチュアレースに参戦。ヴィッツのワンメイクレースに出たこともある。20歳から始めたモータースポーツ歴は20年以上も続いた。
「静岡県の海の近くで育ったのですが、当時は学校を出たらすぐに免許を取って、社会人になったら自分の車を買うのが当たり前という風潮だったんですよね。当時、スターレットはすでに3代目EP71の時代になっていたので、筑波のナンバー付きレースはあきらめて、富士スピードウェイのナンバー無しレースをすることにしました。おかげで足車がトラックの時期がありました(笑)」
その他の車遍歴もサバンナRX-7、ランサーエボリューションIII&Xなどスポーツカー一色。生粋の車好き、王道まっしぐらのカーライフである。
当時はサラリーマンとして働きながらボーイスカウトの指導員をしていたが、クロカン四駆が必要と感じるシーンは特になかったという。
ハマー H3との運命的!? な出合い
そんなカーライフに転機が訪れたのは、長年勤めていた会社を退職し、新たにアウトドアインストラクターの仕事を始めてから。
フォルクスワーゲン ゴルフヴァリアントに乗っていたとき、台風の影響で荒れた砂浜に乗り入れたところ、見事にスタックしてしまったのだという。
「この仕事をするなら、やはり四駆が必要」と感じ、知り合いの中古車店に日産 エクストレイルを見に行った。ところが……。
「なぜかハマー H3を勧められたんですよ。ちょうどコンディションの良い物件が出たとかいう理由で。私はエクストレイルを探しに来たんだけどな……と思いつつも、かつてハマー H2が気になっていたこともあって、『自宅近所をこの車で通り抜けられたら買ってもいいよ』と言っちゃったんですね。自宅周辺の道路は極端に幅が狭いので、ハマー H3では絶対に通り抜けられないだろうと思っていた。それが意外にすんなり通れてしまったんです。約束してしまったので、素直に購入しました(笑)」
ボディサイズこそ大きく、見た目の迫力もあるハマー H3だが、実のところステアリングの切れ角が大きく、意外に取り回しが利く。四角いフォルムゆえ、車両感覚も把握しやすい。
恐らく中古車販売店のスタッフは、その事実を知ったうえでゲームに挑んだというわけだろう。
エクストレイルとハマー H3では車格もキャラクターもあまりに違いすぎるが、約束は誠実に守った。アウトドアズマンに二言はない、のである。
いざ所有してみると、クロカン四駆ならではの高いアイポイント、オンロードでも感じられる安心感がとても気に入った。フェンダーが大きく張り出す、抑揚の効いたボディフォルムも好みだった。アウトドアで使う機材を気兼ねなく積み降ろしできる道具感もいい。
後になって考えると、あのとき中古車店に勧められたのも運命だったのでは!? と思えるほど、ライフスタイルにマッチしていた。
「ハマー H2やH3が新車で売られていたときは、お金持ちが都会で虚勢を張るために乗る車、というイメージが強かったので結局購入には至らなかったのですが、今になって純粋に車を見てみると、紛れもないオフロード車。悪路を走ると、改めて本物の実力が感じられます」
さらに円熟味を増すカーライフ
今回の撮影場所も、実は森さん自身が選んでくれた。都心からさほど遠くない距離にありながら、海に沈む美しい夕陽が望める絶好のロケーションだ。
ただし取り付け道路が少々荒れており、クロカン四駆でないとアプローチするのが難しい。わざわざハマー H3が最も似合うロケーションを選んでくれたのである。
ワイルドでありながら気も利く……そんなオーナーと愛車のキャラクターには、どこかシンクロする部分がある。
さて、クロカン四駆に目覚める一方で、モータースポーツ熱は完全に冷めてしまったのか、というとそうではない。
実は彼、この車の他に1973年式ポルシェ 911とローバー ミニも所有しているのだ。成人した息子さんもランエボⅤに乗るなど、自宅にはマニアックな車ばかりが並んでいる。
つい最近は息子さんの会社の先輩に誘われて、ミニワンメイクのジムカーナ競技にも参戦。十数年ぶりにモータースポーツ熱が再燃した。二足のわらじならぬ三足のわらじをそれぞれ履きこなす、自由奔放なカーライフを謳歌している。
そんなカーライフとは裏腹に……というべきか、アウトドアに行くときはミニマルな装備で臨むようにしているのだという。
「キャンプ教室などでよく、どんな道具を揃えたら良いのですか? と質問されるのですが、『ひとまずビニールシートと水筒だけ持ってキャンプしてみて、これが足りないな、と思った物だけ買うと良いですよ。』とアドバイスしています。道具から入ると際限がなくなってしまい、結局、家で過ごすのと何ら変わらなくなってしまいますから」
彼のカーライフとアウトドアライフにおける姿勢は一見、矛盾しているように思えるが、芯のところは一緒。
ビンテージなスポーツカーもハマーも、キャンプで使う斧やナイフと同じようにエッセンシャルな存在だからこそ所有しているのだ。
森 豊雪さんのマイカーレビュー
ハマー H3
●年間走行距離/約15000km
●マイカーの好きなところ/乗っているときの安心感(ボディが大きいので、衝突などでの安心感)
●マイカーの愛すべきダメなところ/ガスをよく食べること。アメ車っぽくて良いです
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/悪路を楽しめる人やオートキャンプを楽しむ方にオススメしたいですね
自動車ライター
田端邦彦
自動車専門誌で編集長を経験後、住宅、コミュニティ、ライフスタイル、サイエンスなど様々なジャンルでライターとして活動。車が大好きだけどメカオタクにあらず。車と生活の楽しいカンケーを日々探求している。プライベートでは公園で、オフィスで、自宅でキャンプしちゃうプロジェクトの運営にも参加。