ピストン西沢
 

2020年4月20日発売のカーセンサー6月号では、「さあ、スポーツカーしようぜ!」と題した特集を掲載している。

スポーツカー好きで知識も豊富なのに、手前に引かれた「境界線」の外から見ているだけ、という人は意外に多い。そこで今号では、スポーツカーとその他の車の違いや本当の魅力を探るべく、開発者や著名人に話を聞いてきた。

今回話を伺ったのは、スポーツカー好きという枠をはるかに超え、プロ顔負けのドライビングテクニックも有するラジオDJのピストン西沢さん。軽快で痛快!なスポーツカー談義に、君はついていくことができるか!?
 

ピストン西沢

DJ

ピストン西沢

東京生まれ。大学在学中からクラブDJとして活躍。硬軟織り交ぜたトークとともに、多くの人気DJたちからリスペクトされるオリジナルなミックスは健在。また、ラジオではJ-WAVEの人気番組『groove line』のメインパーソナリティを務めている。さらに日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務めるクルマ&レース界のプロでもある。

狭くて窮屈なほどエライのがスポーツカーの世界

車の免許を取ったのは23歳のとき。わりと遅かったんですよ。

学校に通いながらクラブDJをやっていたので教習所に通うヒマがなくて。で、免許取ったその日に千葉県の車屋さんに行って、ホンダ シビックの登録済み中古車を買った。『ワンダーシビック(3代目の愛称)』の3ドアね。

でもすぐ物足りなくなっちゃって、1ヵ月ぐらいでアルファロメオ ジュリアクーペに乗り替え。それから30年以上、なんだかんだで、ずっとスポーツカーに乗り続けていますね。
 

ピストン西沢


スポーツカーがフツーの車と何が違うかっていうと、ハンドルを切ったときにスッとストレスなく動き、アクセルやブレーキ操作に対する反応にダイレクト感があって、ゴーカートみたいに走れること。

それがスポーツカーの楽しさなんだけど、逆にイイところなんて、それぐらいしかない。狭いわ、荷物は積めないわ、乗り心地もよくないわ。

でも、狭くて窮屈な車に乗るほどエライ、といわれるのがスポーツカーの世界(笑)。スーパーセブンとか、頂点ですから。

つまり、興味ない人にとっては「ムダじゃん」「要らないよ」ってことになるんだけど、逆説的に言うなら、“無駄だからこそ文化”になるんですよね。

無駄を無駄と思わず、「俺はコレが好き、必要なんだ」と思い、愛でることが文化であり、そういう人がいろんなことをガマンしながらスポーツカーを買って、乗る。

そこには分かる人には分かる“無上の喜び”があり、それを言葉にするのは難しいんだけど、乗ってみれば分かる。響く人には響くとしか言いようがない。
 

スポーツカーを理解するには「乗ってみる」しかない

ヨーロッパの自動車文化の背景には、貴族たちが馬に乗っていたような感覚でスポーツカーを乗り回したり、車が単なる乗りものではなくどこか“階級”を表すモノとして存在しているということがある。そういう世界観からモータースポーツが始まり、フェラーリやロータスだって生まれたんだから。

現在でも「ムダがよい」とされているということはないと思うけど、自動車メーカーの目指している“先”には今もそういう世界があるんですよね。

だからルノーは大衆車メーカーでありながらF1を止めないし、こういう時代でも多くのメーカーがハイパワーのスポーツモデルを出している。

イタリアに行ったとき、F1が開催されるモンツァ・サーキットの近くでバールに立ち寄ったら、60過ぎぐらいの地元のおっちゃんたちがツバを飛ばしてフェラーリを応援してた。ほとんど阪神ファンのノリなんだけど、それを見て「ああ、俺たちみたいな“にわか”じゃないんだな」と思ったよ。

一方、日本では車は基本的に必需品。遊びのための車なんて日常生活には必要ない、という考えが強いと思う。自動車レースも欧米に比べて歴史が浅いし、人気だってあまりない。

だから仕方ないとは思うけど、それでもスポーツカーの魅力を理解する方法があるとしたら、答えはひとつ。「乗ってみる」ということしかない。

乗ってみて「コレが欲しい!」と思ったなら、他のことを多少ガマンしてでも買えばいいと思う。そうでなかったら、買う必要はない。
 

スポーツカーというのは「仲間」をつくる

マイカーはロードスターです。初代(NA)以来30年間、歴代モデルを乗り継いできて、ND型の黒だけで3台目、全部で5台買いました。サイズや使い勝手的に、僕の生活にピッタリなんですよ。
 

ピストン西沢


街中を流しても楽しいし、サーキットも走れる。タイヤが細い、ブレーキパッドが小さい、オイル量が少ない、だからたいしてメンテ代がかからない。車は速いやつになればなるほどお金がかかるんです。

とくにパワーが250psを超えると急にお金がかかるようになるから、200ps以内ぐらいがちょうどいい。パワーよりオープンであることの方が僕には重要。屋根を開ければ、ゆっくり走っても楽しめるからね。

夏の夕方、シャワーを浴びた後、Tシャツ一枚で乗って、流すなんて最高だね。冬は足元の暖房効かせまくって、露天風呂状態にして走ると気持ちいい。オープンにして大きな音で音楽を聴くのも好きだね。もう野外ライブですよ。星空を見ながらバラードとか、思い切ってクラシックなんてのもいい。
 

ピストン西沢▲高級輸入車だらけの六本木の街中で、オープンの黒いロードスターは"目を引く"存在!


スポーツカーを手に入れたら、きっと充実した休日が待っているでしょうね。

スポーツカーっていうのは「仲間」をつくる。とくにロードスターみたいな流通台数の多い車は各地にクラブやイベント、ミーティングもあるからなおさら。

そこで車の情報を得たり、仲間からいろんなことを教えてもらったりするのが、スポーツカーライフを楽しむ秘訣。イベントに参加して、その行き帰りも一緒に楽しんで、なんてことが休日の過ごし方になっていく。

そうやって休日の過ごし方が変わったり、そのうち「車趣味を楽しむガレージが欲しい」と仕事をがんばっちゃったり、スポーツカーとの暮らしによって人生が豊かになることも大いに有り得る。

「若者の車離れ」なんていわれるけど、じつは子供はスポーツカーが好きなんだよ。

ロードスターの助手席に子供が乗れるように改造して、東京オートサロンで小学生限定のドリフト体験走行をやったんだけど、これが大人気。わざわざ遠方から来てくれた人もいたし、マツダのブースに親子連れの長蛇の列ができたからね。

最近、子供に車の魅力を伝えたいという思いが強くて、だからこのドリフト体験のための専用ロードスターも持ってるんですよ。

スポーツカーが気になったら、とにかく「乗ってみる」ことを勧めます。スポーツカーに乗っていて困ることなんて、コストコに行ったときぐらいなんだから!
 

ピストン西沢
文/河西啓介、写真/阿部昌也