▲ノア/ヴォクシーは、家庭生活に求められるおおよそすべての用途をまかなうべく進化したトヨタ製スタンダード・ミニバンだ ▲ノア/ヴォクシーは、家庭生活に求められるおおよそすべての用途をまかなうべく進化したトヨタ製スタンダード・ミニバンだ

家族が欲しがるあれもこれも、この1台に集結して進化

まるで台所のような車である。勘違いしないでほしい、褒めている。さらに言うなら、「ほぉ」と声を上げて感心している。

ノア/ヴォクシーは、ルーツをライトエースとその上級車のタウンエースという商用車に持つ。この2モデルは、日本の高度成長期後半における働く男たちの効率的な足であった。その役割はバブル期になっても変わらず、私が社会人として働き始めた頃に所属した編集部にはワゴンというサブネームが付いた乗用車仕様があって、自動車電話が付いたその車に数人の男たちで乗り込み、日本中を取材して回った。

やがて乗用車の法的な車両安全基準が引き上げられたことに伴い、1996年にライトエース/タウンエースも基準適合の一環としてボンネットを持つタイプのボディに変更された。それまで床下にレイアウトされていたエンジンも、セダンなどと同じ乗員の前方に移動した。これを機に、乗用車仕様はタウンエースノア/ライトエースノアと車名変更され、訴求先も若い世代の家庭に移された。いわゆるミニバンブームの先駆けである。

乗用車に高額な課税制度がある日本では、結果的に複数台の所有は阻まれている。地方では複数の車を所有している家庭もあるが、「一家に1台」という家庭は少なくない。そういった状況を踏まえ、家庭生活に求められるおおよそすべての用途をまかなうべく進化したトヨタ製スタンダード・ミニバンのレイティストモデルが、現行型のノア/ヴォクシーである。

「台所のような車となりたい」がノア/ヴォクシーの哲学か!?

さて、万国共通で、家庭生活が営まれる家には台所があり、ほとんどの場合、台所の主役は主婦である。シンクや収納棚の高さといった寸法は、主役たる女性の体格に不都合なくあつらえられていることが必須となる。

加えて日本の台所には食卓があり、家族の集う居間としての機能を兼ね備えていることが多い。毎日の子供の食事や、週末の家族が揃っての夕食はもちろん、年に何度か実家の父母や気の合う仲間を迎える楽しい宴にも対応できる拡張性も求められる。

手を伸ばせば調味料、振り返れば家族の姿、面倒なことは高度に自動化された最新家電がスイッチひとつでこなしてくれる。そして、毎月末の光熱費の支払いも、誰かに自慢したくなるほど節約できる。それが日本の台所だ。

そんな、「こぢんまりとしていても日々の幸せがあふれる家庭空間としての台所」のような車となりたい。それこそが、ノア/ヴォクシーが代々継承してきた車作りの哲学だろう。

小柄な女性にとっては小山のような車高でありながら、よじ登るような感覚なしに乗り込める間口の低さ。2段に積み上げたような意匠のメーター周りは、前方の視界を遮る障害物のように一見されるが、実はダッシュボード上面の下側に収まる。低い間口に対してやや高めに置かれたシートに座れば、背が低い人でも視界の邪魔にならない。

ハンドルは据え切りでクルクルと軽く回る。座面は前側の張りが弱く、足が長くなくとも太ももの裏側を圧迫しない。大型のナビ画面はスピードメーターよりはるかに見やすい位置に配置され、車の様子を知らせるインフォメーションウインドウがメカ音痴でも見落とすことのない前方視界の中に収まる。

ATのセレクタは、ハイブリッド車、ガソリンエンジン車とも、タテ方向の操作列の中にDレンジとRレンジ以外のギアや機能の選択項目がないので、前進したければ下方へ、後進したければ上方へ無造作に動かすだけで良い。高速道路を延々とオーバードライブギアを使わずに走っていた、というようなミスは起こらない。

そしてエアコンの操作パネルも「暑い」「寒い」「風が強い」「もっと風を」という直感的な操作だけをフューチャーした作りになっている。

手を伸ばせば、選択された必要な機能が並ぶ。それらは車を操作する喜びでなく、求める案配をミスなく選択するという価値の実現に専心され、操作の徹底的なスイッチ化によって追求されている。

ミニバンが白物家電呼ばわりされる象徴的な光景が広がるノア/ヴォクシー。その運転席まわりは、本当の台所にある白物家電製品がそうであるように、使い物にならない名ばかりの“AUTO”機能が相当に改善され、最小限の項目を選択するだけの、おおよそ不満のない車内を実現するに至った。

振り返れば子供や家族の姿があるそこそこ広い空間を、ガソリンエンジン仕様で16.0km/L、ハイブリッド仕様で23.8km/L(共に2WDモデル・JC08モード)の低燃費と共に家庭生活に取り込むことこそ、進化した最新版のノア/ヴォクシーを選ぶ真骨頂なのだ。

先進の燃費性能を活かすため、スピードはほどほどに

家族だけでなく、仲のよい友人までも招きたくなる、この練りあげられた環境技術による“走る日本の台所”の魅力を存分に堪能するために、ぜひあることを気に掛けていただきたい。

それは、高速道路で無闇にトバさないことだ。

ハイブリッド仕様では5ナンバーサイズに収まるほどほどコンパクトなノア/ヴォクシーだが、それでも一般的なセダンの約2倍、ざっくり2畳ほどの前影投影面積がある。室内の広さと安全性向上のために増えた1畳分、つまりボンネットから下のほぼ垂直に立ち上がった部分がセダンとの差異となる。

すなわち、畳1枚を壁のように立ち上げて走るセダンのような格好なわけで、とても空気抵抗が大きい。さらに空気抵抗は一般に速度の2乗に比例して増加するので、速度を増すほどに猛烈に抵抗が増える。

せっかく手に入れた先進の燃費性能を台無しにしないため、そして振り返るとゆったりとしたセカンドシートでスヤスヤと眠る愛子の安全のため、「速度は控えめに」がノア/ヴォクシーを賢く使いこなすためのお約束ではないかと思う。

▲実際の台所にある白物家電製品がそうであるように、最小限の項目を選択するだけで、おおよそ不満のない車内環境を実現している ▲実際の台所にある白物家電製品がそうであるように、最小限の項目を選択するだけで、おおよそ不満のない車内環境を実現している
▲低い間口に対してやや高めに置かれたドライバーズシートに座れば、ハンドルは据え切りでクルクルと回り、座面は前側の張りが弱く、足が長くなくとも太ももの裏側が圧迫されない ▲低い間口に対してやや高めに置かれたドライバーズシートに座れば、ハンドルは据え切りでクルクルと回り、座面は前側の張りが弱く、足が長くなくとも太ももの裏側が圧迫されない
▲小柄な女性にとっては小山のような車高でありながら、楽に乗り込める間口の低さもノア/ヴォクシーの特徴のひとつ ▲小柄な女性にとっては小山のような車高でありながら、楽に乗り込める間口の低さもノア/ヴォクシーの特徴のひとつ
▲ノア/ヴォクシーは、家族だけでなく、仲のよい友人までも招きたくなる“走る日本の台所”だ ▲ノア/ヴォクシーは、家族だけでなく、仲のよい友人までも招きたくなる“走る日本の台所”だ

【SPECIFICATIONS】
■グレード:ヴォクシー ハイブリッド V ■乗車定員:7名
■エンジン種類:直4DOHC+モーター ■総排気量:1797cc
■最高出力:73(99)/5200[kW(ps)/rpm]+60(82)[kW(ps)]
■最大トルク:142(14.5)/4000[N・m(kgf・m)/rpm]+207(21.1)[N・m(kgf・m)]
■駆動方式:FF ■トランスミッション:電気式無段変速機
■全長×全幅×全高:4695×1695×1825(mm) ■ホイールベース:2850mm
■車両重量:1620kg
■JC08モード燃費:23.8km/L
■車両本体価格:305万4857円(税込)

text/山口宗久 photo/篠原晃一