▲ややずんぐりむっくりとした「おとぼけフォルム」であることは否めないレクサス HSだが、時代の流れから考えると「これこそが逆におしゃれ」と言える可能性も? ▲ややずんぐりむっくりとした「おとぼけフォルム」であることは否めないレクサス HSだが、時代の流れから考えると「これこそが逆におしゃれ」と言える可能性も?

まずまず好条件な物件も前期型なら150万円以下

レクサス HSが妙にお買い得だ……といきなり言っても、お世辞にも人気車種とは呼べないHSだけに、「はて、それってどういう車だったっけ?」という人も多いかもしれない。だがとにかく今、レクサス HSの前期モデルが妙に安く、妙にオススメなのである。

具体的な価格の話をする前に、レクサス HSという車について簡単におさらいしておこう。

09年7月に登場し、小変更を経て今も販売されているHSは、レクサス初の「ハイブリッド専用モデル」となった中型セダン。車台は旧型トヨタ プリウスを中心とする既存の中型用を組み合わせた独自のもので、駆動方式はFFだ。

パワートレインは最高出力150psを発生する2.4Lの4気筒ガソリンエンジンに、143psを発生する電気モーターを組み合わせたハイブリッドシステム。パワートレインはこの1種類のみだが、装備の違いにより「バージョンL」「バージョンS」「ベースグレード」などいくつかのグレードに分かれている。新車価格は395万~571万円ということでレクサス車としては比較的安価だが、紛うことなき「なかなかお高い車」であることは間違いない。

で、その「なかなかお高い車」が今、なかなかお安いのである。

さすがにスピンドルグリル(ここ最近のレクサス各車が採用している独特のフロントグリル)になった13年式以降は270万円以上となるのが一般的だが、前期型であれば140万~180万円付近がボリュームゾーン。そして「走行5万km以下」というまあまあ好条件な物件に絞った場合でも、車両価格150万円以下で比較的ラクに探すことができる。……「あのレクサス」の、「まあまあ好条件な物件」が150万円以下というのは結構グッとくる話だと思うのだが、どうだろうか?

▲日本で販売されるレクサス車としては初のFFレイアウトの4ドアセダンとなったHS ▲日本で販売されるレクサス車としては初のFFレイアウトの4ドアセダンとなったHS

今の時代における「カッコよさ」とは果たして何か?

しかしここでは当然ながら、以下のような反論も想定しなければならない。

「ハッ、今どきセダンですか。しかも、言っちゃなんですがビミョーなフォルムの。そんなのいくらレクサスでも、いくら安くても、積極的に買う気にはなれませんねえ。ていうか、そう考える人が多いからこそHSの中古車相場は安いんでしょ?」

……この反論というか筆者に対する愚弄嘲笑はある意味「そのとおり!」なだけに、普通に考えればなかなか反撃できるものではない。が、筆者だって何も勝算なしにレクサス HSという車を持ち上げているわけではないので、以下、少々の反撃を試みたいと思う。

議題として挙げたいのは「『カッコ悪いこと』は、果たして本当にカッコ悪いのか?」ということだ。

……いきなりHSのことを「カッコ悪い」と断じてしまい大変恐縮だが、まぁこのどちらかといえばずんぐりむっくりで、Dセグとしてはホイールベースが短めゆえ「伸びやか」とは評しにくいHSの造形は、人それぞれ見解の相違はあれど、おおむねそう断じてもバチは当たらないのではないかと思う。

で、従来どおりの感覚でいえば今ひとつスタイリッシュではないHSに対し、従来からの常識だけで判断すると「スタイリッシュ!」となるのが、例えば同門のISだろう。

▲こちらは現行レクサス IS。05年9月に登場した初代ISの後を受けて13年5月にデビューした、HSと似たようなサイズ感となる中型のスポーティセダンだ。写真はIS 200t バージョンL ▲こちらは現行レクサス IS。05年9月に登場した初代ISの後を受けて13年5月にデビューした、HSと似たようなサイズ感となる中型のスポーティセダンだ。写真はIS 200t バージョンL

何というか、ISは人間の男性で言うところの典型的な「足が長くて顔が小さい人」みたいなデザインである。身長(ボディサイズ)はそれほどでもないので180cmオーバーではないが、それでも178cmぐらいはあって、なおかつ顔の各パーツが濃いめのニヒルな二枚目、みたいな感じだろうか。

……それはそれで結構なことだが、果たして今の時代、そういった「昔ながらの二枚目」というのは本当にカッコいいのだろうか? もっと言ってしまえば、昔ながらの典型的な二枚目は今の時代、一部では「嘲笑の対象」にすらなっているのではないか? それよりも今は、あえて笑いを取る「三枚目」の方が逆にカッコいいというか好感度が高いというか、広い意味で「スタイリッシュ」とされる時代に変化したのではないか……というのが筆者の見解である。

▲かなりイケメンな現行ISと比べると「ずんぐり感」は否めないHSが、そこが逆にイイのかも? ▲かなりイケメンな現行ISと比べると「ずんぐり感」は否めないHSが、そこが逆にイイのかも?

これからは「謎の三枚目」が輝く時代だ!(たぶん)

例えば各種のテレビCMを思い出してほしい。当然ながらそこには、商品の印象をなるべく良くするべく多数の美男美女が出演している。しかし出演する美男が「我こそはイケメンでござい!」みたいな台本に基づき、そういった種類のスカした演技をしているだろうか?

否である。

人気アイドル歌手が、あえて謎の巨大クレジットカードをかついでよちよちとコンビニに入ってみたり、今をときめく超人気俳優が、なぜか洗濯物の襟ソデ汚れについて妙に真剣に思い悩んでいたり……というのが昨今のテレビCMであり、「二枚目が二枚目を演じる」という古典派CMの数はきわめて少ない。なぜならば「そういうのってもはや逆にダサい」と、暗黙のうちに多くの人々が思っているからだ。

もしもそうであるならば、答えは出たも同然だろう。つまり、なんとも微妙な造形のレクサス HSが「逆にカッコいいのかも?」と思える時代に我々は生きている……ということである。

今さら典型的イケメンのセダンやSUVやらに乗ってもありがちなだけで、特段のインパクトはない。それよりも、どことなく謎なレクサス HSを平然と愛用するあなたの姿に、人は感動するのだ。……いや感動はしないだろうが、それが、どこかチャーミングなのである。

そしてもちろんHSは比較的故障も少なく、FF専用設計だけあって車内は見た目の印象よりずっと広く、その落ち着いた乗り味と落ち着いたインテリアの意匠も、まさにレクサスならではの世界観に満ち満ちているナイスなセダンであることは間違いない。

ということで、今「あえてHS」がかなりシブいと筆者は思うのだが、あなたはどうお考えだろうか。

▲いろいろ申し上げたが、レクサス HSはインテリアの質感も、そして走りの質感にも非常に優れる上質なサルーンであることは間違いない。それが人気薄ゆえお手頃なのだから、気になる方はぜひマジメにご注目いただきたい ▲いろいろ申し上げたが、レクサス HSはインテリアの質感も、そして走りの質感にも非常に優れる上質なサルーンであることは間違いない。それが人気薄ゆえお手頃なのだから、気になる方はぜひマジメにご注目いただきたい
text/伊達軍曹
photo/尾形和美、TOYOTA