▲諸般の事情で消滅してしまった北欧のサーブ。今から乗っても大丈夫なんでしょうか? ▲諸般の事情で消滅してしまった北欧のサーブ。今から乗っても大丈夫なんでしょうか?

多少の面倒を引き受ける覚悟があるならば、実は好コスパな選択肢

輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、不要になった日用品はこまめにリサイクル業者に持って行き換金するなどしながら、ニッポンの中流ど真ん中を生きている。

そんなわけだからして、輸入車といっても乗っているのはお手頃価格のコンパクトカーである場合が多い。しかしさすがに40代も後半になってくると、乗っている車もある程度のサイズ感やクラス感のようなものがないと、なんとなく「みすぼらしい中年」に見えてしまうリスクもある気がしてきた。できれば避けたい事態である。

しかしながら、(もちろん一概にはいえないが)中古車の価格というのは車のサイズやクラスと正の比例関係にある場合が多いため、自慢じゃないがカネはない筆者としてはなかなか狙いづらい部分もある。さて困った……となったとき、実はさんぜんと輝くブランドがひとつだけあったことに気づく。

サーブである。

▲ボルボと並ぶスウェーデンの雄だったサーブ。写真は2003年式サーブ9-3 ▲ボルボと並ぶスウェーデンの雄だったサーブ。写真は2003年式サーブ9-3

ご承じのとおりスウェーデンのサーブ社は1937年、スウェーデン軍向け航空機の製造を目的に設立された会社で、その自動車部門であるサーブ・オートモービル社は1947年の設立。1989年からは米国GM社の出資を受け、2000年からはGMの完全子会社となったが、いかにも「航空機メーカーが源流」といったニュアンスの独特なデザインセンスは引き継がれ、バカ売れしたわけではないものの、一部自動車ファンの心をグイッとつかんで離さないステキなブランドではあり続けた。

が、そんなサーブ・オートモービルは2009年2月、経営悪化のため会社更生手続きに入り、翌年にはオランダの会社に身売り。その会社も2011年12月に破産し、そしてその後も様々なすったもんだがあり、結論として現在、自動車における名門「サーブ」ブランドは事実上消滅している。

ブランドが消滅したとなると、アフターサービスや部品供給などの面でユーザーが不安に思うのは当然のこと。その結果、昨今のサーブ車は思いっきり売れ行きが鈍り、市場には「走行3万km前後のアッパーミドルクラス車なのに、支払総額70万円程度」みたいな物件が散見される。

そういったサーブ車を狙ってみるのはどうか? というのが本稿の趣旨である。

▲ブランド消滅の影響か、車格や年式の割にお手頃な中古車が多いサーブ。……でも、正直どうなの? ▲ブランド消滅の影響か、車格や年式の割にお手頃な中古車が多いサーブ。……でも、正直どうなの?

だが、それには2つの疑問というか不安がつきまとうだろう。ひとつは「会社が潰れちゃうぐらいなんだから、車としての魅力もイマイチなんじゃないか?」ということ。もうひとつは「消滅したブランドの車なんか乗ってたら、整備や部品供給の面でかなり困るんじゃないか?」ということだ。以下、順を追ってこれらの疑問・不安にお答えしよう。

まず車としての魅力問題。これは結論として「なかなかいい感じ」である。市場で最も数が多い2003年以降の9-3(ナインスリー)を例にすると、イタリアのアルファロメオやドイツのメルセデス、BMWのような「やたらと突出した何か」は少ないかもしれないが、その分、内装のデザインも含む「落ち着き」というニュアンスの美点が随所から感じられるのだ。もちろん、ハイスピード巡航が基本となるヨーロッパの車だけあって、ただ落ち着いているだけではなく、その気になれば結構な高速ツアラーとしての弾丸性能も十分以上に発揮してくれる。

ただ、弾丸性能を存分に発揮できるのは高圧ターボエンジン搭載の「9-3エアロ」で、低圧ターボとなる「リニア」や「アーク」は比較的まったりしている(とはいえ必要十分に速い車ではある)。で、市場で最も数が多いのが、困ったことに(?)低圧ターボの9-3リニアなのだ。

この問題についてどうとらえるかは人それぞれだが、筆者としては「サーブはそもそも目を三角にしてぶっ飛ばすような車じゃないし」ということと、中古車相場の格安っぷり(その気になれば支払総額50万円以下でも狙えてしまう)に免じて、いっさい不問にしたい。

▲なんとなく航空機のコクピットを連想させるのが、サーブ各モデルの内装デザインの特徴というか伝統。写真は2004年式サーブ9-3エアロの本国仕様 ▲なんとなく航空機のコクピットを連想させるのが、サーブ各モデルの内装デザインの特徴というか伝統。写真は2004年式サーブ9-3エアロの本国仕様

第2の疑問・不安である「メンテや部品供給は大丈夫なのか?」という声に対する答えは、「確かにちょっとめんどくさい。だが、その気になればなんとかなる」だ。

自宅近くのフツーの工場にサーブを持ち込んだら、確かに少々困惑されるかもしれない。しかし世の中には少数ながらサーブ専門、あるいはサーブを得意とする工場や販売店などがあり、そういった場所に持ち込むことができるならば、メンテナンスも部品の手配も実は大きな問題はないのだ。ちなみに筆者が専門工場に取材したところによれば、サーブ用の各種部品は北米のサードパーティが今なお熱心に製造し続けているため、空輸に若干の時間がかかる場合もあるが、供給体制としてはいまだ特に問題ないとのこと。

ただ、前述のとおり「ちょっとめんどくさい」のは確かだ。このブランドに強い工場を探す必要があるし、部品の種類によっては日本に到着するまで若干待たされることもあるだろう。しかし、それを押してなお「今や希少なサーブに乗りたい! ありきたりの車なんてまっぴらだ!」という熱意を持てるのであれば、サーブ車全般は今、総額100万円以下、いや80万円以下でも狙える好コスパ輸入車としてはかなりアツい存在である。

▲他人とカブるのが嫌で、なおかつ輸入車をお手頃予算で狙いたいなら、多少のめんどくささを引き受けてでもサーブの中古車を買ってみる価値は大いにある! ▲他人とカブるのが嫌で、なおかつ輸入車をお手頃予算で狙いたいなら、多少のめんどくささを引き受けてでもサーブの中古車を買ってみる価値は大いにある!
text/伊達軍曹