フィアット500ツインエアと中身はほぼ同じ。しかし中古軽自動車1台分は安い(?)クライスラーイプシロンを見逃すな
カテゴリー: クルマ
タグ:
2015/08/27
バッジが気にならないなら、これほどお買い得な輸入車はない!
輸入中古車評論家を自称するわたしだが、自慢じゃないがカネはない。いや日々の食事に困窮するほど貧乏しているわけではないが、回転しないお寿司屋さんに行くのは小銭の貯金箱が満タンになったときだけと心に決め、ニッポンの中流ど真ん中を生きている。
そんなわけだからして周囲の自動車雑誌編集者などが「今度の○○は419万円~だってさ! 安いよね~」などと得意気に会話しているのを聞くと、両手がワナワナと震えてくる。419万円が「安い」だと? ふざけるな。オレを誰だと思ってるんだ。なにせ小銭貯金が満期にならないと回転しないお寿司屋さんには行かない男だぞ。そんなカネあるわけないじゃないか。あったとしても虎の子だ、「安い」などと思えるはずがないじゃないか!
……思わず興奮してしまったことをお詫びしたいが、とにかく、この業界に生息している人間の金銭感覚はちょっとおかしいのではないかと個人的には思う。わたしを含む普通人の給与/ギャラ相場から冷静に考えれば、輸入車というのは100万円以下とか150万円ぐらいとか、せいぜい200万円ぐらいで買うべきものであるはずだ。そしてそういった価格帯でも、コスパに優れるステキな輸入車というのはたくさんあるものなのだ。
例えばクライスラー イプシロンだ。
コンパクトで、上質感があって、それでいて活発&俊敏な、そんでもって高年式な輸入車が欲しいという場合、イチ推しは実はイプシロンではなくフィアット 500である。中でも2気筒エンジンを搭載するツインエア系だ。
2気筒特有の「ドドドドドッ」という振動と、妙に有機的で艶かしい回転フィールを持ち味とするこのエンジンを搭載するフィアット 500は、本当に素晴らしい。その加速は豆鉄砲的というか爆竹的というか、とにかく痛快で、大げさに言えば「生の歓び」のようなものに溢れている。それでいてしょせんは排気量875ccの豆鉄砲なので、そう大したスピードは出ない。それゆえきわめて合法的かつ安全に、痛快すぎる加速とハンドリングを楽しめるわけだ。そしてビジュアル的にも(人それぞれ好みの違いはあるだろうが)かなりステキ。言うことなしである。
唯一の問題は、「いつまでたっても中古車相場が下がらない」ということだ。
例えば新車価格226万8000円のツインエア ポップだ。カーセンサー掲載物件の平均車両価格は2015年8月23日現在、2012~2014年式で約181万円。登録から約3年がたった中古車でも2割ちょっとしか新車と金額に差がないという超強気相場なのだ。こうなると、「それぐらいしか違わないなら、中古じゃなくていっそ新車で……」と思う人は多いだろう。中古車愛好家である筆者ですらそう思う。要するにフィアット 500ツインエアの中古車は、残念ながらコスパがイマイチなのだ。
しかし、まったく同じエンジンを積む(ある意味での)兄弟車であるクライスラー イプシロンのゴールドであれば、2012~2014年式の平均車両価格は同日現在で約125万円。……実に約56万円という、ちょっとした中古軽自動車1台分の差がある。これを良コスパと言わずになんと言おうか。
「でもエンジンが同じってだけで、その他はいろいろ違うんじゃないの?」という声もあるだろう。もちろんいろいろと違う。まず異なるのは全体のデザインだが、それはいったん脇に置くとして、大きく異なるのは足回りの味つけだ。
フィアット 500ツインエアは端的に言ってやや硬めのスポーティ路線で、イプシロンは落ち着きを重視した安定路線。峠道をギャンギャン走りたいならフィアット 500の方が向いているが、そうでないのであればイプシロンの安定路線もまた良しである。このあたりは優劣というよりも好みの問題だろう。
そしてもうひとつ異なるのが前述のデザイン。万人ウケや女子ウケをするのは明らかにフィアット 500だろうが、イタリアの鬼才エンリコ・フミアがデザインした初代イプシロンの流れを汲むこの個性的なデザインも、ある種の人間にとってはたまらなく魅力的である。少なくとも筆者は、世間的に台数が多すぎるフィアット 500より、希少でアバンギャルドなイプシロンに乗る毎日に魅力を感じる。
残る問題は「クライスラーのエンブレム」についてどう考えるか……ということだろう。
ご承知のとおり、3代目イプシロンは当初、イタリアの「ランチア イプシロン」として販売されていたのだが(※日本への正規輸入はなし)、親会社の事情により日本では2012年12月から「クライスラー イプシロン」という車名で正規輸入が開始された。しかし、日本の輸入コンパクトカー好きにとって「クライスラー」のバッジは率直に言ってあまり魅力的ではないためか、セールス的には大苦戦。2014年いっぱいで地味に販売を終了した。
そんなこんなのいわくつきであるクライスラーのエンブレムについてどうとらえるかは、各自の趣味嗜好と判断に任せるほかない。しかし、ここまでの超絶良コスパ案件を「たかがバッジ」のせいでフイにするのは本当にもったいないと、個人的には痛切に思うのである。