スクリーンを飾ったあの名車、少ししか映らなかったけれど忘れがたい車…
そんな映画に登場した“気になる車”をカーセンサーnetで見つけよう!

松田優作の早すぎる死から20年。圧倒的な存在感と鬼気迫る怪演は色あせない!

ブラック・レイン|映画の名車
(C)1989 BY PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.
『ブラック・レイン』1989年・米・日 監督:リドリー・スコット 出演:マイケル・ダグラス/高倉健/松田優作/アンディ・ガルシア/ケイト・キャプショー/小野みゆき/安岡力也/若山富三郎ほか 販売元:パラマウント ジャパン ¥1,500(税込)
今年(2009年)で松田優作が逝ってから20年経つと知って愕然とした。光陰矢のごとし。そりゃ、長男の龍平もデキ婚するわな。優作も生きていたら還暦にして爺さんになったということか…なんとも複雑な気分だ。もしも彼が生きていたら、今頃日本の映画界はどうなっていただろう!? ハリウッドでは何本くらいの作品に出演し、世界的な知名度はどれくらい上がっているだろう!? もしかしたらデ・ニーロやニコルソンやホッパーに負けないくらいの存在感を銀幕で放っていたかもしれない。

そんな夢想がいくらでも広がっていくほど可能性に満ちていた俳優、松田優作。彼に対するイメージは、2、3歳刻みで世代別に違ってくる。1968年生まれの筆者にとってのファーストインパクトは、1979年にスタートしたテレビドラマ「探偵物語」。バッシティーバッシティー、というSHOGUNのオープニングとともにベスパで走り去る工藤ちゃんに小5だった僕はシビれまくったものだ。僕よりちょっと上の世代は遊戯シリーズ、さらに上の世代なら「太陽にほえろ」のジーパン刑事だろう。

だが、僕にとっての松田優作は工藤ちゃん。その工藤ちゃんが主演した『野獣死すべし』で震え上がり、『家族ゲーム』で呆然とし、かと思えば薬師丸ひろ子と共演した『探偵物語』(工藤ちゃんシリーズとは別物)で再びホッとさせてくれ、監督作『ア・ホーマンス』でまたまたドギモを抜かせてくれた。10代の僕は優作に翻弄されっぱなしだった。

そんな優作がガンに侵された身体にムチを打って撮影に臨んだ最後の映画が『ブラック・レイン』である。念願のハリウッド進出作。しかも『エイリアン』『ブレードランナー』のリドリー・スコットがメガホンをとる話題作だ。優作は延命治療を拒み、病気のことを隠して撮影に入ったという。その鬼気迫る演技がたっぷり堪能できる本作を紹介しよう。

ニューヨーク市警殺人課のニック(マイケル・ダグラス)はバツイチのヤモメ暮らし。養育費問題で赤貧にあえいでいるため、バイクの賭けレースで小銭を稼ぐ日々。そんな状況だけに、麻薬密売事件で押収したカネをくすねた嫌疑で内務捜査官から査問を受けるハメにもなっていた。ある日、同僚のチャーリー(アンディ・ガルシア)とレストランに入ると、日本人ヤクザ同士の抗争に巻き込まれてしまう。中年ヤクザを刺殺して逃走する長身の日本人を決死の追跡の末に捕らえることに成功。果たしてニックとチャーリーは、その男=サトー(松田優作)を日本まで護送することになる。

ここからは怒涛の展開。大阪に到着するも偽警官たちにサトーを引き渡してしまい大慌てのニューヨークチーム。汚名を返上するために、英語が堪能な大阪府警の松本(高倉健)になんとか取り入って捜査チームに加わるも、なにかとしっくりいかず。あらゆる面でアメリカと違う日本式に戸惑いながらも、憎きサトーの再逮捕に躍起なるが…。

主軸となるのはニックvsサトーの因縁劇と、ニックと松本の国籍を超えた友情劇。すでに『ロマンシング・ストーン』や『危険な情事』で日本でもスッカリおなじみとなっていたマイケル・ダグラスが、松田優作と高倉健という2大俳優と真っ向勝負をするという構図に、日本国中が興奮した。また、世界中のリドリー監督ファンにしても、あの『ブレードランナー』を彷彿とさせるサイバーパンクな世界感を、エキゾチックな大阪の町を使って再現させてくれたことに狂喜乱舞したのだ。

果たして狂気に満ちたサトーというキャラクターはハリウッド関係者にも大きな衝撃を与えた。なにしろ制作中の評判だけで、優作にはロバート・デ・ニーロ出演、ショーン・コネリー監督作品のオファーが来ていたほどである。だが、公開からほどなくして優作は帰らぬ人となった…。

『ブラック・レイン』を改めて見直してみると、アンディ・ガルシア(高倉健とのカラオケデュエットが最高!)の若き美貌にうっとりするのと、ホステスたちのバブルなメイクに苦笑する程度で、ほとんど古くなっていないことに驚かされる。もちろん、目の玉をひんむいてニックに襲いかかるサトーは今見ても背筋がゾクゾクするし、ほとばしる優作の生命力をビシビシ感じることができる。

熊谷美由紀との間に生まれた2人の息子、龍平(『青い春』『悪夢探偵』『誰も守ってくれない』…)や翔太(『ワルボロ』『花より男子』『イキガミ』…)の映画は観たことがあっても、これまで優作の映画と無縁だった若い世代の方々、レンタル店で『ブラック・レイン』のパッケージをぜひ手にとってほしい。そして、その圧倒的な存在感にやられたら、彼が遺した名作群を片っ端から観てください。絶対に損はさせません!!

映画に登場する車たち

M・ベンツ Sクラス

サトーがヤクザの親分衆と盃をかわすクライマックス。農地に立つ屋敷にサトーが乗り付けてくるのが黒塗りのM・ベンツ Sクラス。ケーニッヒがカスタマイズしているのだが、これがまぁシブいのなんのって、颯爽と降りてくるサトー=優作の威圧感にグッと拍車をかけてくれる。ちなみにこのシーン、日本国内という設定だが実際はサンフランシスコ郊外なのだとか。道理で適当な漢字標識とかが至るところに立っているわけだ。当然ながらサトーのM・ベンツもアメリカ仕様。W126は1979年から1991年まで生産された2代目のSクラス。長く販売されたので、M・ベンツと言えば今でもW126のシルエットを思い浮かべる人も多いだろう。そんな憧れの“ザ・ベンツ”も今なら100万円以下でリーズナブルに買えてしまうのだから嬉しいじゃありませんか。ちなみにサトーのM・ベンツは最終的にドドーンと炎上しちゃいます。必見!!


Text/伊熊恒介