▲多くの熱心なファンがいるスバル。世界に名だたるブランドになれるポテンシャルを、彼らは秘めている ▲多くの熱心なファンがいるスバル。世界に名だたるブランドになれるポテンシャルを、彼らは秘めている

エンジニアリングこそスバル成長の原動力

唐突だが、スバルのエンジニアは素晴らしい。試乗会の際、広報用のエンジニアスタッフを用意する企業もあるが、正々堂々とエンジニアを紹介する姿勢がスバルであり、彼らの偽りのない車づくりの証拠でもある。

例えば、「ドアを閉めた感触からするとフロントとリアでは防音材が違うようですが」と質問すると「空いているXVはありませんか?」と一緒に音の違いを聴きにいくのである。しかも相手が詳しいと分かればとても細かく作業内容を教えてくれる。「ドアの音で重厚さを出すにはウインドウ下部とドアの上方に防音材を入れるとかなり良い結果が生まれるんですよ」と。

彼らは、コストをかけずに良質の方向へ持っていくことが務めであると考える、日本特有のエンジニアだ。そしてスバルは内装と外装にでなく、目に見えない部分にコストをかけると聞く。性能にコストをかけることが何よりユーザーへ還元できると考えているのだ。

こんなこともあった。CVTのオイルの抵抗を少なくするためにオイルの量を減らすかさ上げボックスを作成。まるで水洗トイレの水を多く流さないような装置だった。身近なアイデアを利用して、できる限りコストを抑えて数%にも満たない“目には見えない性能”の向上を図っているのだ。

さらに、スバルのエンジニアは、エンジン設計であっても、トランスミッションやボディ設計にも顔を出し、自らの守備範囲以外を専門とする他のエンジニアたちと意見を交え、最善の策を見つけだす。スバルは横のつながりを大切にするメーカーなのだ。企業の規模が大きくなるとそういった部分が難しくなるがエンジニアリングを主体として車づくりをしているメーカーは、それが何よりの強みとなる。

「我々は現在あるプラットフォームを使う前提でいろいろな対応をしなければならない。だから無理がかかるところは、皆で知恵を絞って改善するんです。それは新車が出たから終わりじゃない。ここからが始まりなんだと思って、ウィークポイントを拾い上げて改善していくんです。それと平行し新しいモデルも作るわけですから、既存のモデルにはどういったモノが良いか分かるんですよ」

そう。彼らが語るとおり、自動車は日々進化しているのだ。そもそもプロトタイプの部品はテストコースで良好でも、量産体制下での短時間の組付けでは意図したとおりにいかない。だからこそ、初期ロットよりも1年、2年と継続的に造られるモデルの方が各部の精度も向上し、しかも角の取れた乗り味へと変わる。極端に言うと、真新しい新車ではやり切れなかった要素がモデル末期には大きく含まれている。それは次のモデルへとつながる新しいエッセンスを注入されていることも意味している。

世界に羽ばたくためにスバルが解決すべき課題とは……

前述のとおり、スバルは性能で勝負していくエンジニアリング主体のメーカーで、その点ではVWグループと似ている。昨今、VWが日本でも世界でも販売台数を伸ばしている理由はその性能であり、細かな品質と造りの良さでもある。それらを踏まえると、スバルはVWのような世界に名だたるブランドになる要素を多分に備えているように思える。

とはいえ、スバルが世界に認められるブランドになるためには課題もある。性能だけでなく見た目や質感の向上がキーとなるだろう。価格をそのままにしながらも、プレミアムブランドに対抗できる質感を生み出すことがスバルのブレイクスルーになるはずだ。

ブランドの土台がしっかりと固まれば、安売りする必要などない。瞬間的な販売台数よりも浸透させるブランドバリューが将来的な地位を作り出すだろう。そういった自動車メーカーにスバルが成長することを、彼らの姿勢は感じさせてくれる。

▲エンジニアリングを主体とした車づくりこそがスバルの特徴。スバルのエンジニアは“目には見えない性能”に心血を注ぐ ▲エンジニアリングを主体とした車づくりこそがスバルの特徴。スバルのエンジニアは“目には見えない性能”に心血を注ぐ
▲スバルは性能にコストをかけることを良しとしている。その性能は素晴らしいが今後は見た目や質感の向上にも期待したい ▲スバルは性能にコストをかけることを良しとしている。その性能は素晴らしいが今後は見た目や質感の向上にも期待したい
text/松本英雄 photo/尾形和美