メルセデス・ベンツは今年8月、ドイツ・フランクフルトの南に位置するマンハイムからプフォルツハイムまでの全長約100kmのルートで「S500 INTELLIGENT DRIVEリサーチカー」による自動運転実験に成功。これにより都市部における自動運転実現の可能性を自動車メーカーとして初めて実証した。

今回の実験ルートは、今から125年前、メルセデス・ベンツ創業者であるカール・ベンツの妻ベルタが「世界初の長距離自動車走行」を敢行した際とまったく同じルート。

ベルタの時代は他に走る自動車もきわめて少ない道路状況だったわけだが、21世紀の今日では同じルートでも交通量は非常に多く、信号やロータリー式交差点、歩行者、自転車などが錯綜している。

そこを、量産段階に近いセンサーを使ったテストカーが無事に自動運転できた事実は大きい。ダイムラー社取締役のトーマス・ウェーバーは「様々な自動運転機能について量産車への世界初採用を目指し、2010年代末までに達成する計画です」と述べている。

日本勢も自動運転の早期実用化を目指している。日産自動車は2020年までに自動運転技術を複数車種に搭載する予定で、現在、自動運転車開発専用のテストコースを国内で建設中だ。

カルロス・ゴーン社長は「画期的な新技術である“自動運転”を2020年までに投入することを確約します」と宣言している。V字回復からゼロ・エミッションまで、ことごとく有言実行で成功させてきたゴーン社長だけに、今回の自動運転も公約通り成功させる可能性は高い。

こういった新技術は車ファンとしては楽しみであると同時に、「車を運転する楽しみを奪われるのはちょっと…」という思いもあるかもしれない。それについて、前出のダイムラー社取締役トーマス・ウェーバーは言う。

「メルセデスの自動運転システムはドライバーの支援と負担軽減を目指すもので、自分で車を操りたいなら、それも自由です。それは今後も変わることはありません。ただ確かなことは、自動運転は一夜にしてできるものではなく、段階を踏みながら実現していくものだ、ということです」

今後数年でいきなり“運転する楽しみ”が奪われるわけではないし、2010年代末から2020年にかけて自動運転が実用化されたとしても、すべての車両が自動運転モデルになるわけではないだろう。また自動運転モデルであっても、「手動運転+万一の場合に自動運転モードが作動する」というモードは残されるはずだ。

いずれにせよこれからの約10年、自動車の新しい進化の形を見守っていきたい。

テスト走行中のM・ベンツ S500 INTELLIGENT DRIVEリサーチカー。写真ではわかりにくいが、両手は完全にハンドルから離れている

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車載カメラから見た手ぶら運転風景。対向車線をトラックが走ってきているのが見え、結果がわかっていてもドキドキしてしまう

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システムが判断を誤った場合に、ただちに介入して正しい操作を行うべく、実験中は特別な訓練を受けたセーフティドライバーが同乗した

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