新城ラリー

普段絶対に見られない車が間近に!

部屋にはストーブが、車にはヒーターが、まだまだ手放せない3月初旬。新城ラリーは毎年この季節に開催されます。もとは秋の開催でしたが、WRCラリー・ジャパンが秋に開催されることになり、それに合わせて2019年から3月開催へと移動しました。

JRC(全日本ラリー選手権)の第2戦として、愛知県新城市を舞台に行われるオールターマック(舗装路)ラリー。2023年で開催20周年を迎えた、伝統のラリーをリポートします。

新城ラリーを知る前に、まずはJRCのことについて触れておきましょう。JRCとは、JAFが主催し、日本における最高峰のラリーシリーズです。フォーミュラでいえばスーパーフォーミュラ、ツーリングカーでいえばスーパーGTなどと同等のプライオリティをもった競技といえます。
 

新城ラリー▲こちらは12年ぶりの日本開催が話題となった2022年11月に開催されたラリー・ジャパンの模様

SS(スペシャルステージ)と呼ばれる競技区間の走行タイムを競い合うスプリントラリーであり、年間8~10戦の獲得ポイント数でシリーズチャンピオンが争われています。

車の性能によって、クラスが6つ設けられていることもJRCの特徴です。速い方からJN-1、JN-2~JN-6と区分されています。

トヨタ アクアのような一般的なコンパクトカーから、スバル WRXのような本格的な4WDターボ車が一緒に参加できるのも、このクラス分けがあるからこそなのです。

そして、シリーズのチャンピオンはそれぞれのクラスにしっかりと設けられているので、どのクラスのエントラントも年間チャンピオンを狙えます。

最近のJRCは、参加車両が多彩なことも話題になっています。ラリーの本場ヨーロッパで主流になっている純ラリーマシン「FIA R規定」の車両が2020年ごろから本格的に参戦できるようになり、その多彩さには一層華やかさが加わりました。

日本の車検制度とFIA車両では合致しない点がどうしてもあるため、斜線の入った臨番(仮ナンバー)で走行しなければならないのは残念ですが、ものスゴい迫力の音を響かせながら走る姿は一度見たらクセになるほどです。参加する人も、見ている観客も楽しめるのが、今のJRCなのです。
 

王者コバライネンに一矢報いた!

前置きは長くなりましたが、そろそろラリーの本題に移りましょう。

開催時期が春に移ってから、新城ラリーはその年の開幕戦か、もしくは第2戦という立ち位置でした。今年は開幕戦がスノーラリーでしたので第2戦でしたが、例には漏れず本格的なターマック仕様のお披露目場となりました。

今年のJRCは全8戦中5戦がターマックとなります。シーズンを占うという面でも、この新城は重要なラリーなのです。

前年の2022年は、ヘイッキ・コバライネン/北川紗衣 組がぶっちぎりの速さで最高峰クラスJN-1の王者に輝きました。

FIA R規定マシン「シュコダ ファビア R5」と元F1ドライバーの強力な組み合わせは今年も変わらず、この新城でもオープニングSSからステージベストタイムを連発する速さを見せました。

新城の名物ともいえるステージ3本を、午前と午後で2ループするデイ1。コバライネン/北川 組は、すべてのステージでベストタイムをマーク。2位以下に大差をつけ総合首位でラリーを折り返します。

新城ラリー

総合2位には、同じシュコダのR規定マシン「シュコダ ファビア ラリー2 Evo」に乗る福永 修/齊田美早子 組が、3位には今季からJN-2クラスで参戦する奴田原文雄/東 駿吾 組(トヨタ GRヤリス)が入りました。

新井敏弘/保井隆宏 組と鎌田卓麻/松本優一 組のスバル勢や、トヨタGAZOOレーシングの眞貝知志/安藤裕一 組は、ニューマシンへ切り替わったこともあり、デイ1はまだ様子見な部分もあるような走りでした。

新城ラリー

前日の好天から打って変わったデイ2。朝のうちは薄曇りでしたが、午後からは降雨予報も出ています。午前の2ステージで渾身のアタックを見せたのは、今季からプジョー 208 ラリー4で参戦している新井大輝/金岡基成 組でした。

JN-1クラスで唯一のFFマシン、さらに100馬力以上もアンダーパワーの車にも関わらず、この日1本目のSS7では4WD勢を相手に4番、続くSS8では、コバライネンに次ぐセカンドベストをマーク。一気に総合3位へ躍り出ました。

新城ラリー

しかし、208 ラリー4の快走はここまででした。午後からは本格的に雨が降り出し、ステージコンディションはたちまちウエットへと変わり果てました。こうなると4WD車の方ががぜん有利。この天候の変化を読み切ったのが、総合6位でデイ2をスタートした鎌田/松本 組でした。

お昼の最終サービスでウエット用タイヤを履き、車もウエットコンディション用のセットアップへと完全に変更。この判断が功を奏し、SS10ではトップコバライネンのわずか0.7秒落ちのセカンドベスト。

続くSS11では、このラリーで唯一コバライネンに土をつけるステージベストを奪いました。最後の2ステージでの快走により、鎌田/松本 組のスバル WRXは新井/金岡 組を見事逆転。総合3位でフィニッシュしました。

新城ラリー
新城ラリー

総合優勝は、2日間通じて圧倒的な速さを見せた、コバライネン/北川 組。総合2位には、前日からポジションを守った福永/齊田 組が入りました。

世界初の実戦デビュー

この新城ラリーでは、ラリーとはもうひとつ注目の出来事がありました。それは、トヨタが世界中のラリーで戦うカスタマー向けに開発している「GRヤリス ラリー2」の初実戦投入です。

WRCをはじめとする世界のラリーシーンでは、このラリー2マシンが圧倒的なシェアを誇ります。すでに、シュコダ、シトロエン、ヒョンデ、フォードなど様々なメーカーがリリースしていますが、トヨタはこの市場へ挑戦するのです。そのマシンが今回お披露目された、GRヤリスのラリー2です。

新城ラリー

今回はまだテストの段階での参戦でしたので、エントリーは賞典外のオープンクラスからとなりました。クルーは、勝田範彦/木村裕介 組の2021年チャンピオンコンビ。

デイ1から速さを見せ総合2位に位置するタイムでラリーを折り返したGRヤリス ラリー2でしたが、デイ2午後のアクシデントからリタイアとなりました。

しかし、その鮮烈な走りはまさに最新ラリー2マシンそのもの。このマシンの走りが見られるだけでもJRCを見に行く価値はあるでしょう。

例年に比べ、見どころが多い2023年のJRC。シーズン途中には、スバルの新型WRX投入も予定されています。もちろんタイトルの行方も気になりますが、JRCの魅力は最新ラリーカーが普段使っている公道を全開で駆け抜けるカッコいい姿を見られること。

これは、他のモータースポーツでは絶対に味わえない大きな魅力です。JRCは全国各地で開催されます。今シーズンのどこかで、お近くのラリーを見に行くのもいいでしょう。一度見てしまえば、その魅力にハマってしまうこと間違いなしです!

文/青山朋弘、写真/青山朋弘、トヨタ、STI