BMWの直列6気筒エンジンが高く評価される理由は、その歴史と哲学にあり!
2022/05/12
元航空機エンジンメーカーの伝統が色濃く残る直6
どんなに良いエンジンであっても、環境やレギュレーションの変更がある以上、そのままの状態で生産し続けることはできない。
エンジンフードとエンジンのクリアランス確保のためにV型構造にボンネットを低くしたり、クラッシャブルゾーンを稼ぐためにエンジンを短くしなければいけないこともある。エンジン単体を短くすることが目的でV型に変更することだってある。
自動車メーカーは、時と場合によっては内燃機関の歴史や哲学を覆してでも、随時レギュレーションに対応しているのだ。 しかし、それらの理由で長年培われたブランドのアイデンティティであるフロントマスクやボディのデザインに変化が生じてしまうこともある。ただひとつの自動車メーカーを除いては……。バイエリッシェ・モトーレン・ヴェルケことBMWである。
ここまで内燃機関に対する自分たちの哲学を貫き通している会社はない。「ポルシェは?」と思う方もいるだろうが、あちらは特別なスポーツモデルに特化したブランドだ。BMWのような、普通乗用車用として直列6気筒を作り続けているメーカーとはちょっと異なる。
そして、BMWの象徴ともいえるのが、その直列6気筒エンジンである。直列6気筒というのは、複雑な機構を伴わずして最高のパフォーマンスを発揮できる構造となっている。この最高のパフォーマンスとは、スムーズで振動を打ち消す高いパッケージングの基本が備わっているということだ。そして、振動は車両の様々な部分にも少なからず負荷を与えてしまう。また、ドライバーや乗員の身体にも振動が絶えず伝わっていては快適ではない。振動によって苦しむのは、機械も人も同様なのである。高級モデルが6気筒以上の多気筒化をしている理由のひとつが、まさにこの振動問題なのである。
ではなぜBMWは、この直列6気筒エンジンを作るのが上手いのだろうか。
BMWは理論的に素性の良い部分を磨き、技術の信頼性を向上させてきた歴史がある。それは故障が許されない航空機用の直列6気筒を作ってきた頃から変わらない。BMW=6気筒のイメージが強いゆえんのひとつであろう。
そして、BMWは1916年から現在まで直列6気筒を作り続けている。つまり、100年以上前から内燃機関と向き合い、世界のレギュレーション、環境の変化に対応しながら直列6気筒の進化に磨きをかけてきたということだ。
直列6気筒エンジンには弱手もある。まずエンジン全長が長く、しかもシリンダーが垂直なためにエンジンフードを低くすることが難しい。これが理由でエンジン方式を方向転換する自動車メーカーもあったのだ。ところが、安易に直列式を捨てずに基礎を変えないのがBMWだ。エンジンフードのデザインを工夫し、エンジンの位置を後ろに持っていくプラットフォームの採用により、運動性能とスタイリングに寄与させたのだ。こうした独自の設計理念によってBMWらしいスタイリングが完成したといえるのである。
自動車用として高性能直列6気筒を作ったのが1936年。そのユニットをM328という。このエンジンは航空機技術を導入し、シリンダーヘッドとブロックはともにオールアルミで作られていた。
BMWがエンジン屋として高く評価され続ける理由は、かつての名エンジンを源流とし、それを現代まで強い意志で継承し続けている点にあるのだ。