レクサス RX ▲壁一面、天井もガラス張りのガレージに愛車を収めその様子をリビングから眺めると、まるでショーケースの中に愛車が佇んでいるように見える。30年以上変わらない、この住宅の魅力の一つだ

場所や時間の違いで様々な表情を見せてくれる

約30年前、1988年に開催された『カーマニアのための住宅』をテーマとした建築コンペのグランプリ受賞作品が、この邸宅だ。

設計した建築家の小林克彦さんは、「カーマニアにとって車は家族の一員であり、わが子のようなもの。ところが子供には明るい部屋が用意されるのに、車はたいてい薄暗いガレージに押し込まれています」。

そこで、ガレージの壁一面と天井をガラス張りにした。対面するリビングもガラス張りに。その間に中庭を配したのは、車と近すぎず離れすぎない程良い距離感を生み出すためだった。

実際、コンペの審査員は「近すぎず、熱い愛情をさらりとクールに演出している距離感」を高く評価した。

このグランプリ受賞作品は、実際に建築され販売された。その家をひと目で気に入ったのが、現在の施主であるOさんだ。「デザインがとても素敵でした」。Oさんが気に入った隅々まで洗練されたデザインもまた、審査員が評価した点だ。

「それに見る場所が変わればガレージや中庭の風景も変わる。時間や四季の移ろいによっても表情が変わります」

それは、住み続けて30年以上変わらぬ魅力だという。

30年という時が流れる間に、この家で育った子供たちはみな大人になり、独立して、今ではOさん夫婦2人の『カーマニアのための家』となった。

「正直、私はカーマニアではないんだけど」と笑うOさんだが、家族との思い出もたっぷり染み込んだこの家に、愛着は深まるばかりのようだ。
 

建築家のこだわり:
模型でシミュレーションして生み出したショーケース

レクサス RX ▲敷地の中央にある中庭を囲むようにリビングと廊下があり、廻廊となっている。廊下も中庭側が一面ガラス張りで、どこからでも中庭と、ショーケースに収まる愛車を眺めることができる

住宅街で三方を家に囲まれた敷地ですから、プライバシーを確保しつつ、そのうえでリビングやキッチン、廊下、中庭、2階のテラス、寝室……と、どこからでも愛車が美しく眺められるようにするため、模型を使って何度もシミュレーションしました。

ショーケースのように見せるために、ガラスと柱、梁との関係にもこだわりました。また明るい中庭を敷地の中心に配置することで、愛車とともに四季を感じ、車と人との素敵な関係を生み出せるようにしました。
 

レクサス RX ▲リビング上のテラスから。日陰の移り変わりだけでも多彩な表情が楽しめる
レクサス RX ▲築30年以上だが、Oさんによる定期的なメンテナンスによって建築当時のままを維持している。普段は車を出しやすい玄関横の駐車スペースに止めているそう
レクサス RX ▲ガレージ入口の前にも1台、さらにガレージの奥にも1台置けるスペースがある
レクサス RX ▲リビングからの眺め。柱と柱の間もガラス張りになっている。中庭のシンボルツリーはハナミズキだ
レクサス RX ▲ガレージの床もリビング同様、大理石が敷き詰められている 

■主要用途:専用住宅
■構造:鉄筋コンクリート造
■敷地面積:330.57㎡
■建築面積:131.65㎡
■延床面積:247.63㎡
■設計・監理:ART-SESSION
■TEL:042-312-0028

※カーセンサーEDGE 2020年5月号(2020年3月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
 

文/籠島康弘、写真/尾形和美