ガレージを中心にして 視線が交錯する家

訪れたI邸は、スキップフロアの構造を採用し、さらに間仕切りの壁にガラス窓を設けて間取り以上の広さを感じさせる家となっている

つながりのある空間だから どこにいても一体感がある

玄関を入り短い階段を上がると、正面にダイニングが広がる。左手のガレージはフロアレベルが下げられているので、Iさんの愛車マツダロードスターを俯瞰気味に観察できる。その向こう側にはIさんの書斎があり、いかにも趣味を満喫する場所という趣だ。ガレージの真上はリビング。さらにその上には子供部屋と寝室がリビングを挟んで存在する。

おさらいをすると、ガレージが最下段。書斎が2段目。ダイニングが3段目。リビングが4段目で子供部屋が5段目。さらに寝室が6段目となる。これらが巧みに組み合わされ、ユニークな空間を構築している。さらにバスルームやトイレ、バルコニーなどを考慮すると、

「基本的には2階建てですが、細かくいえばフロアレベルは9つです。スキップフロアは斜め上や斜め下に広がりができるので、より広く感じるというメリットがあります」

と、山縣さん。冒頭お伝えしたワクワクする感覚は、こんな作りがもたらしているようだ。インテリアは白が基調。そこにダイニングのチェアや時計、リビングのソファなどの赤がアクセントとなって空間を引き締める。さらにキッチンには、目を奪う真紅の大型オーブンが設置されている。ところでこのキッチンは外から丸見えだが、視線が気になるのでは?

「パティシエの奥様がケーキ教室を開いているので、その様子が外から見えるようにしているのです」

と山縣さん。I夫人も、

「できるだけ生活感を出さないように、洗濯などの日常作業は上のフロアでできるようにしました。さらに階段下を収納にするなど、モノを表に出さないようにしています」

あえて「見せるキッチン」としているわけだ。

リビングに移動し足元を見ると、フロアの一部がガラス張りになっている。ちょうどロードスターを真上から見下ろせる位置だ。そういえばI邸には、至るところに小窓が設けられている。それは単に採光のためだけではなく、ここで暮らす家族の気配を察知するためにも重要な役割を果たしている。たとえばリビングフロアのガラス窓。Iさんがクルマで帰宅した際に子供たち(7歳と4歳のお子さんがいらっしゃる)が「パパ、お帰り!」と覗き込んでいる様子が目に浮かぶ。書斎のデスクに座り顔を上げると、そこの小窓は子供部屋のベランダにつながっている。そこからも、子供たちの屈託のない笑顔が見えるはずだ。

「たとえばリビングからは子供部屋や書斎、ダイニングやガレージなどが直接見えます」

と山縣さん。これも、各部屋をフロアごと独立させたことで実現した特徴だ。

どこにいても楽しい。どこにいても居心地がいい。どこにいても家族の暖みが感じられる。ファミリーにとって理想的な空間がI邸だ。

IT
建築家:山縣 洋
山縣洋建築設計事務所

tel.044-931-5737 http://www5d.biglobe.ne.jp/~yoy/
所在地:神奈川県川崎市 主要用途:専用住宅 家族構成:夫婦+子供2人
構造:木造 規模:2階建 敷地面積:141.30m² 延床面積:123.93m²
設計・監理:山縣洋建築設計事務所/山縣洋

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi

前編を見る

ダイニングキッチンから階段を下りて玄関へ向かうと、ガラス越しにガレージの愛車が見える

リビングは、ダイニングから1段上がった位置にレイアウトされる。ダイニング側の折れ戸を開くとダイニングからリビング、その上の子供部屋までがひとつの空間になる

リビングの床の一部を強化ガラスとしている。そこからもガレージの愛車を眺められる