伸びやかな外観に抱えられたガレージ

まるで空に伸び上がるような造形を持つ住宅『FLOW』は、国内外を問わず活動する建築家・黒崎敏氏が手がけたもの。デザイン性を優先させたのではなく、機能性を重視した結果、生み出されたという独創的なガレージ付き住宅の魅力に迫ります

機能を追求することで生まれた独創的な造形

S邸は、東京ディズニーランドに程近い住宅街にある。前述のとおりひときわ異彩を放つS邸だが、この外観について黒崎さんは、「機能を優先した結果、この形になりました。機能プライバシーの確保とガレージの庇(ひさし)の効果、それから光の取り込み方です」

とのこと。たとえば、ゲストがS邸を訪れ外から観察した際、正面に窓がないことなどから「中はどうなっているんだろう?」と思う。外から見ると閉ざされた空間を想像するが、ガレージ外の門から入った瞬間、また室内に入った瞬間のサプライズも、黒崎さんは狙って設計をしたようだ。

事実、門から玄関までの空間は、いろいろな表情をもつ。広いステップをもつタイルの階段と脇に敷き詰められた玉石。クールな印象だが、適度に緑をあしらうことで、どこか『和』の趣を感じさせる。見上げると、空に向かって鋭角に削り取られたような壁面が、まさに庇のように玄関からガレージスペースを覆っていることがわかる。

「地面に対して平行の庇ではないため光がたくさん採り込めるうえに、広がりもあって、ピロティのようなイメージになっています」

と黒崎さん。またガレージスペースについては、「ガレージ前の扉を閉じれば家の中ですが、開け放てば外となる中間領域としています。日本家屋の縁側や土間などのように、外部を取り込むコミュニケーションスペースになるようにしています」

玄関のドアを開けると、エントランスのフロアは廊下まで同一素材で続いている。これにより視覚的な奥行きを演出。また、正面の階段から天井にトップライトからの自然光がたっぷり注がれ、ゲストが2階に誘われているような感覚を覚えることも、黒崎さんの計算だ。

2階は、リビングダイニングキッチン。Sさんの「広いLDKを!」というオーダーどおり、広さと明るさを満喫できる空間だ。自然光の採り入れ方も絶妙だが、Sさんが「いちばん気に入っている」という「全開にできるバルコニー側の窓」の開放感は格別。ちょうど庇の上側が巨大スロープのようになっていて、それがレフ効果をもたらし、直射日光にはない柔らかな光を室内に採り入れることができる。また、リビングルームからの眺めは外界の人工物がいっさい目に入らないため、居ながらにして非日常的な時間を味わえることも特徴だ。

「S邸は、空をテーマにしています。周辺に高い建物がないこと。Sさんがアウトドア好きでアクティブな方であること。それらから『空を切り取る』ことを意識しました」

と黒崎さんが言うとおり、外から見た様子も邸内から眺める景色も、巧みに空が切り取られている。施主のライフスタイルやキャラクターを住宅の形として具現化する。これぞ黒崎さんの真骨頂なのである。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

前編を見る

一般的な垂直の壁と比べて、外壁を斜め にすることで閉塞感が払拭できるという

1階には4部屋あるが、引き戸の仕切りにより、大きな空間にすることもできる

玄関や床は黒を基調として、窓からの光と対比させて、明るさを際立たせている

FLOW
建築家:黒崎 敏

APOLLO architects & associates
tel.03-6272-5828
http://www.kurosakisatoshi.com/

所在地:千葉県浦安市 主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦、子供1人、母
構造:RC造 規模:2階建
敷地面積:148.55㎡ 延床面積:140.32㎡
設計・監理:APOLLO architects & associates/黒崎 敏