来春、日本導入予定の車に先行試乗してきた

昨年、正式に復活したフィアットグループのアバルトビジネス。ヨーロッパでは着実に若年層の支持を集め始めているらしい。グランデプントアバルトを購入した人のうち、30代までのユーザーが実に6割に及ぶ。若者の車離れはヨーロッパの自動車業界でも問題になっているが、そういった状況下でこの数字は立派だ。もっとも、アバルトが日本に上陸するにしても、同じように若者ウケするとは思えない。

逆に昔を知る“オトナのオモチャ"になる可能性のほうが格段に高い。アバルトへの関心は、ここ日本においては、イタリア人も真っ青なマニアックさである。それを見越した高めの値段設定にならないことを祈るばかりだ。フィアットグループのテスト基地、バロッコのテストコースで初めて実車と対面したボクは、ひと目惚れよりも強烈な、曰く言い難い気分になってしまった。むちゃくちゃに乗り回したい!

もはや正しいラインを走ろうとか、キレイな姿勢で駆け抜けようとか、そんなテクニカルなことはどうでもよくなって、ただアクセルペダルを踏みつけ、向かいたい方向にステアリングホイールをこねくり回し、何が何でも突っ走りたいという心の命ずるまま、それ以外のことなど一切忘れて無心に前進を求める。アンダーも、オーバーも、なーんも関係ない。車なんてものは、本来、がたがた言わずに乗っているだけで楽しいもんだと、改めて思い知らされた。能天気なほどに楽しい車。それが500アバルトの第一印象である。

スタイリングからインテリアの造作まで、“運転してみたい"という気にさせる演出が、本当に巧いし憎い。試乗前のプレスカンファレンスで、バロッコのテストコースをプロドライバー(かテストドライバー)が駆って走る500アバルトの映像を見せてもらったが、ダンゴムシが地面からつかず離れず、時に後輪をリフトして、滑るように流れるように走る姿を見ていると、もうそのときすでに“乗りてぇ"な気分になった。

やや高めのシートポジション。ちょっと違和感がある。これはレザーシート仕様で顕著で、クロスシートの場合は幾分緩和されていた。ダッシュボード回りは、ノーマルの500とは随分と違う雰囲気だ。メーターナセル向かって左側、ブースト系と、シフトアップインジケーターが特徴。ためらわずブーストアップのスポーツボタンを押してスタートした。クラッチペダルを含め、操作系はあくまで軽め。乗り心地も小気味よく、悪くない。これなら街でも存分に乗り倒せそうだ。

テストコースゆえ、周りを気にせずにフルスロットルを試みることができた。135CVの1.4Lターボエンジンは確かにパワフルだが、過激というほどではない。もう少し毒気があってもいい気もするが、それは純正チューニングキット“SS(エッセエッセ)"仕様にとってある?! SS仕様は180CVという噂だから、相当に毒々しい走りをみせそう。ちなみに、ローンチ記念限定モデルは160CVで出ることが確定しており、こちらも楽しみ(日本発売は未定)。何せ、1トン前後の車なのだから。

このサイズの車としては、高速域でもかなり安定している上、ブレーキング時の姿勢変化も最小限。とにかく何の気兼ねもなくかっ飛んでゆき、そのままドーンとコーナーに迫ってゆける。高い速度を保ったまま、カックーンと頭の向きを変えてコーナーに突っ込んでいくのが、これほど楽しい車はほかにない。オトナのオモチャとして、最高に楽しめる。本国仕様には、マニエッティマレリと共同開発のテレメトリーシステムも搭載できるようだ。サーキットデータなどを保存して、あとから自分のドライビングを振り返ることができる。GT-Rの開発で活躍したシステムのエンターテイメント版だ。日本仕様にも期待したいが、どうだろうか。

アバルトは、まず今年中にグランデプントアバルトが日本に上陸する予定だ。500アバルトは来春。右ハンドルの予定もある。SS仕様も同時に入るらしいが、すぐに装着できるかどうかは未定。ヨーロッパではオーナーになってから1年、もしくは2万kmでSSキットが購入可能という仕組みになっている。

今回登場したクルマ、メーカーたち

フィアット500

往年の名車が復活し、まもなくスポーツモデルが追加される

ライバルのクルマたち

VWルポ

もはや絶版となってしまったが、一部エンスーには「GTI」が愛されている

ボルボC30

モーターショーのコンセプトカーが飛び出してきたような強烈な個性

ミニ

ヨーロッパではポルシェターボオーナーがセカンドカーに購入するケースが多い

トヨタヴィッツ

1.5Lエンジン搭載の「RS」は本格派ホットハッチの仕上がり

シトロエンC2

超個性的な弾丸コンパクトは低重心と“猫足"が武器

フォトコレクション

写真:低重心を感じさせるデザイン|試乗by西川淳

低重心を感じさせるデザイン

ドア下付近にあしらっている「ABARTH」のロゴ、大型ホイール、空力を考慮したであろうフロントバンパーの形状、すべてが低重心を感じさせるデザインになっている。これぞデザイン“力"

写真:全体的にマッチョです|試乗by西川淳

全体的にマッチョです

フロントスポイラー、サイドスカート、リアバンパー、リアウイングなどはあからさまに主張しない控えめなもの。しかし、車全体をスポーティなイメージに仕上げている

写真:ABARTHらしいスパルタンな雰囲気|試乗by西川淳

ABARTHらしいスパルタンな雰囲気

ベースの500に比べると、かわいらしさの微塵も感じさせないのは驚かされる。色使いだったり、本革やステッチのあしらい方は“さすが"としか言えない。センスが光っています

写真:本革シートは要改善か?|試乗by西川淳

本革シートは要改善か?

やや高めのシートポジションで、座ってみるとちょっと違和感がある。これはレザーシート仕様で顕著で、クロスシートの場合は幾分緩和されていた。日本仕様では改善されるか?

写真:1.4lターボエンジンはパワフルです|試乗by西川淳

1.4Lターボエンジンはパワフルです

アンダーも、オーバーも、なーんも関係ない。車なんてものは、本来、がたがた言わずに乗っているだけで楽しいもんだと、改めて思い知らされた。能天気なほどに楽しい車

Report / 西川 淳