パガーニ ウアイラ エピトーメ▲スーパーカーの世界では今、“操る楽しさ”のあるMTが人気。ネオクラシックスーパーカーでも同様にMT人気が高まっている。ところが、マルチシリンダー、大排気量、自然吸気の条件が揃うMTは絶滅の危機! そんな今のうちに乗っておくべき、モデルを紹介する。写真はパガーニ ウアイラ初のMTモデル「エピトーメ」。オーダーで1台のみが作られた

最新モデルにはない“操る楽しさ”を体感する

スーパーカーの世界では今、嬉しい“異変”が起きている。ゴードン・マーレー・オートモーティヴ(GMA)やパガーニ・アウトモビリの最新モデルオーダーでMT(3ペダルマニュアルギアボックス)の人気がAT(2ペダル)を大きく上回っているというのだ。数億円のハイパーカーで、あえてMTを選ぶ。いったい何が起きているのか?

背景にはまず、ネオクラシックスーパーカーにおけるMT人気を挙げることができるだろう。例えばランボルギーニ ガヤルド。前期モデルの2ペダルであれば支払総額1000万円以下でも見つかるが、3ペダルとなると1800万円以上に跳ね上がる。およそ倍。今後、その差はますます開くと思われる。なぜならそもそもの流通量が“まるで違う”からだ。おそらくMTの割合は5%程度。今のところ2倍の価格で済んでいるが……。

レアさだけじゃない。根底にあるのは“操る楽しさ”を欲しているからだ。最新モデルの性能は上がりっぱなし。当然、ドライバーの腕は基本的に“停滞”したままだから、そのギャップを制御という名の技術が埋めていくことになる。今や1000psの2駆でも不安なくドライブできるようになった。こんな状況に“飽きてきた”ドライバーが増えているというわけで、3ペダルMTへの回帰が進んだのだ。

今後、3ペダルMT復活はいろんなモデルで起きると思われるが、だからと言って、古いMTモデルの需要が落ち着くとは思えない。なぜなら組み合わせるエンジンもまた3ペダルMTにふさわしい方が嬉しいに決まっているから。

3ペダルMTの醍醐味は変速するエンジン回転数を自分の意思で決め、それを自分の手足を使ってスムーズに成し遂げるプロセスにこそある。ならばまず、エンジンがキレイに高回転域まで回ってほしいし、ピストン運動のシンフォニーも楽しみたい。ノイズやバイブレーションも大事というわけだ。

ここまでならマツダ ロードスターでも楽しめるから、新車でも(今ならまだ)買うことができる。けれどもさらにスリルも欲しいとなれば、パワーも必要になってくる。高回転域での快感も大事、となってくれば、マルチシリンダーで大排気量の自然吸気エンジンが欲しくなってくる。

前述のGMAはV12自然吸気エンジンを積んでいる。だからMTでエンジンフィールをとことんむさぼりたいと多くのカスタマーが考えた。といってもGMAのマシンは限定生産で価格も3億円以上。とてもじゃないが手が出ない。かといって、アフォーダブルなクラスにおいてマルチシリンダーの大排気量自然吸気エンジンが今後あらたに復活する可能性は極めて低い。エンジンは過給機付きが常識となり、電動アシストで生き残りをかけているからだ。ならば過去から探すほかなくなるじゃないか!
 

絶滅寸前のパワートレインとボディスタイルの組み合わせ

というわけで、今のうちに中古車で探して乗っておくべき車のパワートレーン条件が導かれた。マルチシリンダー、大排気量、自然吸気の3ペダルMTである。そこに、2ドアクーペ&オープンや4ドアセダン、さらにはミッドシップレイアウトといった、これまた絶滅寸前のボディスタイルを組み合わせれば、“今のうちに乗っておけ”度はさらに高まる。
 

 

候補1|フェラーリ 360モデナのMT

フェラーリ 360モデナ▲スチール製モノコックに代わりアルミ製スペースフレームを採用、ファストバックスタイルやエンジンが見えるようガラス製フードを用いるなど、モダンV8ミッドシップの先駆けとなるモデル

すでに相場は上がっているが、それでもまだなんとか買えそうな3台を挙げておこう。

まずはフェラーリ 360モデナだ。2ペダルのF1ミッションに比べると500万円以上高いけれど、こちらもMTの生産台数は1割に満たないことを思い出せば、それでも十分“割に合う”。そもそも生産台数の多いモデナゆえ、平均相場はF355よりも安い。安いと言える今のうちに程度のいいMTを探しておくべきだ。
 

▼検索条件

フェラーリ 360モデナ(MT)× 全国

▼検索条件

フェラーリ 360スパイダー(MT)× 全国
 

候補2|シボレー コルベットZ06(C6)のMT

シボレー コルベットZ06(C6)▲アメリカンスポーツを代表するシボレー コルベット。6代目は2004年に登場、旧型より軽量でコンパクトなり、リトラクタブルヘッドライトが廃止されている。そのハイパフォーマンスモデルがZ06、最高出力513psの7L V8エンジンを搭載する

次にオススメは大排気量+MTの世界最高峰、C6コルベットのZ06だ。

もうこのモデルは何年にもわたってリコメンドしてきた。価格が上がるというより、唯一無二の乗り味を楽しんでほしいと思ったから。車に乗っているというよりエンジンに載っかっている感覚という意味では車版ハーレーだ。さすがに相場も上がっていて、この数年で倍近くに跳ね上がった仕様もある。とはいえ、まだ高くても1500万円くらい。7L自然吸気をMTで楽しむ。427コブラのモダンフィールをぜひ。
 

▼検索条件

シボレー コルベット Z06(C6、MT)× 全国
 

候補3|マセラティ クーペのMT

マセラティ クーペ▲3200GTの後継として2002年に登場したラグジュアリーGT「マセラティ クーペ」。イタルデザインがデザインを担当、フェラーリ由来の4.2L V8エンジンを搭載する。6速MTとカンビオコルサと呼ばれる6速セミATが用意された

穴場モデルもある。最近、マーケットで見かけることが減ったマセラティ クーペのMTだ。

流通量が極めて少ないためめったにお目にかかれないけれども、出てきたとしてもフェラーリやランボルギーニほど高くない(お付き合いの覚悟は同じくらいかもしれないが)。未来への投資を楽しむという視点では面白い存在だ。
 

▼検索条件

マセラティクーペ× 全国
 

候補4|メルセデス・ベンツ C63 AMG クーペ

メルセデス・ベンツ C63 AMG クーペ▲2011年のCクラス改良に合せて登場したハイパフォーマンスモデル、C63 AMGのクーペ版。最高出力457psの6.2L V8自然吸気エンジンを搭載する

ここまで散々MTを勧めてきたけれど、2ペダルでも大排気量+自然吸気+FRもしくはMRで今のうちに狙っておくべきモデルを紹介しておこう。

1台目はメルセデス・ベンツ C63 AMGのクーペだ。6.2Lの自然吸気M156型エンジンはAMG史上、最高の名機。機能性を最重要視するメルセデスにあって、エンジンフィールまで極めたユニットは他にない(厳密にはM156型派生のM159型以外)。セダンやワゴンもあるが、ここはコレクタブルの常道にのっとって2ドアクーペを、ぜひ。
 

▼検索条件

メルセデス・ベンツ Cクラスクーペ(2011~2015年)× 全国
 

候補5|ランボルギーニ アヴェンタドール

ランボルギーニ アヴェンタドール▲2011年に登場したミッドシップ2シーターのフラッグシップモデル。シャシーだけでなく、6.5L V12自然吸気エンジンも新開発され、シングルクラッチの7速セミAT(ISR)と組み合わせられた

〆の1台はランボルギーニ アヴェンタドールだ。

それも前期型のスタンダードグレードだ。何を今更、と言われるかもしれない。限定モデルのSVJやウルティメは、このところ少し軟調気味とはいえいまだ8000万円以上をキープ。SVでも6000万円前後と強気だ。一方で前期のスタンダードモデルであれば3000万円台から良モノが見つかる。一般道で乗る限り、パフォーマンスは似たようなものだし、何より結局のところシンプルなオリジナルデザインが最もかっこいいと思う。カウンタックLP400のように。

ランボルギーニ史上、最も成功した12気筒モデルゆえ、そのオリジナルコンセプトを今のうちに楽しんでほしい。
 

▼検索条件

ランボルギーニ アヴェンタドール× 全国
文/西川淳 写真/パガーニ・アウトモビリ、フェラーリ、マセラティ、メルセデス・ベンツ、アウトモビリ・ランボルギーニ、ゼネラルモーターズ

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。