▲現行型(タイプ992)の登場から2年以上が経過しているにもかかわらず、カーセンサーの直近の人気ランキングで総合4位に入った先代ポルシェ911。人気の理由と、その「2021年的選び方」を考えてみましょう! ▲現行型(タイプ992)の登場から2年以上が経過しているにもかかわらず、カーセンサーの直近の人気ランキングで総合4位に入った先代ポルシェ 911(タイプ991)。人気の理由と、その「2021年的選び方」を考えてみましょう!

特に前期型は自然吸気911の完成形。人気は当然!

カーセンサーだけが持っている膨大なデータをもとにした、毎年恒例の中古車注目度&競争率ランキング「カーセンサー・カー・オブ・ザ・イヤー」。その2021年版で総合4位に入ったのは、世界を代表するスポーツカーと断言しても決して間違いではないポルシェ 911の先代モデル、「タイプ991」でした。

というか、歴代ポルシェ 911は毎年ほぼ必ずカーセンサー・カー・オブ・ザ・イヤーの上位にランクインするわけですが、まぁ当然といえば当然でしょう。

1960年代からかたくなに「水平対向6気筒エンジンをリアにマウントする」という方式を意地でも貫いている姿は、それだけでグッときますし、空冷方式か水冷方式かにかかわらず、水平対向エンジンならではのビート感と、リアエンジンならではの圧倒的なトラクション性能を背後に感じながら走るのは、他のどんなスポーツカーとも違う高揚感をドライバーに与えてくれます。

また、「やたらめったら精密でクールなフィーリングなのに、同時にどこか野性味も感じられる」という全体の手触りも、世代を問わずポルシェ 911という車でしか味わうことができない魅力です。

さらに、今回4位に入ったタイプ991の前期型は「自然吸気エンジンを搭載する水冷911カレラの完成形」とも言える世代ですので、総合4位に輝いたことについては「当然でしょう!」としか言いようがありません。

そして2021年末の今、そんなポルシェ 911の先代モデル「タイプ991」を買うとしたら、どの世代のどんなグレードを選ぶのが得策なのでしょうか?

いろいろと考えてみることにいたしましょう。
 

▲約8年にわたって製造販売されたポルシェ911のタイプ991。写真の2台はいずれも前期型で、右の赤いモデルが「911カレラ」。左のシルバーはその高出力版である「911カレラS」▲約8年にわたって製造販売されたポルシェ 911のタイプ991。写真の2台はいずれも前期型で、右の赤いモデルが「911カレラ」。左のシルバーはその高出力版である「911カレラS」

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ポルシェ 911(タイプ911) ×全国

モデルライフの途中でダウンサイジングターボエンジンに変更

まずは先代ポルシェ 911(タイプ991)の基本情報について、ちょっとだけおさらいをしておきます。

タイプ991は2011年9月のフランクフルトモーターショーでデビューし、日本では同年11月から「カレラ」と「カレラS」の受注がスタートしました。

前身であるタイプ997と比べてホイールベースと前後トレッドは拡大されましたが、同時に45kg以上におよぶ軽量化などにも成功し、「スポーツ性能も居住性も向上する」という結果になりました。

ベースモデルの「911カレラ」は新開発された最高出力350psの3.4L水平対向6気筒自然吸気エンジンを搭載し、高出力版の「911カレラS」は、先代と同じ3.8Lながら15ps増の最高出力400psとなる自然吸気ユニットを搭載。トランスミッションはいずれも7MTまたは7速PDKです。
 

▲こちらが前期型のカレラ▲こちらが前期型のカレラ
▲タイプ991の運転席まわりは、年代やグレード、オプション等によって微妙な違いはありますが、おおむねこのようなデザイン▲タイプ991の運転席まわりは、年代やグレード、オプションなどによって微妙な違いはありますが、おおむねこのようなデザイン

翌2012年以降は4WD版である「カレラ4」や、研ぎ澄まされた自然吸気エンジンを搭載する「GT3」、超強力な「ターボ」「ターボS」等々を追加しながら、ラインナップを充実させていったタイプ991でしたが、2015年9月にドラスティックな変化が生じます。

それまでは一貫して3.5L前後の自然吸気エンジンを採用してきた歴代ポルシェ 911のカレラ系でしたが、このタイミングから「3Lのターボエンジン」に変更されたのです。世の中のダウンサイジングの波が、いよいよポルシェ 911にまで到達した……ということなのでしょう。

3.4Lまたは3.8Lの自然吸気エンジンを搭載していた前期カレラ系は俗に「991.1」と呼ばれていますが、2015年9月以降の3Lターボエンジンに変わった後期型カレラ系は「991.2」と俗称されています。

後期991.2はPASM(電子制御式可変減衰ダンパー)が全車標準装備になり、その他にも様々な改良が施されたため、実用的にも使えるスポーツカーとしての具体的な諸性能は確実に向上しました。

しかし、「自然吸気エンジンならではの切れ味とフィーリング」を求める人も多く、ターボチャージャーが装着される前の「991.1」は今なお、中古車市場で高い人気を集めています――というのが、かなりざっくりですが、991型ポルシェ 911のヒストリーです。
 

▲2015年途中から搭載された3Lターボエンジン。自然吸気だった前期型のエンジンと比べて排気量は0.4~0.8L小さくなっているが、最高出力は逆に20ps向上している▲2015年途中から搭載された3Lターボエンジン。自然吸気だった前期型のエンジンと比べて排気量は0.4~0.8L小さくなっているが、最高出力は逆に20ps向上している
▲エンジンの変更に伴い、フロントバンパー付近の造形も変更された▲エンジンの変更に伴い、フロントバンパー付近の造形も変更された

2021年にあえて買うなら「自然吸気エンジン搭載の前期型」

以上のヒストリーをふまえ、「では2021年末の今、どの世代のどんなタイプ991を選ぶのが得策か?」ということを考えてみましょう。

究極の結論を先に言ってしまえば、「(コンディションの良い個体でさえあれば)どれを選んでも良し!」ということにはなります。なぜならば、それぞれ個性や性能、あるいは相場の違いはありますが、それぞれのタイプ991はどれも素晴らしいスポーツカーだからです。

とはいえ、その究極結論だけで話を終わらせるのもあんまりですので、もう少し議論の解像度を上げてみましょう。

中古車でも4000万円以上はする「GT2 RS」などを買えるほどの超お金持ちではなく、なおかつ「GT3」などで頻繁にサーキットを走るわけでもない「比較的フツーの人」が今、タイプ991の中古車を買う場合のベストチョイスは、果たしてどれなのでしょうか?

……結論から申し上げると、俗に991.1と呼ばれている前期型のカレラ/カレラS/カレラ4/カレラ4Sこそが、おそらくはベストでしょう。
 

▲写真は前期型のカレラ4S。後輪駆動のカレラ/カレラSと比べて、リアフェンダーは左右にそれぞれ22mmずつ拡大され、リアタイヤも10mmワイドなものが純正装着された▲写真は前期型のカレラ4S。後輪駆動のカレラ/カレラSと比べて、リアフェンダーは左右にそれぞれ22mmずつ拡大され、リアタイヤも10mmワイドなものが純正装着された

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ポルシェ 911(タイプ991)×カレラ ×カレラS ×カレラ4 ×カレラ4S ×前期型 ×全国

3Lのダウンサイジングターボに変わった後期型、991.2のカレラ系ももちろん素晴らしい車です。しかし、ターボで加給されたエンジンの味わいは、991.2ではなく現行型「タイプ992」でも味わうことができます。

世の中には様々な新車もあるのに、わざわざ中古車を選ぶ理由は「安いから」というのも正直ありますが、決してそれだけではなく「新車では絶対に味わえない魅力が、そこにあるから」という理由も大なはずです。

であるならば、新車では絶対に味わえない「自然吸気エンジンの切れ味」が魅力となる991.1を選ぶのが、この場合は正解となるわけです。もちろん、「唯一の正解である!」などと言い張るつもりはありませんが。

そして、同じタイプ991の前期型でも「ターボ」や「GT3」などではなく「カレラ系」を推す理由はシンプルです。ここでのモデルケースとしている「比較的フツーの人」が買うには、ターボやGT3はちょっと手が出しにくい価格だからです。具体的には、車両価格だけで1500万円以上はする場合が多いでしょう。

もちろん、その金額に抵抗がない人であればターボやターボS、GT3などをお選びになるのも素晴らしいことです。しかし、今は「比較的フツーの人」を対象に話を進めていますので、“役モノ”と呼ばれる高額グレードのことは、本稿では無視させていただきます。
 

▲最高出力475psの3.8L自然吸気エンジンを搭載する「GT3」。素晴らしい車であることは間違いないが、街なかで普通に乗るには足が硬く、また中古車価格も高いため、一般的な選択とは言い難い▲最高出力475psの3.8L自然吸気エンジンを搭載する「GT3」。素晴らしい車であることは間違いないが、街中で普通に乗るには足が硬く、また中古車価格も高いため、一般的な選択とは言い難い

「なるべくいいモノ」を選ぶのが最終的には割安か?

さて、「オススメは前期型のカレラ系」ということに決まったわけですが、その中でどのグレードを選ぶべきかといえば、それこそ「どれでもいい」というのが結論です。

ベーシックな「カレラ」には軽やかさがありますし、「カレラ4」には4WD特有の安心感があります。また、ハイパワーな「カレラS」と「カレラ4S」は、ちょっと高い代わりにものすごく速くてカッコいいという、身もふたもない良さが宿っています。

そういった各グレードの特徴を頭に入れたうえでいったん忘れ、市場にある多くの991.1と、とにかく素直に向き合ってみる。そしてコンディションや値段、ボディカラー、装備内容などの複合的な要因から考えて「これだ!」と思える1台と巡り合ったら、それを買う――というのが、おそらくはベストな購入法です。
 

▲写真は4WDの高出力版である「カレラ4S」だが、決して数が多い車ではないタイプ991だけに、探す際は完全なグレード決め打ちはせず、柔軟に対応していく必要がある▲写真は4WDの高出力版である「カレラ4S」だが、決して数が多い車ではないタイプ991だけに、探す際は完全なグレード決め打ちはせず、柔軟に対応していく必要がある

そして、その場合の「価格とコンディションの関係」は――本当は金額だけで一概に線引きすることはできないのですが――おおむね以下のとおりでしょう。

●総額800万円前後=玉石混交
●総額900万円台=状態の良いものが多く、装備も充実
●総額1100万円前後=状態の良いものが多く、カレラSや4Sも豊富


整備履歴までをじっくり吟味したうえであれば、どのゾーンを狙っても良いとは思います。しかし、ポルシェ 911の場合は「状態が良くて人気の装備が付いている個体は、買うとき高いけどリセールも高い」という現実があり、特に最後の自然吸気エンジンを積む991.1は、将来的に人気がさらに高まることも予想されます。

その意味で、多少高くても「なるべくいいモノ」を選んでおくのが、基本的には正解となるでしょう。無論、これとて「唯一の正解」ではないわけですが。
 

※記事内の情報は2021年12月3日時点のものです。
 

文/伊達軍曹 写真/ポルシェ

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ポルシェ 911(タイプ991)×全国
伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル レヴォーグ STIスポーツ。