シトロエン C5 エアクロスSUV▲100周年という節目の年に、同社が放ったのは「コンフォート(快適)な移動」を提案するSUV、C5 エアクロスSUV。いつもの道が知らない間にキレイに塗装し直されたかのような乗り心地が体験できるし、往年のハイドロ系で乗り込むには勇気のいるオフロードにも入っていける

独創と革新のシトロエンが放った斬新な足回り

今年、シトロエンが創業100周年を迎えた。

1919年にヨーロッパで初めて流れ作業による大量生産方式を取り入れたタイプAや、前輪駆動車が広く普及する最初の一歩といわれ、トラクシオン・アバン(前輪駆動の意)という愛称を与えられた7CV、50kgのジャガイモと大人2人を乗せて60km/h出せるようにと開発された2CVなど、様々な“独創と革新”で100年の日々を積み重ねてきた。

その中のひとつに、DSに初めて搭載されたハイドロニューマチック・サスペンションがある。

未来からやってきたかのようなスタイルとともに、1955年のパリモーターショーの来場者を大いに驚かせた独創的な足回りの技術だ。

金属バネやショックアブソーバーがなく、代わりに窒素とオイルを内蔵した球(スフェアと呼ばれる)を備えたその乗り心地は「魔法のじゅうたん(マジックカーペットライド)」と評され、シトロエン独自の乗り心地を代表する技術となる。

ハイドロニューマチックは、後にハイドラクティブ→ハイドラクティブII→ハイドラクティブIII→ハイドラクティブIIIプラスへと進化。

ハイドラクティブIIIプラスを搭載するC5の販売が終了した2015年をもって、ハイドロニューマチックの歴史は一度閉じられた。

しかし、2019年に登場したC5エアクロスSUVは、「新世代のハイドロ」とシトロエン自らが宣言するPHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)技術を搭載。

往年のハイドロニューマチックのような、コンフォートな乗り心地を提供してくれる。

シトロエンの通常の金属バネを備えたモデルも十分コンフォートだが、ハイドロ系の足回りを備えたモデルはやはり“シトロエン味”を知るうえでは外せない。

とはいえ、DSなど年式の古いモデルは故障が気になるだろう……。

そこで、今回はまだまだ中古車として現役で自動車税重課前の、13年落ち以内のハイドロ系モデルを紹介しよう。

フランス大統領の公用車としても活躍した
シトロエン C6(初代)

シトロエン C6▲フロントオーバーハングは長いがリアは短く、弧を描いたルーフラインは後端まで届き、リアウインドウはトランクの天板に浸食されるように凹型にカーブしている……という独特のスタイル
シトロエン C6▲インテリアデザインも独特。JBLが専用開発したオーディオや同社初となるヘッドアップディスプレイが備わる。フランスでは、今年亡くなったシラク元大統領やサルコジ元大統領の公用車として使用されていた

DSからCX、XMと続いた後、2005年(日本デビューは2006年)久々に復活した大型シトロエンがC6だ。

大型といっても、当時のメルセデス・ベンツで言えばEクラスより少し長い程度のボディサイズ。

ただ、このユニークな見た目と乗り心地に、ライバルは存在しないと言っていいだろう。

ブレーキやステアリングの油圧をシステムから切り離し、油圧ポンプや車高調整機構に電子制御を導入したことで、故障がグンと減ったハイドラクティブIII。

C6はその進化版であるハイドラクティブIIIプラスを搭載し、5年間または走行距離2万kmまでメンテナンス不要とした。

スポーツ/ノーマルと、乗り心地を切り替えることができる。

先述のとおり、日本では2006年にデビュー。3Lエンジン×6速ATモデルのみとなる。

当時のフランス大統領の公用車としても使用されたほどだから、インテリアにはウッドやレザーがふんだんに奢られ、リア専用のエアコン操作パネルが用意された。

よりくつろいだ姿勢で乗れる、左右独立のリア電動スライドシートなどを含むラウンジ・パッケージもあった。

デビュー時の車両本体価格は682万円。原稿執筆時点(2019年11月20日)で中古車台数は30台に満たない。

支払総額は約80万円~だが、高いものは300万円を超えるなど、いまだに根強い人気が感じられる。

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シトロエン C6(初代)×全国

熟成が極まったハイドロ系最終モデル
シトロエン C5セダン/C5ツアラー(初代)

シトロエン C5▲セダンの他、ステーションワゴンのツアラーも用意されていた。ツアラーは大型のサンルーフ(パノラミックガラスルーフ)や電動開閉機能が備わる。乗員や荷物の量に関わらず姿勢を一定に保つセルフレベリング機構や、任意の車高に変えられるハイトコントロール機能などがハイドラクティブIIIプラスの特徴
シトロエン C5▲ステアリングは中央部分が固定で外周部分のみが回るセンターフィックスステアリング。こうしたギミックもシトロエンっぽい。HDDナビは2009年10月から全車に標準装備された

メルセデス・ベンツ CクラスやBMW 3シリーズといった強敵がひしめくカテゴリーにシトロエンが投じていたのがC5だ。

ライバルたちに立ち向かう武器のひとつは、やはり「魔法のじゅうたん」ハイドラクティブIIIプラス。

C6同様、5年間または走行距離2万kmまでメンテナンス不要とした。

2008年から日本で販売が開始され、当初は2L×4速ATと3L×6速ATの2モデルが用意された。

ファーストクラスのクオリティを追求したというインテリアは2Lモデルはハーフレザー、3Lモデルはフルレザーシートが奢られた。

どちらもフロントシートは電動パワーシートで、オートヘッドライトやクルーズコントロールが標準装備。3Lモデルは運転席のマッサージ機能も備えられた。

2010年のマイナーチェンジで、2Lモデルに変わって1.6Lターボ×6速ATが加わり、2011年からは3Lモデルが廃止されている。

それに合わせ、1.6Lターボ×6速ATにもフルレザーシートの上級グレード(エクスクルーシブ)が用意された。

2015年5月には、最終モデルとなる60台限定のファイナルエディションが発売された。

デビュー時の車両本体価格は399万~499万円(ステーションワゴンを含む)。

原稿執筆時点でのセダンの中古車台数は20台に満たないが、支払総額約40万~80万円とお手頃で、ステーションワゴンのツアラーの中古車台数は10台ほどで、こちらもほぼ同様の価格で狙える。

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先端技術も備えた最新の“ハイドロ”車
シトロエン C5エアクロスSUV(現行型)

シトロエン C5エアクロスSUV▲プジョー3008やDS 7クロスバックと同じプラットフォームだが、PHCを採用しているのはC5 エアクロスSUVだけなど、3車3様の乗り心地。ラゲージ容量はトノカバー下で580L、後席を倒すと1630Lになる
シトロエン C5エアクロスSUV▲メーターはフルデジタル。センターの8インチタッチスクリーンはApple CarPlayやAndroid Autoに対応し、ナビゲーション機能はオプション。カーナビはスマホのアプリでどうぞ、ということだろう

「魔法のじゅうたんをSUVにも」と登場したのが、2019年5月にデビューしたばかりのニューモデル、C5エアクロスSUVだ。

同社自ら「新世代のハイドロ」とうたう、新サスペンションシステム「PHC」は、ダンパーシリンダー内にもうひとつシリンダーを組み込むことで、いわゆる“ゆるフワ”な乗り心地を実現する。

実際、かつてエグザンティア(ハイドロニューマチック車)を愛車にしていた私も、思わず「あ、ハイドロだ」と思うほどの乗り心地だ。

2Lディーゼルターボに、アイシン・エイ・ダブリュ製の8速ATが組み合わされる。

高密度ウレタンフォームを用いたシートはたっぷりとしたサイズ&座り心地で、往年のシトロエン車をほうふつさせる。特にリアは3座独立型で、各席でスライド&リクライニングが可能だ。

新世代シトロエンらしい先進技術もふんだんに盛り込まれている。衝突被害軽減ブレーキや先行車の自動追従はもちろん、渋滞での完全停止と再発進(停止から3秒以内)が可能。車線中央の走行をステアリングでもサポートする機能も備わる。

またFF車だが、マッド(泥)/スノー(雪)/サンド(砂)と路面状況に合わせて車両を制御するシステムや、ヒルディセントコントロールなどが備わる。

新車の車両本体価格は424万円。原稿執筆時点で約20台の中古車が見つかり、安いものは支払総額で400万円を切る。しかも走行距離は1000km以下とかなり魅力的だ。

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シトロエン C5エアクロスSUV(現行型)×全国

20年ほど前に、94年式のエグザンティアをコミコミ約90万円で購入したことがある。

この車で東京~京都を往復した際、当時の高級セダン・トヨタ セルシオ並みに疲れない、その乗り心地の快適さにコスパの良さを実感した。

ハイドラクティブIIIプラスやPHCなら故障の不安も少なそうだし、一度シトロエン味を体感してみてはいかが?

文/ぴえいる、写真/シトロエン、編集部

ぴえいる

ライター

ぴえいる

『カーセンサー』編集部を経てフリーに。車関連の他、住宅系や人物・企業紹介など何でも書く雑食系ライター。現在の愛車はルノーのアヴァンタイムと、フィアット パンダを電気自動車化した『でんきパンダ』。大学の5年生の時に「先輩ってなんとなくピエールって感じがする」と新入生に言われ、いつの間にかひらがなの『ぴえいる』に経年劣化した。