これから価値が上がっていくだろうネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
クラシックカー予備軍モデルたちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。「車は50万円以下で買いなさい」など著書も多数。趣味は乗馬。
英国の名門SUVブランドに新たなジャンルを築いた1台
——今往年の名車が続いたので、今回は比較的新しいモデルにしたいなと。
松本 そうだね。でも、君と僕では「新しい」の時代が違う気がするんだよね。僕が思う「新しい」はちょっと考え方が違うんだ。近年、自動車作りを始めた国もあれば、100年前から作っている国もある。つまり「新しい」といっても、その国の歴史によって考え方が違うと思うんだ。
——なるほど……。
松本 脈々と続く産業だったり文化があるからこそ、オリジナリティの高い工業製品が作り出される。ただ完成したものだけを好き勝手に評価するんじゃなくて、バックグランドがもたらした功績も考える。それが自動車でいえば名車なのかなって思うんだよ。
——つまり、生産国により「新しい車」の範囲が変わるということですね。
松本 だからその観点から比較的新しいモデルを選んでみようかなって。
——なんとなく、その国が分かってきましたよ。英国ですね? 国に歴史があって弩級の高級車もある。
松本 今回はレンジローバースポーツをフューチャーしたんだよ。撮影車両はこれね。
——まだ新しい感じがしますよね。
松本 まぁね。3代目のレンジローバーが登場したときに、僕は組み立て精度の高さに驚いたんだよ。ドアまわりの立て付けやインテリアの組み付け精度、ピンと張ったプレスライン。これが本当に英国で生産されたモデルなのかってね。
——母体というか、親会社的な存在の影響だって言われてますよね?
松本 そう言う人もいるけど、僕はそう思ってないんだ。生産ラインってそんな簡単なものじゃないんだよ。生産場所を変更するだけでも、精度って落ちるものだからね。クラシックレンジもだけど、レンジローバーはドアの閉まり方が独特なんだ。国産車によくある、ドア全体が共振するような「やわな感じ」じゃないんだよ。ランドローバーってデザインとかディテールだけでなく、そういった部分で車好きを惹きつけると思うんだよね。
——英国ってドイツほど分かりやすい「らしさ」がないですもんね。
松本 そんなことないよ。例えば英国って昔は時計の生産で有名だったんだよ。ロレックスだって、始まりは英国だからね。彼らはもともと精密業に精通しているんだよ。ランドローバーやジャガーが生まれたウエストミッドランドは、時計や自動車、航空機も生産されていた産業エリアでね。そのエリアにコベントリーがあるんだよ。
——ジャガーの本拠地ですよね。
松本 そう。コベントリーは産業が盛んだったからこそ、コベントリー出身というだけで工業製品に精通している感じがするんだよね。英国のプレミアムブランドでデザイナーをしていた人って英国出身者のイメージが強いでしょ?
——確かに。ジャガーのイアン・カラムさんや、アストンマーティンのマレク・ライクマンさんも英国人ですよね。
松本 そうだよ。英国の慣習や文化的なもの、工業製品に精通しているからこそ、英国車らしいDNAを継承できるんじゃないかと思うんだよね。
——なるほど。そのあたりの背景を知らないと、レンジローバースポーツの良さが分からないと。そういうわけですね。
松本 さすが分かってるね。ようやくレンジローバースポーツの話ができるよ(笑)。
——お願いします!
松本 ランドローバーは、このモデルで新しいジャンルのSUVを作ったと思うんだよね。大切なのはデザイン。車幅は約1930mmもあるから小さくはないけど、ギュッと締まったスタイリングにして、不思議と機敏な印象があるね。
——そうなんですよね。なんか小ぶりに見えますよね。
松本 レンジローバーらしい、流れるような縦、横、斜めのデザインを基本として古さを感じさせない。これらは名車になる車の共通点だよね。
——ちゃんとオフロード色も残してますよね。レンジらしいというか。
松本 そうだね。タイヤアーチに沿って張り出したフェンダーが、ワイドトレッドを強調してるしね。ボディをトレッドよりも内側にしたことも安定感を生み出している要因なんだと思うな。
——誰がデザインしたんですか?
松本 ディスカバリー3なんかも設計したジェリー・マクガバン氏だよ。この人もやはり英国の人でね。コベントリー大学で工業デザインを学んだ人なんだ。自動車には様々な人々が携わるけど、デザインはその会社の顔だからね。ビジョンを持ってデザインしないといけない。マクガバンさんは英国で育まれてきた自動車文化を理解している人なんだ。それがランドローバーの方向性を決定した要因でもあるよね。
——その方は今もデザインを?
松本 最新のディフェンダーやレンジローバーも担当しているよ。
——へーそうなのか。あ、スポーツっていう車名ですけど、乗った感じはどうなんですか?
松本 レンジローバースポーツってボディサイズは大きいから機敏な印象は薄いでしょ? でもそんなことはないんだよ。タイトな山間部のカーブだってスイスイとドライブができるんだ。SUV にしては低いボディがちゃんとロールを抑えていて、目線もちゃんと一定に保ってくれる。しかも高速道路を走らせても余裕があるから、スポーツというネーミングにピッタリの走りが楽しめると思うよ。
——ぼくは普通のレンジのゆったりした感じの方が好きかなぁ。
松本 そういう人もいるよね。確かに乗り心地は程よく硬めだしね。でも、逆にこういうSUVが好きな人も多いじゃない?
——良いプロダクトでありながら、我々の選択肢が増えるわけですからね。ありがたい話ですよ。
松本 この初代レンジローバースポーツは時代を感じさせないし、雰囲気もまさに名車だよね。2代目はかなりシティ派になってしまったから、この初代はワイルドさとフォーマルさ、その両方を兼ね備えた渾身の1台だと思うね。
ランドローバー レンジローバースポーツ
レンジローバー伝統の優れたオフロード性能に、オンロードでのスポーティな走りをプラスしたラグジュアリーSUV。ディスカバリー3と共通のプラットフォームを採用、レンジローバーより一回り小さく仕立てられた。撮影車両は、2009年のマイナーチェンジで登場した5L V8搭載モデル。
※カーセンサーEDGE 2022年9月号(2022年7月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
文/松本英雄、写真/岡村昌宏
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