▲猫もしゃくしもSUV(またはミニバン)という世の中だからこそ、こういうのが逆にシブいんです! ▲猫もしゃくしもSUV(またはミニバン)という世の中だからこそ、こういうのが逆にシブいんです!

「あえてセダン」が微妙に光る時代がやってきた?

セダン受難の時代である。街でひんぱんに見かける国産セダンといえば「ご老人専用機」こと日産 ブルーバードシルフィばかりで、輸入車もBMW 3シリーズやメルセデス・ベンツ Cクラスの両セダンあたりはそれなりに売れているが、それでも「現行Cクラスのセダンとワゴン、どっちか1台タダであげるけど、どっちがいい?」と聞かれたら、多くの人は「じゃ、ワゴンで」と答えるだろう。

まあセダンの受難も、考えてみれば道理である。

「趣味性とか上質さとかどうでもいいから、とにかく子供の送り迎えと買い物に使える車が欲しい」というのであれば、優秀かつ安価な軽自動車や小型ハイブリッド車がいくらでもあるし、「家族グルマ」としての機能のみで考えるなら、なんだかんだいってミニバンが便利。そして「今っぽさ」や「洒落っ気」みたいなものを追求したい人にはSUVまたはステーションワゴンがある。

多様化が進み、そして昭和の時代と比べれば車というモノのポジションが著しく低下した現在は、「わざわざセダンを選ぶ意義」が見いだしにくい時代なのである。

しかし、だからこそチャンスですよというか、「わざわざセダンを選ぶ意義」が再び見えてきたような気もしてならない。そして今、「……順当なのはSUVなんだろうけど、果たして順当なだけで人生いいのだろうか?」とおぼろげに思い始めた諸兄に強烈にオススメしたい1台が、フォルクスワーゲンが08年末に発売した流麗すぎる中型セダン(というか正確には4ドア4シータークーペ)、パサートCCである。

▲フォルクスワーゲン パサートCCは、08年11月から12年7月まで販売されたVW初の「4ドア4シータークーペ」で、CCというのは「コンフォートクーペ」の略。ワイド&ローでエレガントなフォルムと上級感あふれるインテリアが特徴。パワートレインは「2.0TSI」には2L直噴ターボ+6ATが採用され、「V6 4 モーション」は3.6L直噴自然吸気+6速DSGとなる。12年7月のフルモデルチェンジ以降は「フォルクスワーゲンCC」という車名に変更された ▲フォルクスワーゲン パサートCCは、08年11月から12年7月まで販売されたVW初の「4ドア4シータークーペ」で、CCというのは「コンフォートクーペ」の略。ワイド&ローでエレガントなフォルムと上級感あふれるインテリアが特徴。パワートレインは「2.0TSI」には2L直噴ターボ+6ATが採用され、「V6 4 モーション」は3.6L直噴自然吸気+6速DSGとなる。12年7月のフルモデルチェンジ以降は「フォルクスワーゲンCC」という車名に変更された

4ドアセダン/クーペ受難の時代ゆえの高コスパ

フォルクスワーゲン パサートCCの何が素晴らしいかといえば、まず第一に「安い」というシンプルな事実だ。新車時価格はベースグレードの2.0TSIが約500万円で、V6 4モーションが約620万円というなかなかのお値段だったが(※約というのは、年度によって新車価格が微妙に異なるため)、現在の中古車相場は130万~250万円といったところで、ボリュームゾーンは150万円前後。……セダン受難の時代さまさまの高コスパっぷりと言えるだろう。

そして第二に「逆張りが効く」という時代背景である。

世のトレンドにならって今からSUVを探すのも決して悪くないが、そこにはどうしても若干の「今さら感」「その他大勢感」のようなものがつきまとうことは否めない。要するに他人とカブりまくるということだ。

しかし「今、逆にセダン(または4ドアクーペ)」という選択はかなり新しい。……いや冷静に考えると全然新しくはないのだが、時代が半周ぐらい回ったことで妙に新鮮に感じられるようになったのが、今というタイミングだ。ちょっと気の利いた人は猫もしゃくしもこじゃれたSUVを選び、そうでない人はハイブリッド実用車かミニバン一辺倒な今だからこそ、小ぎれいでセクシーな4枚ドア、つまりフォルクスワーゲン パサートCCのような車に、小ぎれいな身なりで乗るという「逆張り」が効くのである。目立つのである。この逆張りは筆者のような中年男がやっても当然効くだろうし、20代ぐらいの若衆の場合でも絶妙な味わいが出ると筆者はにらんでいる。

▲セダンとクーペのちょうど中間のようなニュアンスとなるパサートCCのフォルム。4ドアセダンの落ち着きと、それだけにはとどまらないクーペならではの色っぽさが絶妙に同居しているデザインだ ▲セダンとクーペのちょうど中間のようなニュアンスとなるパサートCCのフォルム。4ドアセダンの落ち着きと、それだけにはとどまらないクーペならではの色っぽさが絶妙に同居しているデザインだ
▲デザインも素材も大人の鑑賞眼に十分以上に耐えうるものとなっているパサートCCのインテリア ▲デザインも素材も大人の鑑賞眼に十分以上に耐えうるものとなっているパサートCCのインテリア

超絶フラットな乗り心地とシャープな加速も実は魅力

そして当然だが、第三の理由として「走りの素晴らしさ」もある。

セールス的にはかなり地味だったパサートCCだけにあまり知られていない可能性もあるが、この車、実はなかなかのものである。長めのホイールベースと後輪の4リンクサスペンション、そしてDCC(ダンパーの減衰力や電動パワステの特性をコントロールするアダプティブシャシーコントロール)が標準で組み合わされたことにより、その乗り味は常にフラットにして超絶快適。それでいてかなりの俊足でもあり、パサート ヴァリアント R36と同じ最高出力299psの3.6L V6を積むV6 4モーションはもちろんのこと、同世代のゴルフGTIと同一の2Lターボを搭載する2.0TSIでも十分以上にシャープな加速を披露する。

そのようにステキなフォルクスワーゲン パサートCC。ビジュアルについては個人の好みに負うところ大のため一概に決めつけることはできないが、流れるようなルーフラインを持ったキャビン形状と、リアウインドウから滑らかにつながるリアエンドまでの造形は、控えめにいっても「セクシー!」「エロい!」と評することができるのではないかと、個人的には思う。

しかしながら、本稿内で繰り返してきたとおり「セダン受難の時代の中、さらに人気薄だったモデル」だけあって、街中で同型車とすれ違う機会はきわめてまれであるはず。つまり「希少性」という、ある種の人間にとっては非常に好ましい価値も大。……考えれば考えるほど、「ありきたりな選択が嫌な人間は今、フォルクスワーゲン パサートCCをぜひ前のめりで検討すべきなんじゃないか?」という気がしてならない筆者である。

強いて言えばの弱点は、最新世代のエンジン各種と比べると燃費が正直イマイチということだが(2.0TSIのカタログ燃費が11.8km/Lで、V6 4モーションが10.2km/L)、それにしたって中古車価格の爆安っぷりと、この素晴らしい造形の「デザイン料」とで十分ペイできるのではと考えているのだが、あなたはどうお考えだろうか?

▲パーソナル志向の4ドア4シータークーペだけに、パサートCCのシートは独立4座式。普通のパサートセダンと比べると頭上空間はやや狭いが、それなり以上に使える(座れる)後部座席ではある ▲パーソナル志向の4ドア4シータークーペだけに、パサートCCのシートは独立4座式。普通のパサートセダンと比べると頭上空間はやや狭いが、それなり以上に使える(座れる)後部座席ではある
text/伊達軍曹
photo/フォルクスワーゲン グループ ジャパン