【スーパーカーにまつわる不思議を考える】DNAを継承しつつPHEV化を選んだ、ランボルギーニのフラッグシップビジネス
2023/07/02
スーパーカーという特殊なカテゴリーはビジネスモデルとして非常に面白く、それ故に車好きを喜ばせるエピソードが生まれやすい。しかし、あまりにも価格がスーパーなため、多くの人はそのビジネスのほんの一端しか知ることができない。先日、世界中から注目を集めるフラッグシップの12気筒モデルとなるレヴエルトを発表したランボルギーニ。その発売の背景から、スーパーカービジネスの最新事情をお届けする。
初代モデルからの遺伝子を色濃く継承する希少なモデル
先日、ランボルギーニ レヴエルトが日本で発表された。ランボルギーニの歴代12気筒フラッグシップモデルは、これまでカウンタックのDNAを尊重しつつ粛々と作られてきた。ディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドール……。前後逆向きにエンジンをレイアウトした特徴的な縦置きレイアウトで、シザードアを採用したワンモーションフォルムがその主たるDNAであった。少量生産スポーツカーメーカーでも、ここまでこだわってDNAを守り続けたケースは希少かもしれない。
実際、カウンタック原理主義と呼ばれるファンも多いから、新しいモデルがデビューするたびに賛否両論が起きる。ディアブロのチーフエンジニアであったルイジ・マルミローリ氏はかつてこう語ってくれた。「ディアブロの開発に取り組んでいた当時ですら、カウンタックはすでに神格化されていた。だから何かを変えようとすると、そのたびごとに反対勢力と戦わねばならなかった」と。
当時、カウンタックはホモロゲーションの期限が切れるタイムリミットが迫っていた。もはやカウンタックのような古風な構造の車は存在することが難しかったのだ。しかし、まわりはなかなかそれを理解してくれなかったという。
今回のレヴエルト然り、ニューモデルの開発時にはこういったせめぎ合いはつきものでもある。特に嗜好性の強いスーパーカーカテゴリーならば、それはより顕著だろう。センセーショナルさを取るか、それともヘリテージにこだわるか……。そのディレクションは悩ましい。
レヴエルトにおいては、エンジンレイアウトの変更がひとつのセンセーショナルなポイントだと、古くからのスーパーカーファンは考えている。ただ現実的には、伝統のエンジンレイアウトからの脱却はエンジニアリング面で必然であったのであろう。50年前には不可能であったエンジニアリング的要件も、現代ではいとも簡単に解決できるのかもしれない。
それに今は、自動車史に残るであろう電動化へ向けた一大転換期を迎えている。ランボルギーニは、CO2削減への対応としてできるかぎり内燃機関にこだわりながらも、コル・タウリと称するエコロジー戦略を展開している。
コル・タウリによれば今年は「電動化元年」であり、ここ2年間ですべてのモデルをハイブリッド化すると述べている。ランボルギーニといえどもこの流れに逆らうワケにはいかない。
つまり、レヴエルトは電動化するうえでカウンタックのレイアウトを踏襲する意味が無くなったうえに、居住性向上のためにも新たな仕組みを考える必要があった。カウンタックのレイアウトとは、今から50年以上も前にチーフエンジニアであった故パオロ・スタンツァーニが開発したものだ。
彼は、このレイアウトがアヴェンタドールにも踏襲されていることを目を細めて優しく見守っていた。しかし、この新しいレイアウトが採用されたのを知ったとしても、彼がそれを否定することはないであろう。むしろ「よくやった」と拍手するに違いない。と、同時に「でも私だったら……」と付け加えることも忘れないであろう。
彼こそが「ランボルギーニのDNAは未来的であることだ」という戦略を策定した張本人であり、誰よりも新しいことへの挑戦に重きを置いた。だから筆者は、草場の陰で彼が新しい試みを喜んでいると想像するのだ。
環境に配慮して作られた、12気筒のハイパフォーマンスモデル
レヴエルトのプラグインハイブリッドシステムは明らかにパフォーマンス指向だ。
もちろんCO2排出量の削減へ寄与しているが、搭載されているバッテリーはきわめて小さい。バッテリーのみによるEV走行は10km程度とされている。しかし3モーターによるトルクベクタリングシステムに関しては相当に自信を持っているようだし、システム最高出力は1015PSであるという。アヴェンタドールウルティメ比で30%のパワーアップを実現しながら、30%のCO2削減を達成しているという。
「何だ、前モデルとCO2排出量は一緒ではないか!」などと言ってはいけない。これがスーパーカーの世界なのだ。それに、これから最終的に規定されるであろうユーロ7にも、レヴエルトは少量生産車枠でクリア可能だという。つまりこのエンジンは自然吸気12気筒でありながら、当面販売が可能ということになる。
スタイリングに関しては、エンジニアリングよりもさらに顧客へのアピールが難しいポイントかもしれない。見慣れた現行車種のそれと10年先をも想定してデザインした最新モデルの間には、感覚的なギャップがあって当然だ。しかし、デザイン部門トップのミティア・ボルケルト氏はよくやった。「原理主義者」にも満足してもらえるように「デザインのベースにあるのはカウンタックである」というポイントをスマートにアピールすることに成功している。
背の低いワンモーションフォルムだが、前モデルのアヴェンタドールと比較すると実はスタイリングの根本のプロポーションはかなり変わっているし、キャビンのサイズも大きくなっている。全高も上がっているし、ホイールベースも長くなっている。そんな変更が行われながらレヴエルトは引き締まってコンパクトな印象を与える。フロントのY(イプシロン)形状のモチーフもそれに一役買っていると言える。
今や自動車メーカー、特にスーパーカーメーカーにおけるデザイナーの役割は今までになく重要なものとなっている。かつてのように単に線を引いていればよいというものではない。ピニンファリーナのトップであった故セルジオ・ピニンファリーナは、自ら絵筆を握ることはなかった。しかし、彼口から出てくるコトバはデザインの本質だけでなく、その車全体のもつ本質をきわめて魅力的に分りやすく説く、まさに特効薬のようなものであった。だから彼はフェラーリとも長年上手くやってきたし、ローンチイベントでマイクを握ることもあった。
そんなワケで、現在のディレクターであるミティア・ボルケルト氏は大忙しだ。事実、レヴエルトのプレゼンテーションのために世界各国を飛び回っているし、今回も東京におけるローンチの翌日には日本を離れ、次の目的地を目指していた。
レヴエルトは、センセーションとヘリテージ尊重という相いれないテーマを上手く料理したと筆者は評価している。ただ、ここ2年ほどの生産分に関してはコア顧客から事前受注済みとアナウンスされているため、これから発注しても納車されるのはかなり先のことになるだろうが。
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ランボルギーニ × 全国自動車ジャーナリスト
越湖信一
年間の大半をイタリアで過ごす自動車ジャーナリスト。モデナ、トリノの多くの自動車関係者と深いつながりを持つ。マセラティ・クラブ・オブ・ジャパンの代表を務め、現在は会長職に。著書に「フェラーリ・ランボルギーニ・マセラティ 伝説を生み出すブランディング」「Maserati Complete Guide Ⅱ」などがある。