▲今回試乗したルノー 5(サンク)GT TURBO(手前)とBose(右)さんの愛車であるフィアット パンダ100HP。どちらも小さなボディに走る楽しさを積め込んだモデルです ▲今回試乗したルノー 5(サンク)GT TURBO(手前)とBose(右)さんの愛車であるフィアット パンダ100HP。どちらも小さなボディに走る楽しさを積め込んだモデルです

サンクの乗り味はカングーに通じる?

日本のヒップホップシーン最前線でフレッシュな名曲を作り続けているスチャダラパーのMC、Boseが中古車情報誌『カーセンサー』にてお届けする人気連載「Bosensor」。カーセンサー本誌で収録しきれなかったDEEPでUNDERGROUNDな話をお届けっ!!

今回はピッコロカーズにお邪魔した記事(関連リンク参照)の後編です。

ペリー:Boseさん、今回はルノーの5 GT TURBOをチョイスしたわけですが、乗ってみてどうでしたか?

Bose:80年代の車って国産も輸入車も面白いねえ。5は重ステでクラッチも驚くほど重いから女性だとちょっと大変かも。でもそれを差し引いても有り余る楽しさがあったよ。

竹門社長:そう言ってもらえると嬉しいですね。乗り心地もよかったでしょう。

Bose:最高! とても30年近く前の車とは思えない、ゆったりした感じがあるの。小さな車だと忘れちゃうような乗り味ですよ。

竹門社長:僕はよくお客さんに「この時代のフランス車は運転しながら温泉に入っているような感じ」と言うんです。イタリア車やフランス車などラテンなコンパクトにはホットハッチ(走りの性能を高めたスポーツタイプのハッチバック)のイメージを持つ人が多いと思いますが、5 GT TURBOはその名のとおりグランドツーリングモデルなんです。

Bose:小さな車内に荷物を目いっぱい積んで、家族で高速を走ってバカンスに出かける。そんな使い方だ。乗ってみて思ったのは僕が持っている初代カングーに通じる感覚があるなってこと。

竹門社長:Boseさん、さすがだな。僕はカングーの乗り味のルーツは5にあると思っているんですよ。ユラユラコトコトと走り、どこまでも遠くに行けちゃう感覚。

Bose:カングーも東京と京都の往復くらい、へっちゃらだもんね。小さくても長距離ドライブを難なくこなすっていうのは日本車にはなかなかない発想。日本は需要的に細い路地での取り回しの方が優先されるだろうからね。

▲「5GT TURBOはずっと乗ってみたかった車の一つなんだ」。運転しているBoseさんの笑顔を見れば、どれだけ楽しいか分かりますね ▲「5GT TURBOはずっと乗ってみたかった車の一つなんだ」。運転しているBoseさんの笑顔を見れば、どれだけ楽しいか分かりますね

現代の車に対する違和感は洋服の肌触りの違いと同じ

ペリー:ところでBoseさん。今回の取材が始まる前に「愛車であるパンダ100HPとの間にズレを感じていて、その原因がなにか探りたい」って言ってたじゃないですか。理由、分かりました?

Bose:なんとなくだけどね。今回取り上げた5 GT TURBOと僕が乗っているパンダ100HPって、年式の差はあるけれど位置付けというか、意味合いは一緒だと思うんだ。ところが5は走らせた瞬間からズレのないダイレクトさを感じたの。ということは、やっぱりアレが原因なのかなって。

ペリー:アレってなんすか?

竹門社長:おそらくBoseさんが感じているズレは電子制御によるものでしょう。

Bose:僕もそう思ったんですよ。たぶん僕が気になっている違和感って普通に車を使っているだけなら本当になんとも思わないくらい些細なこと。でもこうやって少し古めの車に乗ってみると、上手く言葉に表せないけれど明らかに何かが違うって感じるんだよね。で、どっちが好きかというと古い車にだけある楽しさなんだ。

竹門社長:電子制御は安全装備はもちろん、車のあらゆるところに入っていますからね。今は技術が進歩してその存在に気づかないくらい自然な乗り味を味わえるようになっています。でもBoseさんのように乗り比べちゃうと「何かが違う」と感じることがあるんですよね。

Bose:たぶん時間にすると0.1秒にも満たないわずかなものだと思うんだけれど、今の車は反応が少し遅れる気がして。

竹門社長:Boseさんが気になっている部分は洋服に例えるなら肌触りのようなものなんですよね。AとB、どちらも同じコットン100%のシャツなんだけど、袖を通すと微妙に肌触りが違う。たぶん気にならない人が圧倒的に多いと思いますが、中には一度気になってしまうとどうしようもなくて「Aのシャツしかダメ!」となる人もいる。

ペリー:その例え、分かりやすいですねえ。

竹門社長:というわけでBoseさん、前回も話しましたが100HPを降りるときは一声かけてください。ちょうど今、探しているんですよ(笑)。

Bose:いや、まだそこまで考えてないし(笑)。肌触りの話もあったけれど、同じようなもので色っていうのもあるなと、5に触れてみて感じましたよ。これと同じような青って今の車だと見当たらないでしょう。

ペリー:赤なんかもそうですよね。それがいいと思ったら思い切って古い車に乗るか当時の色に塗り替えるしかない。

▲「立ち位置は同じでも微妙な感覚のズレがある」と感じていたBoseさん。原因は現代の車と80年代の車の根本的な違いにあったようです ▲「立ち位置は同じでも微妙な感覚のズレがある」と感じていたBoseさん。原因は現代の車と80年代の車の根本的な違いにあったようです

Bose:このあたりの感覚って音楽やファッションにも共通するんだよね。あと面白いのは70年代や80年代って日本は海外の文化を真似していた部分があるでしょう。やっぱり本物とは微妙に違ったりして。それぞれに魅力があるから僕はどっちも好きだけど。

ペリー:それってどんな感じっすか?

Bose:例えばアメカジが日本に入ってきたときに日本人もこぞって同じようなデザインの洋服を作ったわけ。でも日本のやつは妙にカッチリしていたりね。アメリカから入ってきたのは生地なんかペラペラなんだけどそこがカッコいい。

ペリー:当時の車も同じような感じだったかもしれないっすね。

Bose:僕も若い頃にラッパーのファッションを真似したくてさ。でも80年代なんて情報がほとんどないからレコードジャケットを見るの。でも考えてみたら彼らはレコードジャケットだから一張羅を着て撮影している。普段着とは全然違うわけ。ニューヨークに行って彼らの日常を見るとダサいジャージを着ていて、それが逆にすげえカッコいいとか。車も日本に輸入されるのは上級グレードなんだけど、実は向こうの人が普通に乗る一番安いウレタンバンパーがカッコよかったりとかね。

若者のことを言う前におじさんが車で遊ばないと!

竹門社長:Boseさん、せっかくだから展示場だけじゃなくうちの事務所も見ていきませんか?

Bose:いいんですか? 楽しいものがいっぱいありそうだな。おっ、ガレージハウスを改装して店舗にしているんだ。うわっ、ミニカーや車のイラストがたくさん。おしゃれだなあ。

竹門社長:当たり前ですがうちは中古車販売店です。でも単に車を売るだけじゃなくてこの時代の車があることで得られるライフスタイルを提案したいと思っているんですよ。だからイタリアなどに買い付けに行ったときに向こうのシャツやジャケットなんかも買ってきてお店に展示しているんです。

Bose:それって小さなレコードショップや洋服屋さんと意味が一緒ですよ。音楽がある暮らし、その洋服がある生活を提案するという発想。これって大手じゃなかなかできないことなんだよね。で、そこには「このお店がないと困る」というファンが生まれるの。

▲古い車は年式相応にヤレている。「それをキレイにすることもできるけれどその分お金がかかりハードルは上がっちゃう。ボロならボロなりの楽しみ方を見つければ、カッコいい乗り方ができると思うよ」とBoseさん ▲古い車は年式相応にヤレている。「それをキレイにすることもできるけれどその分お金がかかりハードルは上がっちゃう。ボロならボロなりの楽しみ方を見つければ、カッコいい乗り方ができると思うよ」とBoseさん

竹門社長:僕は中年の車好きを束ねてグループを作っているんですよ。そこにいるおじさんたちが、例えば「50万円くらいでオープンカーに乗れるんだ」となったときに、車はいいけど自分がイケてないと感じたら、心から車を楽しめないんですよね。だからこそライフスタイルすべてを提案し、気持ち良く車を楽しんでもらいたいと思って。

Bose:この“テクノパン”っていうステッカーが気になるんだけど。

竹門社長:テクノパンは車好きが集まる京都のパン屋さんで最近話題になっているお店なんですよ。

Bose:そうなんだ。こういう情報がさりげなく入るのも、面白い中古車屋さんならではだよね。テクノパン、今度行ってみようっと。

竹門社長:今って“若者の車離れ”などと言いますが、僕はある日その言葉が若者たちを傷つけていることに気づいたんですよ。おじさんたちは若者にやいやい言うけれど、実は今、おじさんたちが楽しい車遊びをできてないじゃんって。まずはおじさんが楽しんでいる姿を見せて若者を巻き込んで行こう。僕はおじさんたちが手軽に遊べる環境を提供できたらと思っているんです。

Bose:それって正論だなあ。僕と同世代のおじさんたち、どんどん遊んでいこう!

text/高橋 満(BRIDGEMAN)
photo/寺坂Johney!