アルピナ B4グランクーペ▲自動車テクノロジーライター松本英雄氏が、新型BMW アルピナ B4グランクーペに試乗した際のレポートをお届け

BMWの「M」とは異なる方向性

BMWのすべてのモデルには、自分自身を鍛えてくれる素養があると思っている。

ラグジュアリーモデルは素の状態を教えてくれて、Mスポーツは路面からのインフォメーションをどうさばくか。ステアリングとのコンタクトをより緻密に近づけ、いなし方を考えさせられる。

Mになれば、パワーを見極めてアクセルのコントロールとステアリングを最小舵角に集中するのは私だけではないはずだ。

そしてアルピナはというと、これらとは全く違う。それは、ゆったりと大人の余裕を醸し出すモデルなのである。

アルピナ B4

アルピナ社は初期にBMWベースののレース活動を長年実施してきた。

ひとくちにレース仕様といっても、完全なレース仕様から週末にアルピナで乗りつけてヒルクライムレースに出場する仕様まで、幅広いチューニングを行ってBMWファンにノウハウを提供し続けてきた経緯がある。その後、BMWをベースとしたコンプリートカーを作る独立ブランドとして存在している。

腕に自信があるユーザーに対し、様々なシチュエーションを考え抜いてきたからこそ今でも信奉者が多いのだ。

しかし、残念ながらアルピナの本物の息がかかったモデルは2025年で最後となる。利益よりも質の高いプロダクトを送り続けたからこそ、結果的に時代についていけなかったかもしれない。

アルピナ B4

工業製品において採算度外視で作り続けているブランドこそ、最も志が高いのではないだろうか。職人魂を感じずにいられないブランドこそアルピナなのだ。

今まで所有する機会はなかったが、試乗させてもらうたびに感動した。そして最後かもしれない感動を真新しいアルピナ B4グランクーペで試させていただくのだから、BMWを所有してきた私にとってこれ以上うれしいことはない。
 

アルピナ B4

用意されたB4グランクーペは、まずもって色がすてきだ!

専用のホイールも時代感に左右されることのないシンプルさがあり、非常に格好いい。性能から形作られた、ドイツの工業製品らしい機能的なデザインである。

タバコブラウンのシートとアルピナグリーンは、ノーブルでセンスの良さがうかがえる配色だ。趣味がいいとはこういう色合いではないだろうか。

アルピナ B4
アルピナ B4

計算されつくした「上質な速さ」

パワーユニットは、S58型というMシリーズに搭載されているエンジンをアルピナが独自のプログラムをインストールして作り上げたものだ。

M4より15馬力アップの495馬力を発揮している。トルクは実に74.4kg・mを発生。この3Lエンジンのトルクはバケモノと言っても過言ではない。

アルピナ B4

瞬時に目をさますエンジン音は、低音が利いていてジェントマンの雰囲気である。はやる気持ちを抑えながらDレンジに入れてスタートする。

アルピナ B4グランクーペは「ALLRAD」という4WD仕様で、アルピナ独自の考え方によって動力配分が行われている。広い敷地を走らせ公道に入る前にグッと踏み込んでみた。

すさまじい加速である。けれどもリアサスペンションがぐっと沈み込むように力をためてからの発進は、強靭な加速であってもドライバーや同乗者にマナーの良さを披露してくれる。

アルピナ B4

続いて高速へ移動する。アルピナは、いつどのモデルに乗っても裏切らない。路面のアンジュレーションを瞬時にさばいてもアライメントを最小限に抑えつつ乗り心地を確保する。これはラグジュアリーGTだ。どこまででも行きたくなる。

高速コーナーも心地よく吸い付きステアリングは正確無比である。しかし、疲れるような神経質ではなく、おおらかな印象も与える。

さらに加速する。4シリーズのグランクーペが一回り小さくなったような動きであるが、乗り心地はひとクラス上を感じさせる。これぞアルピナならではのグランクーペである。酸いも甘いもかみ分けた経験豊かなドライバーならば必ず満足するパフォーマンスと言える。

これほど丹念に調整をされたモデルは、価格以上の価値を感じずにはいられないはずだ。

ALPINA社による車作りは終了することがアナウンスされているが、このB4グランクーペはB4GTグランクーペにモデルチェンジし、最後のアルピナ車としてまだ購入が可能だ。

こちらもまた特別な価値を持つ1台として、歴史的モデルと言えるだろう。

アルピナ B4
アルピナ B4

▼検索条件

BMW アルピナ B4グランクーペ(初代) × 全国
※紹介したモデルとは異なるグレードのものもあります。
文/松本英雄、写真/尾形和美
松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。車に乗り込むと即座に車両のすべてを察知。その鋭い視点から、試乗会ではメーカー陣に多く意見を求められている。数々のメディアに寄稿する他、工業高校の自動車科で教鞭を執る。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

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