【試乗】マクラーレン GT&720S|どちらもワイド&ローなスーパーカールックだが性格は異なる
カテゴリー: マクラーレンの試乗レポート
2021/10/01
マクラーレン GT、720Sの2台に試乗
“マクラーレン ”と聞くと、F1もしくはスーパーカー、皆はどちらのイメージだろうか。私は、英国を代表する名門レーシングマシンの生みの親といったイメージが強い。
そのノウハウが詰まったモデルを、贅沢なことに2台同時に試乗した。1台は“マクラーレン GT”、もう1台が“マクラーレン 720S”である。
マクラーレン GTに関しては、2020年モデルには乗っていたが、今回は2021年モデルに試乗した。
より“GT”の名に磨きがかかった21年モデルのマクラーレン GT
マクラーレン GTは、マクラーレン初のグランツーリズモ的なモデルだ。ヘッドライトを特徴的な切れ長の目にし、エアロダイナミックスを大げさに表現せず、モデル自体のフォルムで優雅さを演出している。
それはフロントのみならず、サイドルーフからリアにかけての造形にも感じ取れる。Aピラーから弧を描くようにルーフに沿って取り付けられたモールディングは、マクラーレンが示す、優雅で快適なグランツーリスモの証しである。
このような超高性能モデルは、レトロフィットのエアロダイナミクスパーツが組み合わっされる場合が多い。しかし、デザインと超高性能は、モノフォルムでなければ本来の表現にならないのではないか。
加えてGTモデルは、遠くまで赴いた際にトランクやバッグを置くスペースが必要だ。
これを考えすぎると、やぼったいデザインになるが、マクラーレン GTは、容量を増やしながら上手い造形を実現している。
キャビンからリアにかけ、モールディングを境界線にブラックアウトしている。これによりコントラスの強弱を明確にでき、重みのある高級感とリアのボリュームを相殺することができるのだ。結果として伸びやかなスタイリングを表現できたと言える。
それでは試乗に移ろう。今回乗る2021モデルは、2020年モデルと見た感じの印象は変わらない。果たしてどんな進化を遂げているのだろうか。
エンジンを始動すると、エグゾーストノートは高出力モデルらしい迫力がある。だが、威勢のいいという印象よりもミッドシップレイアウトでマフラーの容量に制限があるにもかかわらず、比較的落ち着いている。
アクセルを踏み込めば正確に反応する。ゆっくり踏み込むと、ツインクラッチのトランスミッションはスムーズにつながっていく。
キャビン内も、どことなく昨年のモデルよりも静かな印象だ。新しいということもあるかもしれないが、静粛性が増した印象だ。
何よりも2020年モデルと違うのは、サスペンションの動きがスムーズになった点。
アクセルのレスポンスと、ギアレシオのセレクトもリニアで、滑らかなスタイリングからは想像がつかないGTの装いだ。
正直言って街中でとても扱いやすいというのが本音だ。取り回しもいい。ただ、乗り降りがしづらい、このローフォルムないでたちからは、想像がつかないかもしれない。
2020年モデルでも十分な性能を発揮していたが、よりGTとしての存在感を強めたパッケージングに進化していると言える。
GTよりも軽くパワーも高いスーパースポーツの720S
続いて720Sにも試乗した。こちらは先代の650Sよりもシャシー剛性を高め、しかも軽量化が施されている。
マクラーレン GTと比べると車重が100㎏以上軽く、しかも出力は100馬力も高い。シートに身体を滑り込ませると、GTよりも目線が低く感じる。しかも、前が短いのでミッドシップのレーシングカーという雰囲気である。
エグゾーストノートはパンチが効いている。発進も、ハイパワー車にありがちな、高回転域でクラッチミートするような感じが、マイルドなレースカーのようで気分が高揚する。
走り出すと、とにかく軽い。マクラーレン GTと別物の軽さで非常に気持ちいい。
ブレーキのパフォーマンスも素晴らしい。剛性感が極めて高く、コントロールしやすい。これは、マクラーレン GTよりも加速の速さに合わせたようである。
乗り心地は固めであるが、突き上げた感じは皆無だ。瞬時に路面からのインフォメーションを読み取り、縮み側よりも伸び側コントロールしているようだ。かといって、ステアリングには一切振動などは伝わってこない。
245/35R19という低扁平タイヤでも、うねりや沈み込みでもステアリングを取られることなく、スタビリティは最良である。
2台乗ってみて個人的に感じたのは、GTの方が前後が長いのにもかかわらず、乗り心地とエンジン、トランスミッションの制御が扱いやすいということだ。
絶対的な性能ではスペックだけ見てもわかるとおり、720Sは素晴らしいに違いない。コーナリングフォースと電光石火の速さを求めるならば、断然720Sに軍配は上がるのだろう。
自動車テクノロジーライター
松本英雄
自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。車に乗り込むと即座に車両のすべてを察知。その鋭い視点から、試乗会ではメーカー陣に多く意見を求められている。数々のメディアに寄稿する他、工業高校の自動車科で教鞭を執る。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。