アストンマーティン ヴァンキッシュ▲アストンマーティンがブランド史上最もパワフルなフラッグシップとうたう、新開発5.2L V12ツインターボエンジンを搭載したラグジュアリークーペ。年間生産台数は1000台以下となる

これまでのモダンアストンとは異なるドライブフィール

大方の予想を覆してフラッグシップモデルのDBSスーパーレッジェーラに引き続き12気筒エンジンを積んできたアストンマーティン。そのドライブフィールには大いに驚かされた。先代フラッグシップのDBSスーパーレッジェーラはもちろんのこと、21世紀のモダンアストンであるいずれのFRモデルとも違っていたからだ。

中身はほぼ新設計というV12エンジンに加えて、新開発プラットフォームにビルシュタインと共同開発したDTXダンパーを含む新たなサスペンションシステム搭載、というあたりが“違い”の理由として挙げられるけれども、最も大きな影響を与えたポイントはほかでもない、途方もないスペックのV12ツインターボエンジンがほぼフロントミッドに搭載されていることだった。

エクステリアデザインをも見れば、これまでのフラッグシップクーペとの違いは明白だ。フロントホイールアーチ後端からドアまでの距離、いわゆるプレミアムディスタンスが大きく伸びている。フロントミッドの典型だ。新型ヴァンキッシュの走りの本質はまさに“一目瞭然”でもあった。

V12エンジンの最高出力は835psで、830psの12気筒を積んだフェラーリ 12チリンドリを意識したスペックだろう。ターボエンジンゆえ最大トルクなんと1000N・m。こちらはイタリアのNA駿馬より300N・mも上回る。

その走りを試すべくイタリアはサルディーニャ島に渡ったのは2024年10月で、9月に12チリンドリを試した直後のことだった。
 

アストンマーティン ヴァンキッシュ▲ティアドロップ形状のフルカーボンボディを採用。Aピラーとフロントアクスル間が延長され、ホイールベースが約80mm長くなっている
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲7つのLEDブレードで構成されるテールライトの間は、浮かんでいるように見えるデザイン(シールド)が採用されている

ヴァンテージすらも上回る驚くべきパフォーマンス

少々荒れぎみの舗装道を走り出して5分と経たないうちに、冒頭に記した“違い”は現れた。マシンとの人車一体をこれまでになく強く感じ、試乗前のレクチャーで聞いた「開発時にはドライバーとのエンゲージングを最も大切にした」という話を思い出す。

NVH性能も格段に向上している。乗り心地そのものは先代DBSと同様にソリッドなものだが、気持ちのいい硬さである。DBS スーパーレッジェーラやその前のヴァンキッシュでは、骨の太さだけが妙に目立って、硬いフレームの中にドライバーが収まっているような感覚があった。新型は違う。硬いフレームのまわりをしなやかな筋肉が覆い、その中に収まったドライバーは程よい弾性を感じながらドライブに集中できるのだ。

一体感ある走りは、カントリーロードでいっそうその威力を発揮した。ノーズの長さはもちろん、広がった車幅もさほどプレッシャーに感じない。細いカーブでトラックとすれ違うような場合でも、車両感覚がちゃんとわかっているからひるむことなく抜けていけた。

ハンドリングの“意のまま感”もまた歴代アストンFRモデルの中ではダントツに素晴らしい。ひょっとするとスポーツモデルの最新ヴァンテージすら上回っている。思いどおりのラインを正確にトレースできるうえ、(ワイドトラックの恩恵で)フロントアクスル左右の支えが強固でしなやかに感じられるから、コーナーの内側ギリギリまで思い切りよく攻め込んでいけた。しかもほどよいニンブルさを伴って……。
 

アストンマーティン ヴァンキッシュ▲最高出力835ps/最大トルク1000N・mの5.2L V12ツインターボエンジンは、通常必要なターボブースト圧より圧力を高めておき、フルスロットルに即座に応答できるようにするブースト・リザーブを備える

これほどまでにハンドリングパフォーマンスが向上した理由は冒頭にも書いたとおり、フロントミッドのエンジン搭載位置を筆頭に、前後の理想的な重量配分(51:49)、新たなダンパーシステムと強化されたシャシー&ブレーキを統合的に制御するシステムの優秀さを挙げることができよう。

なかでも、、後輪の制動力を利用して姿勢制御する「コーナー・ブレーキング2.0」がスポーツドライブを楽しみたい向きに大きな味方になる。オシリが滑り出す限界点が高く、常に地面に張り付く印象が勝っていた。それゆえどこからでも安心してアクセルを踏み込んでいけたのだ。ヴァンキッシュよりも小さくて軽いヴァンテージに勝るとも劣らない制動パフォーマンスであった。

1000N・mの威力にも、知っているはずなのに驚かされる。オート変速+スポーツモードで直線路を走行中、前走の遅いコマーシャルバンを追い抜こうとしたときのこと。対向車線に出て右足に力を込めたその瞬間、前もって準備をしていたかのように(実はそうであることを後から知った)、驚くべき加速を見せた。あっという間に速度計は跳ね上がる。車体が素晴らしく安定し、また速度感がまるでなかったから、小ぶりなグラフィックメーターパネルの速度表示を見て、慌てて右足を緩めたのだった。重量を忘れさせる1000N・mの底力であろう。加えて“ブースト・リザーブ”という加速の準備機能が働いていたことを後から知ったのだった。

加速途中のエグゾーストサウンドも最新モデルにしてはラウドでたけだけしい。これぞ12気筒というノイズやバイブレーションもあって、洗練度の上がったイタリア産とはちょっと趣が違っている。車好きに受けるのはコチラかもしれない。毎日乗るならラグジュアリー度の増したイタリア産だが、週末に山道をかっ飛ばすなら英国産が面白い。

アストンマーティン・ラゴンダ社は12気筒エンジンを積んだFRモデルをヴァンキッシュに限定し、年産1000台以下に抑える予定だ。デリバリーはこの春から。日本上陸が待ち遠しい。
 

アストンマーティン ヴァンキッシュ▲リアの足回りには専用キャリブレーションが施されたビルシュタインDTXダンパーが備わる
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲グリル開口部を大きくするなど空力や冷却性能も高められている
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲インテリアはフラッグシップらしいラグジュアリーな仕立て。スタート/ストップボタンをはじめ、センターコンソールにスイッチ類がまとめられている
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲レザーのスポーツプラスシートを標準装備
アストンマーティン ヴァンキッシュ▲シート後方にはバッグなどを置けるスペースが設けられている
文/西川淳 写真/アストンマーティン・ラゴンダ

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。

V12エンジン搭載のアストンマーティン DBSスーパーレッジェーラの中古車市場は?

アストンマーティン DBSスーパーレッジェーラ

2018年にDBSに代わるフラッグシップとして登場したラグジュアリーGT。DB11をベースに開発、最高出力725ps/最大トルク900N・mを発揮する5.2L V12ツインターボエンジンを搭載する。

2025年1月上旬時点で、中古車市場には35台程度が流通。支払総額の価格帯は2500万~6300万円となる。2023年にDBSシリーズの最終モデルとして世界限定499台のみが販売されたDBS770アルティメットも数台ながら流通している。オープンモデルのヴォランテは5台程度が流通、価格帯は3600万~4400万円。
 

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文/編集部、写真/アストンマーティン・ラゴンダ